第11話 リュミ、リュミュ・リュム
安心したら腹が減ったので、魔王城から持って来た食料を食べ、腹ごなしにちょっと剣の素振りをする。昨日闘った魔物をイメージして身体の動きと剣筋を確かめる。
そして汗を拭って、眠る子犬の横に座り、キレイにしてやった服を確認する。うん、ボロボロだな。特に背中に開いた傷跡の穴が哀れだ。背中剥き出しで旅してた自分を思い出す。これ着せるのはちょと……。よし、やってみるか。
服を鑑定する。子供用の麻服 品質:最低 最低って、まあボロボロだしな。
よし、俺はそのボロを掴んで想像する。これがキレイなところを。そしてさっき見た鑑定結果を念頭において、[創造錬金]を発動する。
パチっと何かが手の先で弾ける。おお、成功した。服の穴が塞がり、新品の麻シャツとズボンになった。凄いな、やってみるもんだ。魔王みたいな凄いスパークはなかったが、まあ、あれとはレベルが違うか。
なら、もしかして。俺は[次元収納]に入れてあった、破れた俺の服を取り出す。数少ない前世界の遺産だ。そして早速[創造錬金]を使う。
やった! 直った、新品みたいだ。俺スゲエ、メタリックな錬金術師みたいだ。でも着る事はないので収納しておく。
いや、待てよ。上着やこのズボンは着ないだろうが、シャツやパンツは着たいぞ。この世界のパンツはもっさりブリーフをダルダルにした感じのものが一般的みたいだしな。ボクサーパンツ愛用者からすれば、履いてる気がしない。シャツも慣れだとは思うが、ゴワゴワしてて着心地は良くない。靴下なんて、筒状の布に足を突っ込んでる感じだ。はっきり言って気持ち悪い。
もしも[創造錬金]で俺の世界の衣類を作れたら? 素晴らしい! 快適ライフが俺を待ってるぜ。いやむしろ、大量生産できたら大儲け間違いない。魔王は夢を膨らませながら、レベルアップと錬金の研究を誓うのであった……。
魔王になっても庶民感覚を忘れない俺。世界の為政者たちに見習わせたいね。まあ、政治家に庶民感覚強要する昨今の風潮は全く理解できないんだが。大臣が庶民スーパーの物価知らなくて何が問題なんだ? 文句言ってる主婦たちの旦那や息子はちゃんと知ってるんだろうな!
さて、する事がなくなった。俺も少し寝るかな。木に凭れてウトウトする。
どのくらい経っただろうか、何かに見られている感じがして目を開ける。周囲の気配を探り、意外に近い事に気付く。すぐ横を見ると、ブランケットにくるまった子犬が目を開けていた。
「おっ、目が覚めたか? 気分はどうだ?」
ブランケットの中から、こちらを見ていた子犬は、ビクッとしてブランケットの中に隠れる。何を今更、シャイボーイか? 気が合うじゃねえか、俺もシャイなあんちくしょうだからな。
「どうした、どこか痛いのか? 傷は治したつもりだったが」
ブランケットの中でフルフルと首を振ってるようだ。じゃあやっぱり恥ずかしいのか?
「お前は一応俺の家臣って事になってるんだからな。恥ずかしくないから顔出せよ」
もそもそとブランケットが動き、灰色のボサボサ髪が顔を出す。三角耳がピンと立っている。……のだが、起き上がった際、ブランケットが腰までずり落ちた途端、ビックリしたように慌ててブランケットを被り直す。
どうしたんだ? なんかワタワタしている。そしてゆっくり顔を出して、小さな声で言った。
「ハダカ。服どっか行っちゃった」
「ああ、服ね。汚れてたからな、キレイにしておいた。ほらっここにある」
渡してやると、手だけ伸びてきてブランケットの中に引っ張り込む。そして顔だけ出して、目をそらしながらボソッと言う。
「ぬ、脱がしたの?」
「そりゃ脱がさないと、着たままじゃちゃんとできないだろ。何かまずかったか?」
「……できないって、…………カバァってしたんだ! うう、寝てるまにガバァって」
「ガバァッて何だよ、ガバァッて! お前何考えてんだ。危ねぇガキだな。俺にお稚児趣味はねえ。ノーマルど真ん中だ。ちとストライクゾーン広めだけど」
「そうなんだ。……何もしないんだ。ぅぅぅ」
何かブツブツ言いながら、服を着ている。ブランケットの中で器用だな。
そしてブランケットから出てくると、意を決したようにこちらを向き、口を開こうとしたその時、『ぐぅ~』…………。顔が真っ赤になった。面白い奴だ。
「何か食えそうか? いきなり固形物は無理か」
カップと木さじを出す。朝の内に梨モドキを潰して果肉入りジュースにしておいたものだ。
「ほら、食べさせてやろうか?」
