第2話 君の名は
ズズズッ、このお茶、結構いけるな。花のような香りで、仄かに甘い。
俺は今、神殿のような荘厳な建物の中で、白い大理石のテーブル席について、女神を語る金髪碧眼の綺麗なお姉さんとお茶を飲んでいる。なぜこんな事になっているのか? それは俺が聞きたい。わかる人がいたら、是非教えて欲しい。
「と、言うわけなんですよ。だから、その、決して私が悪いわけではないのです。そこはわかって頂けましたよね!」
全くわからん。さっきから自称女神が、くどくどと何か言い訳を続けているが、一向に話が見えてこない。
いるよね、こういう言いたい事をまとめられずに、思いついた事を口にするから、結局何が言いたいのか全く伝わってこない人って……。
そしてこういうタイプは、往々にして、話が通じないのは、相手の理解力が足りないせいだと決めつけているものだ。だから改善はまず望めない。
ふぅ、これじゃあ埒が明かんな。仕方ない。
「あの、とりあえず、こちらが質問しますので、答えて貰えます? ああ、神界の掟だとか、ストーリー上ここでは、とかの理由で話せないとかならそう言ってもらえれば、それ以上聞きませんし。聞いたってどうせ教えてくれないんでしょ」
「はあ、なんか私、信頼ないですね。女神なのに、あなたの理想の恋人候補NO.1なのに」
「それは忘れてくれませんか? ただの軽口だったので、いつまでも引っ張られたら、やりにくいんですけど……」
「えっ、軽口って! 告白じゃあなかったんですかあ? 酷いですぅ。女神弄ぶなんて神界法違反でA級戦犯ですう。神罰覿面ですう。わっ私だって、別にその気になってたわけじゃないんですからね! 悲しくなんてないです。ホントです」
この人、チョロいな。ってか、これで女神とか、やっぱりただの自称か? どこまで信じていいのやら。
「チョロいって何ですか! 自称じゃなくて誰もが認める女神なんですよ私は。信じて安心、信じる者は救われます。ほら、何でも質問してください。今なら女神に質問し放題です。アタックチャーンスです。あっ、でも、エッチな質問はダメですよ。スリーサイズも厳禁です。女神のヒ・ミ・ツ♡、です」
やべっ、心の声聞こえるんだっけ? でも、どんどん胡散臭くなってくな、この女神。
まあいいや、いちいち気にしていたら負けな気がする。とにかく話を進めよう。
「ではまず、あなたのお名前は?」
「はい、来ましたあ! 知りたいですかあ? 聞いちゃいます? 女神の名前聞いちゃいます? 仕方ないですねえ、ホントは簡単に教えたりしないんですよ。私そんな軽い女神じゃないんですからね。あなただけ特別ですからね。私の名前は、○△&※♯♡です。気軽に○△&※♯♡ちゃんって呼んでくれてもいいんですよ」
「あの、肝心なところだけ、なんか良く聞こえませんけど、放送禁止用語か何かですか?」
「私、そんな卑猥な名前じゃありません! そうでした、神の名前ですので神格の低い人間には理解できないんでした。困りましたねえ、どうしましょう。そうですね、仕方ないので、女神様とでも呼んでください」
いきなり様付け要求されたあ! まあ、神だしな、ちゃん付け要求されるよりましか。
「じゃあ、次はーーーー」
「ダメです! 年齢も恋人の有無も下着の色もお答えできません。応えても文字化けします。絶対です」
聞かねえよ、そんなもん! いや、下着の色にはちょっぴり興味はあるが、まあそれはおいおいだ。なんかこの女神ならいつでもいけそうな気がするしな。
「あの、いけそうって、そんな女神相手に、ふしだらですう。鬼畜の企てですう。女神のピンチですう」
いろいろと面倒臭い女神とお茶しながら会話を続ける。
「冗談はこの辺にして、話を進めましょう。とりあえずここどこですか?」
「冗談って、私はずっと真剣に、ってまあいいです。そうですよね。まず、そこからですよね。はい、あなたの想像通りです。ここはあなたのいた世界から見て、いわゆる異世界という事になります」
……いっ異世界? 田舎のテーマパークじゃなくて?ハーハッハッこのネーちゃん、可愛い顔して冗談キツイぜ! あっあれか? イメクラ【異世界】とかか。
俺こんな明るいうちからなんちゅう店に来てるんだ。いや待て、このお姉ちゃんのクオリティーといい、店の内装といい、絶対高いよな、ここ。
「あの、ごめんなさい。今更ですけど俺あんまり持ち合わせが無くて、キャンセルしてもいいですか? いえ、決してあなたが不満とかじゃなくて、チェンジじゃなくてキャンセルでお願いします」
一縷の望みにかけて、脱出を試みる。イケるか?
