第14話 Moon Light Nocturne
キノコの森を少し離れた河原を今夜の寝床と定め、今日仕留めた獲物の解体を始める。リュムは浅瀬でタオルを濡らして身体を拭いている。
あのタオルが随分気に入ったのか、いつも大事に腰帯に吊っている。犬ってのは自分の匂いが染み付いたタオルやクッションが大好きだしな。あれだけ大事にされるとやった甲斐がある。城から貰った物だけど……。
解体を終えると、手頃に切った肉と採取したキノコを、枝から作った串に刺して焼く。今夜はBBQだ。野菜も欲しいところだが、無い物は仕方がない。まあ、漢料理なんてそんなもんだし、子供なら、むしろこの方がいいだろう。肉食え、肉!
ラビットトードの肉は、うまかった。てか何このうまさ! タレとかないのに無茶苦茶うまい。魔獣肉、侮れねぇ。このキノコもなかなかイケる。粥に入れてもいいダシ出てた。敢えて例えるなら椎茸に似てるかな。
リュムも夢中で食ってる。今日は頑張って運動したしな、うん。
食い終わった頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。お腹をポンポコリンにしたリュムが焚火の近くに転がってる。牛になりたいのか? 大きくなれよ!
さて、俺はラビットトードの毛皮を出して、あれこれと思案する。防具には柔らか過ぎるが、防寒具には向いていそうだ。毛の手触りもいい。でも今は寒くないしな。
そこで、これを使って、リュム用のリュックを作ってやる。タオルやカップなんかを入れさせよう。おやつも入るしな。
あれこれ工夫しながら[創造錬金]で作っていく。苦心の末なかなかの物ができた。造りは単純だが背負って胸の前で固定できるようにした。リュムにはちょっと大きいが、すぐに身体のほうが追い着くだろう。
気付くと、目を輝かせたリュムが、ガン見していた。背負わせてやると大喜びでいろんな物を詰め込み始める。当然梨は忘れない。
それを眺めながら、アカシヤのような木を使って水筒を作ってみる。アカシヤっぽいってだけで、材質的に合ってるのかはわからんが、ダメならそれまでだ。
蓋の部分には気を使い、溝による回転式で開閉するようにしてみる。何度か作り直したが、しっかり閉まるのができた。逆さにして振っても水は漏れない。
これをリュムに持たせる。念のために水は持たせとかないとな。リュムはこの蓋が不思議なのか、水を入れ逆さにしては首を傾げていたが、やがて納得したのか、リュックに仕舞い込んだ。それを大事そうに抱えている。気に入ってくれたようだ。
焚火の火が消えたので、[ライティング]を使ってみる。光魔法だけDのままだったからな。使ってないから当然だが。あまり明るいと魔獣を呼びそうだが、まあいい。
高さ三mくらいの所に浮かぶ光の玉。結構明るい。
リュムはそれを真似して、(らいてぃんぐ~! ……出ない、なんで?) とか言っている。出てたまるか!
だが、しばらくいろいろ試していたリュムが、急に大きな声を出す。
「あっわかった!」
わかったって、何がわかったんだ?
「夜を照らす銀月の女神よ、その慈愛にて我らに優しき恵みの光を。……ムーンライト!」
「‼」
俺の出した光の玉の隣に、銀光を発する光の玉が現れた。んなバカな!
「何だ、これ? どうやったんだ?」
「う~ん、よくわかんないけど、ご主人様みたいなのしようと想ったら、頭に言葉が浮かんできたの。でそれ言ってみたらできたよ」
できたよ……って、できて堪るか! いや、できたんだから仕方がない。こいつはいったい何者なんだ……。
試しに[ライティング]を消してみる。銀色の光はとても優しく俺たちを照らしている。寝室照明みたいでムーディーだ。
一緒にいるのが妙齢のご婦人だったら、ロマンチックが止まらないところだろう。横を見る、……こいつじゃなぁ。
にしても、この魔法は……。リュムを再度鑑定してみる。やはりデータが破損しているみたいで全く読めない。試しにジョブの辺りを意識すると、ジョブ欄みたいなのが開いた。もしかして、レベルアップしてジョブが増えたのか?
なら初期ジョブよりは新しいものの方がいいだろう。全く読めないのに、交換してみる。リュム、変なのだったらゴメン!
「わわっ、なんか、強くなったみたい!」
えっ、内緒でジョブ変更したのに、リュムが反応する。俺は全く違いがわからなかったのに、さすがわんこボーイ。野生の勘、恐るべし!
リュムは俺が何かしたのに気付いたらしく、(何したの? 魔法?) とか聞いてくる。
魔王パワーだ、従者の特典だ、とか適当な事言って誤魔化す。満更嘘でもないだろ。
「ねぇ、従者って何? 何すればいいの?」
……衝撃発言が跳びだした。こいつ、わかって無かったよ。
「お前、従者できるもんっ! とか言ってなかったか?」
「できるもんっ! できるけど、何したらいいの?」
普通、そういうのはできるとは言わないと思うが。……ふぅ、考えたら負けだな。
「まぁ、何だ。俺も詳しくないが、主人の身の回りの世話をするのが仕事じゃないか?」
「そうなんだ。うん、魔王様のお世話する! がんばる。ずっとそばでお世話……」
やはり考えたら負けだ。もう寝よう。
ちなみにこの頃のこいつの俺への呼び方は、コロコロ変わっていた。どれがしっくりくるか試していたようだ。まあ、どうでもいいか。おやすみ!
