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魔王の名を継ぐ者  作者: 無明流一刀斎
第二章 魔王誕生
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第7話 魔王への道

 広い訓練場の中央で大の字になって荒い息をつく俺。全身の細胞に酸素が行き渡り、徐々に呼吸が落ち着いてくる。回復……か。そういやそんな魔法も持ってたな。


 右手を腫れ上がった左頬にかざして、[ライトヒール]を唱える。優し気な薄緑色の光が手から広がり、暖かく患部を癒していく。凄いな、もう腫れが引いて、痛みが無くなった。


 次は左肩。そうやって痛い場所に次々と[ライトヒール]をかけていく。十ヵ所くらいで身体の中の魔力がほぼ無くなるのを感じた。


「連続で10回ですか。昨日初めて魔力を感じたとは思えない魔力量ですね。さすがはラングリード様です。『ヒール! スタミナヒール!』」


 アレクサンドラが俺を支え起こしながら、魔法を詠唱する。一瞬で全身の怪我けががキレイに治っただけでなく、尽きていた体力が戻り、訓練前の状態に回復する。


「凄いな、アレクサンドラの魔法は! 助かったよ、ありがとう」


「いえ、私に礼など不要です。昼食を用意致しますので、ラングリード様は、湯殿ゆどので汗を流してから休んでおいてください」


「わかった。そうさせてもらうよ」


「それと、昨日も申しましたが、魔法は使う程ランクが上がり易くなります。それに魔力量を上げるには、できるだけ魔力が枯渇こかつするまで使う方が効率がよいものです。実践では魔力を使い切るのは愚策ですが、訓練中はできるだけ毎日魔力を使い切るようにしてください」


「ああ、わかった。そうするよ」



  ◇  ◇  ◇



 俺は湯殿ゆどので汗を流し、自室のベッドで横になる。さっきの魔王との訓練が思い出される。


 構え、踏み込み、打ち込み、体裁たいさばき、何度も打たれて動きが安定していくのがわかった。何がまずかったのかもっすらとわかってきた。最後のほうは、かなり無駄の無い動きができてたんじゃないだろうか?


 すぐにでも剣を振って、型を確認したい衝動を抑える。ただがむしゃらにやればいいというものでもない。休む時は休まないとな。身体は魔法で回復しているが、頭が身に着けた事を反芻はんすうする時間が必要だ。

 

 俺はゆっくりと目をつぶる。




 いつの間にか、少し眠っていたようで、食事に呼ばれてめざめる。食欲はある。普通あれだけ動けば水以外は喉を通らないものだが、身体が栄養を求めるかのように食いまくる。


 その後、小一時間休憩し午後の訓練に向かう。




 訓練場に行くと、既に魔王が待っていた。どうでもいいが、こいつは飯を食ってるのか? 酒は呑んでたが、何か食べているところを見た事がない。魔王の生体は謎だ。


「とりあえず、脱げ!」


「……、……、……。俺に男色の気は無い! 他を当たってくれ」


「やかましいわ! 防具を脱げと言っておるのだ」


 ああ、防具ね。びっくりした。いくら恩人でもこればっかりはなぁ。とりあえず鎧とブーツ、グローブを外す。服は脱がない。絶対だ!


 魔王は俺の外した防具一式をつかむ。すると例のスパークが起こる。



「よし、いいぞ。着けてみろ」


 言われた通り、脱いだばかりの防具を着け直す。何の意味があるんだ?


「おいっ、着け直したけど、これがどうしたんだ?」


 言いながら軽くジャンプしてみる。……ん? 軽く走ってみる。……あれ?


「何だこれ? 妙に動き易い。もの凄くしっくりくる。まるで俺のためにオーダーメイドしたみたいだ。[錬金]で微調整してくれたのか?


「どうだ? 変なところはあるか?」


「いや、完璧だ。身体にくっついてるみたいで、着けてる事を忘れそうだ。いや、むしろ着けてない時より身体の動きがいい気がする」


「本当に身体にあった防具というのは、そういうものだ。貴様も[創造錬金]が使えるならその事を心得ておけ。それはそうとして、着いて来い」



 俺を待たずに部屋を出て行く魔王を追いかけると、例の武器庫に入って行く。そして何本かの剣を選び並べだした。俺のブロードソードよりも長い物ばかりだ。


「貴様はなかなかに上達が早い。もうこのくらいの剣で問題なかろう。それと貴様の動きと癖を見るに、片手剣と盾よりも、両手剣の方がよかろう。そこから具合の好い物を選べ」


「おいおい、数時間打ち合ったくらいで上達も何もないだろう。そんなんで強くなれたら世話ないぜ」


「誰が強くなったと言った? 体裁たいさばきの基本が上達しただけだ。そもそもいつまで我に修業をつけさせる気だ? 実践で強くなれと言ったであろうが」


 そうでした。俺は素直に剣を選ぶ。さっきのブロードソードよりも、刃渡りがさらに20cm程長い両手持ちの剣が一番手に馴染なじむ。ロングソードか? 鑑定してみると、魔鋼鉄のバスタードソードと書いてある。しかも[自己修復D]と書いてあった。えっ、スキル付きの剣?


