第8話 魔王大地に立つ‼
とうとうこの日が来た。遂に魔王の修業を終え、城外に武者修行に出るよう、魔王より言い渡されたのだ。と言うとなんか何年も修業していたように聞こえるけど、まともに修業したのは一日だけだ。要は基礎は仕込んだから後は勝手にやってこい、って事らしい。
装備は訓練で使った物をそのまま貰った。魔鋼鉄のバスタードソード、魔獣革の鎧、魔獣革のブーツ、魔獣革のグローブ、そして念のため、鋼鉄のブロードソードとラウンドシールドも持って行く。また、予備武器兼生活補助用品として、大振りのだがーとナイフを1本づつ持って行く。後は着替えとタオル、ブランケットに木のカップと皿といった細々とした物。そして食料だ。
水は[ウォーター]があるからな、魔法で生み出した水は、ちゃんと飲めるらしい。これを全部詰め込む。食料は、狩った魔物の肉を食べるから数日分でいい。調味料は多少貰っていく。ふう、こんなもんかな。
……修学旅行じゃないんだから、どんだけ大荷物なんだよ! って思ったろ。ふん、俺を凡人と一緒にするんじゃない。俺には[次元収納]があるんだよ。何でも入れ放題。試してみたけど、食べ物入れても問題ないみたいだ。ホント便利だよね。
それとアレクサンドラから、簡単な魔獣の解体をレクチャーされている。そういうスキルもあるらしいけど、持ってないからね。
俺の解体のヘタッピぶりに呆れたのか、魔王が餞別だと1本のだがーをくれた。鋭そうだけど、なんかデザインがトゲトゲしてて、ヤバそうなダガーだ。鑑定してみると、ヴァンパイアファング スキル:吸血、とでた。何この恐い刃物? アレクサンドラの説明によると、これは刺した相手の血を吸い取る効果があるダガーらしい。武器としても強力だが、獲物の血抜きに最適とのこと。吸った血は装飾についている宝石に蓄えられ、任意で先端から放出できると。血が有用な素材となる魔獣もいるらしいからね、とことん便利だ。ちなみに秘宝の類らしい。
こんなのポンとよこすとは、さすが魔王だ、太っ腹だね。と思ってたら、代わりに一つ用事を頼まれた。
「貴様、洞窟を出た時、扉を閉めてこなかったであろう。おかげで洞窟内の濃い魔素が溢れ出てきている。閉めてこい!」
だそうだ。あっ、やっぱり開けっ放しだったんだ。ごめんなさい。素直に引き受ける。だって悪いの俺だしね。実はちょっと気になってたんで、どのみち見に行くつもりだったんだ。
そうして遂に表に出る。おおっ太陽が眩しい。木々の緑も大地の色も眩しい。自然の美しさに感動しながら俺は魔王として初めて大地に足を踏み出した。
「これは一人の魔王としては小さな1歩だが……」
やめとこう! 名言はパクるまい。
俺は両足で大地を踏みしめる。【魔王大地に立つ‼】 心踊る物語が紡がれそうだ。まだ見ぬ赤いライバルと出逢うのが楽しみだぜ。俺は生き延びることができるか?
こうして俺は旅立った。革鎧姿で腰には剣を佩びている。恥ずかしい、だがすぐに慣れるさ。イタいコスプレ男や映画のロケじゃありませんよ。写真は撮らないで! UPしないで!
少し歩いてから振り返る。魔王城の全貌が望める。岩山と一体化したような如何にもな形状をしている。うん、さすがは魔王城、こうじゃないとね。ネズミーランドのお城みたいだったらどうしてやろうかと考えてたんだが。今度花火でも上げてやろうか。
城を出て道なりに進んで行く。この辺りは道だと気付いて歩いてきたから、何となくわかる。
しばらく行くと小川があり、粗末な橋が架かっていた。こんなの渡ってない。いや、何度か小川の浅瀬を歩いて渡ったりはしているが……。って事は、ここはもう通った事のない場所だ。
アレクサンドラから、まずは橋を渡ったすぐ右側の森が初級者戦闘向けだと教えてもらっている。よし、軽く初戦闘といくか。扉を閉めるのはその後でもいいだろう。
俺は勇み足で森に向かう。魔物は恐いけど、魔王との修業で少し自信が持てた。弱いのしかいないって聞いてるしね。ここは強気でいこう。いざ、出陣!