「チェンジ? キャンセル? どういう事でしょうか?」
「違うんです! 知らずに入っちゃったというか、気付いたら入ってたというか。ここって何のお店かなぁって。あっ、待って、恐いお兄さんとか呼ばないで!」
「ちょっと何言ってるのかわからないんですけど、とりあえず話を進めますね。この世の中にはいくつもの並行世界があり、それぞれ異なった理の元に存在しています。ここはあなたがいた世界とかなり近い理の世界ですが、全く違う世界です。ああ、名前なんて無いですよ。神ですら基本その世界内での存在ですから、自分のいる世界にわざわざ名前を突けるような酔狂な神はいません。あなただって、自分のいた世界の名前なんて知らないでしょ?」
確かに世界名なんて知らないな。異世界モノのラノベなんかでは、良く元の世界の事を【地球】って呼んでるけど、それは星の名前であって、世界の名前とは少し違うよな。
漫画やラノベじゃあ、『ここは異世界なんちゃら』、とか当たり前のように異世界名があったりするけど、あれって不自然っていや不自然か。
まぁ、一番不自然なのは、この自称女神の語るエキセントリックな空想科学物語を簡単に受け入れようとしている俺自信なんだが……。
「で、何で俺はその、異世界とやらにいるんでしょうか? もしかしてあなたに召喚されたんですか? いわゆる、[異世界召喚]とかそういうやつで」
「えっ私が? あなたを? 召喚? あのですね、あなたをわざわざ召喚する理由って何ですか? すごい学者や、松平健似の超絶男前ならわざわざ呼ぶ価値もありますが、一般人を召喚する意味がわかりません。この世界、別に過疎化で困ってたりしてませんよ。というか、自分に召喚される価値があると思うなんて、人ってホントにかわいいですねえ。クスクス」
ぐぬぬ、この女神、だんだん腹立ってきた。まあ、言ってる事はその通りだが。一般人で悪かったな。松平健って暴れん坊のファンなのか? ここで俺が暴れてやってもいいんだぞ!
「冗談ですよ。あなたが気軽に女神をからかうから、お返しです。なんか楽しいですね。紅茶もう一杯頼んでいいですか?」
「バカップルのデートじゃねえんだよ! マジで応えられない事聞くぞ、コノヤロー」
「ごめんなさい、調子に乗りました。怒らないでくださいよぉ。久しぶりにお話したのでなんか楽しくなっちゃって。あっ私、別にボッチじゃないですよ。たまたま最近一人が多かっただけで、とっ友達だってそれなりにいるはずです。いえ、ちゃんといますから、そんな目で見ないでください。涙目なんかになってません。ホントですよ。まあ、それはいいとして、召喚ってのはあながち間違ってはいないんですよ。でも、決して私が召喚したわけじゃないですし、上司や同僚の失敗召喚の尻拭いを押し付けられたわけでもないんです。信じてください。説明が難しいんですけど、なんというか、長い話になりますが、きいてもらえますかぁ?」
「できれば四百時詰め原稿用紙二枚以内でお願いします」
「うう、容赦なく女神を追い込む人ですね。そんな簡単に説明仕切れるような単純な話じゃないんですよぅ。それに私の話って、あんまり理解してもらえない事が多いというか、大体私は理数系なんです。計算とかすっごく速いんですよ。残念ですねえ披露できなくて。私が華麗に数式解いてる姿なんか見ちゃった日には、即一目惚れですよ。お米じゃないですよ。もう女神の虜です。ほんと残念です」
確かに残念な女神だという事はよくわかった。
「とりあえず聞きますから、ゆっくり話してください。後、お茶のお代わりお願いします」