◇ ◇ ◇
さて、今日も今日とてレベル上げだ。朝食を済ませると、早速キノコの森へ行く。山じゃないぞ、森だ。
そして最初は試しに素手で戦わせてみる。武闘家のジョブも覚えさせたい。選択肢は一つでも多く持つべきだ。
マッシュルンに果敢に挑むリュム。今日のリュムは一味違うぜ!
ぺちっぺちっぺちっぺちっぺちっぺちっ…………。激しく戦うリュムとマッシュルン。
……お砂場での園児のケンカか! 手に汗握りようもない。はぁ、もういい。素手の戦いはもっと強くなってからだ。
改めてナイフを装備させる。そして1日、リュムはナイフで、俺は魔法で、敵を倒し続ける。確かにリュムの戦闘力は、昨日より上がっていた。上位のジョブに変わると、こうも違うもんなんだな。
その日の夜、晩飯を食ってから、リュムに銀の光を出させる。魔法が使えるなら、しっかり使わせてランクを上げさせよう。もしかしたら凄い魔法を覚えるかもしれないしな。
明日はラビットトードの林に行くことをリュムに告げる。(梨、採るの?) と嬉々としてはしゃぐリュムの頭に、拳骨を落とす。
「まだアホほど残ってるだろうが。お前がラビットトードと戦うんだよ!」
「えっ、やだ。恐い」
とかぬかす子犬。
「知らん! 決定事項だ。わかったらさっさと寝ろ」
◇ ◇ ◇
翌朝、例の林を目指しながらリュムに戦い方を指導する。こいつはわんこだけあって、動きが俊敏な上、走るのも速い。魔王になる前の俺では捕まえるのは無理だろう。餌、ちらつかせる高等技を使わなければ、だがな。
さらに、嗅覚だけでなく聴覚、視覚とも鋭敏だ。これを戦いに活かさない理由がない。
そこで俺が指導した戦法は、相手の動きをよく見て、最小限の動きで躱し、隙を狙って一撃いれ、体勢を立て直して、再び隙を狙う。要はヒットアンドアウェイ戦法だ。
こいつは結構スタミナもあるみたいだし、攻撃主体の俺と違い、時間をかけて、相手を疲労させていき、相手のスタミナと集中力を削っていく戦法のほうが合ってるだろう。防御力低そうだし、何より安全だ。ちゃんと躱し続けられれば、だがな。
ドスッ。あっ、リュムがふっ飛ばされた。ちゃんと躱せっつったろうがよ!
追撃をかけようとするウサガエルの首を刎ねてから、駆け寄り、涙目で鼻血を垂らすリュムに[ライトヒール]を掛ける。
「ううっ、痛い。跳んできた。ズルい」
いや、跳ぶだろ、ウサギ、いやカエルか? どちらにしろ跳ばない方がびっくりだわ。ズルいって何だ、ズルいって! こいつには、【兵は詭道なり】という神言を教え込まねばならんな。【孫子 十三篇】を叩き込んでやる。殆ど忘れてるけど、俺にはアレクサンドラ先制がついていらっしゃるからな。覚悟しろよ!
「ほら、立て! ズルい相手に負けるのは、ただの弱虫だ。ズルい相手に勝ってこそ、魔王の家臣だぞ。ましてや、お前は魔王の一の家臣だろうが。ズルい奴なんかに負けてどうする」
「うん、負けない! ご主人様の従者だから、絶対負けない。カッコイイ従者になる!」
カッコイイ従者って何だ? 言葉の意味はよくわからんが、とにかく凄い自信か?
それからのリュムは変わった。躱す、躱す、躱す、そして刺す。蝶のように舞い、蜂のように刺していく。ラビットトードの跳躍攻撃が二度と当たる事はなかった。鼻血を垂らすことも……。
リュムの成長は目覚ましい。もうラビットトードでは相手にもならない。途中から小声で何かブツブツ言ってるのに気付く。
「お肉が1匹、お肉が2匹、……」
……狩る気、いや食う気満々だ。食肉にしか見えてないんだろう。既に20体は倒しているが、息は上がっていない。俺、みてるだけ!
その夜は、懐かしいあの岩場で過ごした。俺がこいつと初めて逢った場所だ。
リュムにねだられて、例の粥を作る。どうやら気に入っていたらしい。収納していた焼きたてBBQも出し、なかなか豪華だ。デザートは梨だな。葡萄も見つけて採ってある。
食後に今日狩ったラビットトードの解体をする。それを隣で見ているリュム。やはり自分で狩った獲物は格別なんだろう。興味津々だったので、やってみるか? と聞くと、目を輝かせて跳びついた。まったくワンコは好奇心旺盛だな。
それからリュムに解体を教えていく。最初はかなり肉と毛皮を無駄にしたが、4体目くらいからは結構上手くなっていた。
そして二人並んで岩に凭れて眠る。俺はどうも野外では、横になって眠れない。臆病なことだ。それを恥とは思わんがな。
リュムはいつの間にか、俺の太腿を枕に眠っている。ヨダレ垂らすなよ…
…。
リュムの出した、月光を浴びながら、優しい時間が流れて行く。こんな時間がいつまで続くのだろうな? 眠りに落ちながら、俺はそんなことを、誰かに問い掛けていた。