……何かいる! 妙にジメジメした森に入るなりそいつらと遭遇する。子供ぐらいの身長で全身真っ白な変な奴。昔TVで見た[ラージノーズグレイ]を一回り小さくして真っ白にしたような気持ち悪い何かだ。迷わず[鑑定]。おっ出た出た。
マッシュルン 種族:菌糸魔人 HP10/10 湿った森などに生息する。菌糸を残す。
……それだけ? 情報がそれだけだった。何かあるだろ普通。書く事ない程弱いのか?
とりあえず近付いてみる。3体がこちらに気付いて向かってくる。よし、行くぞ!
「魔王剣、Lv.1斬り!」
俺は腰の剣を抜くと、踏み込みと同時に右薙を一閃する。
……弱っ! 3体のマッシュルンが胴で上下に両断されている。あまりの手応えの無さに呆然としていると、シュウシュウと音を立て溶けだした。そして何か白い物だけが残る。
これが菌糸か。一応鑑定しておく。
菌糸:菌糸魔人が残す 薬の材料 食用不可 らしい。とりあえず拾っておこう。いつか役に立つかもしれないしね。貧乏症なんだよ。
とにかく弱いので狩りまくる。20体程狩ったところで何か目立つ奴がいるのに気付いた。1体だけオレンジ色してるし、そりゃ気付くよ。何だあの毒キノコみたいな色の個体は?
オレンジマッシュルン 種族:菌糸魔人 HP15/15 マッシュルンの亜種 弱毒性 そのままやな。弱毒って……。まあ俺、[アンチどーと]使えるからいいか。殺っちまおう!
特に問題なく倒せる。色以外違いが感じられない。残った菌糸もオレンジだった。毒毒しいな。素手で触って大丈夫か? ああ、俺グローブしてたっけ。迷わず拾う。
その後も3時間くらい狩りまくる。結構倒したはずだ。数は数えていない、途中で忘れた。
そろそろ飽きっ、いや疲れたのでこの変にする。だって一方的な虐殺になってるし。一度試しに攻撃を受けてみたが、なんか掌でペチペチ叩いてくるだけだった。当然ダメージはない。なんか子供がじゃれついてきてるみたいで罪悪感が湧いてくる。
「俺は魔王、非情な男なのさ!」
とニヒルにキメて斬り続けたが、さすがに飽きっ、いや疲れた。森を出る事にする。ちゃんとお遣いも終わらせないとね。
森を出ると、太陽が眩しい。そこで思い出す。城を出る時、魔王からグラサン掛けとくように言われてたんだった。もう掛ける必要はないんだが、魔王が言うには、(修復した際、あまりに脆いので、性質は変えずに、頭部の防御能力を付けておいた。並みの兜より防御力は上だ) だ、そうだ。できれば兜着けたくない俺には、ありがたい限りだ。
スチャッとグラサンを掛ける。うん、しっくりくる。10年間自宅以外ではほぼ掛けてたからね。まあ、太陽も眩しくなくていいか。夜はどうなるかな? 見にくかったら外そう。
そうだ、ついでに自分を鑑定しておく。アレクサンドラから戦闘後はステータスを確認しておくように言われてたんだった。[鑑定]っと。おおっこれは!
何と[旅人Lv.1]がLv.5になっている。四も上がったの? まあ、数は倒したけど。勿論[魔王Lv.1]は変わってない。初期ジョブなんてそんなもんか?