そう言い、さじで救って見せる。
「あの、自分で……できます」
おずおずと言う子犬。そういや名前聴いてなかったな。まあ、まずは腹が膨れてからだ。
カップとさじを渡してやると、そっと口に運んでいる。一口飲むと、目を見開いて一生懸命飲みだした。そして噎せるというお約束を披露する。
「まだあるからゆっくり飲め。うまいか?」
「うん、おいしい。あの時くれたおいしい食べ物の味。……おいしい」
目から涙が溢れている。そんなにひもじかったのか? まあいい、ゆっくり味わえよ。
無心にさじでジュースを救い、口に運ぶのを眺めながら、俺も水を飲む。[ウォーター]で作った水だ。ホントに魔法って便利だな。ダンジョンに長期潜るのも可能だろう。
一息ついたようなので、いろいろ聴いてみる。
「とりあえずお前名前は? ああ、俺はラングリードだ、ってさすがに覚えてるよな」
こくん、と頷いてから、オドオドとした態度で口を開く。
「リュミ! ……リュミュ……? ……リュム」
三段活用か? 活用法を教えてくれ。
「で、どれだよ。どれでもたいして変わらん気もするが」
「……リュム。ダメ?」
「ダメって何だ、ダメって。お前の名前だろうが! リュムでいいんだな?」
そこで気付く。鑑定すりゃいいじゃん。フフフ、これが大人の知恵だ。ズルいだと、アたぼーよ! 大人はズルくて卑怯なもんなんだ。よく覚えておけ!
「お前のこと、鑑定するけどいいよな? 拒否は認めん!」
「えっ、ズルい。わぁ、ダメ、そんなの見ちゃダメェ」
何だよ。誤解を受けるような言い方はやめろ。そんな事言われたら……、余計見たくなるじゃないか。一体何を隠してんだ? どれどれ[鑑定]っと。
名 :リュ 種族: 族 性別 年齢:1 歳
何だこりゃ。あちこちのデータが壊れてる? 死にかけたからか? まあ仕方ないか。
「お前の鑑定データ、壊れててほとんど見えねえわ。元気になった時にまたな」
「ホッ、よかった……。でも……ごめんなさい」
んっ? 何か言ったか? だが、リュムは遠い空を眺めていた。
少し疲れたようなので寝かせる。ブランケットに潜るなりすぐに寝息を立てだした。
さてっと、俺は少し離れた所に収納していた魔物を取り出し、解体する。ラビットトードはおいしいらしいからな、無駄にはできない。魔王城から干し肉をいくらか持ってきてるけど、二人前必要になったしな。これからは倒した魔物の肉や素材は無駄にはすまい。
慣れない解体に悪戦苦闘するが、数時間かけて十数体あった魔獣を肉に変える。そしてそれを[次元収納]に入れる。この時、いろいろ試してみた。アレクサンドラが[「次元収納]は内部を区分けしたり時間の流れを変えられそうだとか言ってたのを思い出し、ああでもないこうでもない、とやっていると、何となく区画に分けられた。
武器や道具を入れている場所とは別に、2m³くらいの区画を2つ作り、肉をそれぞれに入れる。そして仮称[食糧庫A]の時間を止めてみる。[食糧庫B]はそのままだ。ホントに止まってるのかどうかは、結果を見てのお楽しみだ。
その後、夕食を作る。ジュースをしっかり飲んでたしな。多少固形物でも大丈夫だろう。
[アースまニピゅレート]で苦心して竈っぽいのを作り、拾い集めた枝木に[ファイア]で火を着ける。城から持ってきた鍋に水を張り、干し肉を細かく刻んで入れる。干し肉は塩辛いので、少し煮ないと子供にはきついだろう。そこに大麦っぽい穀物、勿論城の倉庫から持ってきた物を入れ、弱火でゆっくり煮てゆく。残念ながら米は見つからなかったんだよな。
そこに香草と森で採取しておいたキノコを刻んで入れる。[鑑定]があると毒キノコを心配する必要もない。言っとくけど、マッシュルンじゃないからね。
それをじっくり煮込んで、最後に香ばしい香辛料を少し足す。これでどうだろうか?
味見してみたが、なかなかいける。ちょっと味の薄い中華粥っぽいのができた。病み上がりには、このくらい薄味の方がいいだろう。
俺はできた鍋に蓋をして、[食糧庫A]に入れておく。
だいぶ日が傾いてきている。俺はリュムを起こさないように、少し離れた場所で、剣の素振りをし、ひと汗かいてから[ウォッシュ]で全身をキレイにし、リュムの元に向かう。
ああ、それとステータスを見ると、剣士がLv.2になっていた。魔王は相変わらずLv.1のままだけどね。ホントに上がるのか、これ。
そして焚火をおこし、料理の時に余った干し肉のかけらを齧りながら、リュムが起きるのをゆっくりと待った。