そこで、[旅人Lv.5]に注目する。おお、選べるジョブが増えている。その欄を確認する。[旅人Lv.5][戦士Lv.1][剣士Lv.1][武闘家Lv.1][盗賊Lv.1][魔王Lv.1]とある。もっと見る。
戦士:武器で敵を倒した者 攻撃小+ 防御小+。剣士:刀剣で敵を倒した者 攻撃小+ 敏捷小+。武闘家:素手で敵を倒した者 素手攻撃小+ 防御小+。盗賊:倒した敵から素材を奪った者 俊敏小+ 気配減少。ってな感じだ。倒し方によってかなり変わるんだな。武闘家? そういや試しに素手で殴り倒したっけ。
どうしようかな? 基本は戦士だろうけど、ここは剣士でいくか。第1ジョブから[旅人Lv.5]を外し、[剣士Lv.1]にする。普通の[鑑定]では第1ジョブしか見れないとの事なので、[魔王Lv.1]は第2以降にしておかないとな。
ちなみに本来はジョブを変えるには、ギルドや神殿に行く必要があるが、俺は自分だけでなく主従契約を結んだ家臣のジョブもいじれるとのこと。魔王特権らしい。ご都合主義もここに極まれり、だな。
まあ、俺は自分に損がない事なら大抵は認める主義だからな。特に文句は言わない。
さて、扉を閉めに行こう。
道なりに二時間も歩くと扉が見えてきた。俺、どんだけ遠回りしてたんだよ。トホホだな。
にしても、思ってたよりずっと立派な扉だ。重厚感が半端ない。一m程の隙間が開きっぱなしになっている。誰だよ、ちゃんと閉めなかったのは!
少し中を伺ってからすぐに閉める。中には入らない。
魔王曰く、この洞窟は魔王城防衛の要所ゆえ、かなり強力な魔物を放っているらしい。今の俺なら瞬殺されるレベルだってさ。よく生きてここを抜けられたもんだ。ホントあの杖さまさまだな。ああ、あの杖は[次元収納]に入れてある。でないと魔物が逃げちゃって戦えないからね。
魔物が扉から出ていないか心配だったけど、それはないとのことだ。魔獣でも高位なので、洞窟守護の命令はちゃんと守るらしい。
滝の音を聞きながら、あの時水浴びした川に行く。川面はとても澄んで魚が泳いでいる。顔を洗い、一口飲んでから、歩きだす。
一週間程前に辿った道なき道を探しながら歩く。最初は川沿いに歩いたはずだ。道からどんどん離れて行く。よく最終的にあの城に辿り着いたものだ。
雑木林に入ると、いきなり白いのに襲われる。大型のウサギみたいなカエル、カエルみたいなウサギか? 体高1m程のウサ耳生やしたカエルみたいな魔物だ。カエルにウサ耳ついててダレトクなんだよ。
鑑定の結果、ラビットトード 魔獣 HP50/50 高い跳躍力を持つ 肉は美味 と出た。捻りのない名前だな。哺乳類か両生類かはっきりしてくれ。いや、どちらでもなく魔物か。
近付くと、いきなり跳び掛ってきた。すんでのところで躱すが、モロに当たっていたら、ダメージは受けただろう。二度目の突撃に合わせ、剣を突き刺す。動きが止まったところでトドメを刺して終わりだ。キノコよりは大分強かったな。肉がうまいそうなので、血抜きだけして収納する。でないと肉が臭くなるからね。
ヴァンパイアファングはかなり便利だ。秘宝級の武器をこんな事に使っていいのだろうか? いいんだよ、俺が許可する。
その後も何体か襲ってきたウサガエル、いやラビットトードを狩り、血抜きだけして収納していく。解体して肉にしておいた方がよいのだが、今は急いでいる。時間ができたらその時だ。
……、急いでいる、なぜだ? 俺はなぜ急ぐんだ? 急ぐ理由がどこにある? わからない。だが、急がないと、そう、急がないといけないんだ。
俺は理由のわからぬ胸騒ぎを覚えながら、先を急いでいた。