「これってスキルが付いてるのか? そもそも魔鋼鉄って……」


「魔鋼鉄とは多くの魔素を含み変質した鋼鉄の事だ。鋼鉄に比べ強度が段違いに高く、また魔力を帯びている強力な武器を作る事ができる上、鍛冶師の腕次第では、特殊なスキルを付与させる事もできるのだ。それには[自己修復D]が付いているようだな。まあ、Dだからな、せいぜい血のりや脂で斬れ味が落ちるのを防ぐ程度のものだがな。初級者に持たせるにはちと惜しい品だが、今の貴様なら使いこなせよう」



「なあ、兜も着けた方がいいのか?」


「慣れない兜を着けると視野がせばまるからな。この辺の魔物程度なら、貴様事態の防御力でも問題なかろう。まあ、着けたければ着ければよいわ」


 なら着けない。正直頭を重くするのは好まない。必要になったら着けるようにしよう。今はとりあえず、いいや。




 再び訓練場へ戻り、午前と同じように激しく打ち込む。


 鎧が、ブーツが、動きを阻害しない。動き易い。剣も長く、重くなっているのに、ブロードソードより扱い易く感じる。身体の一部とまではいかないが、いずれその域に達せられる事がわかるようだ……。



 でも、相変わらずボコボコに打たれている。既に数時間続いているが、一体何千回撃ち込まれた事か。結構強く撃ち込まれているのに、ギリギリのところで立っていられる。


 この魔王、どれだけの達人なんだ? 俺の動き、防御力、体力、全てを完璧に見切った上で、最善、いや最も効率よく俺を高みに引き上げていく。キツいのに、つらいのに、やめたくない。できるだけ長く、少しでも高く、もっとだ、もっと……。




 気付いた時、俺は仰向きに倒れていた。どれくらいか気を失っていたようだ。


「愚か者が、己の限界ぐらいわきまえろ。剣を振りながら意識を飛ばすとはな」


 にやけた顔の魔王が見下ろしている。俺はただ深く呼吸をする。身体の中を何かが巡っているのが感じられる。


 酸素か? いや血液か? それが、全身を回って、へその辺り、いわゆる[丹田たんでん]に集まってきている。じゃあ、これは[気]というやつか? 遂に俺は気功術を修得したのか?


「今、貴様が感じているのが魔力の流れだ。体内でり上げられた魔力は全身を巡り、身体の中心に至る。その魔力は身体を強化し、あらゆる武技や剣術を強化する。ふふ、限界を超える事でそれを会得するとはな。まったく貴様は、何者なのか? 面白過ぎるぞ」


 どうやら、[気]の極意に達したのではなかったようだ。残念!




 その後も、魔法で回復され、打ち合い、気を失い、を何度か繰り返す。もう大分遅くなっているんだろう。夕食を取っていないが、その時間が勿体もったいなかった。続けたい、今やめたくない。その気持ちを組むように、魔王も何も言わず訓練を続けてくれる。



 そして、ようやく魔王が告げる。


「まあ、こんなもんだろうな。よもや一日でここまで来ようとはな。楽しませてくれるわ」


 魔王がぶっ倒れた俺の横に座る。


「貴様は眼に頼らない。それは欠点でもあり利点でもある。眼で追えるのなど、せいぜい人の世界までよ。それ以上高位の者どもの戦いでは、眼で追っていては捉えられん。大概たいがいの者はそこで行き詰まる。だが、貴様は長らく盲目だったからか、それだけ見える[魔眼]がありながら、視覚よりもそれ以外の感覚に頼ろうとしている。その結果、魔力の感知が一気に上達した。それでよい。貴様はその戦い方を高みにまで昇華させよ。それが叶えば、いずれ我に届くやもしれんな。過ぎた[魔眼]も使いこなせようぞ!」


「俺が、あんたに……。冗談キツいぜ。過ぎたって、この[魔眼]は俺が使うようなもんじゃないのか?」


「フン、[万能鑑定]や[魔力氏]を我が極めたのは、Lv.100を超えた頃よ。Lv.1

で使えるとは、貴様は常識という物を知らんのか? 心の広い我でも腹が立つぞ!」


「……Lv.100? 何で俺、そんなモン使えるんだ?」


「貴様が[見る]という行為を強く望んだのだろうが。その想いが因果律いんがりつを曲げたのだろうな。想いで因果をつむぐなど、まともな者には考えられん事よ。貴様はこれからも吉凶様々な因果をつむいでいくのだろう。難儀なんぎな事よ」


 一瞬、魔王の目が憐れむように細められた。これが俺の背負う二つの世界のカルマってやつなのか? 俺にはさっぱりわからん。いつか理解できる日が来るんだろうか?



「まあ、それが半分。もう半分は、アレクサンドラの依怙贔屓えこひいきだろうな。再構築の際、随分と[魔眼]にこだわっていたようだからな。フン、この魔女たらしが!」


 いや、魔女たらしって……。そういや俺、いたしたんだった。


 …………。まさか、そんなわけないと思うが、ここは余計な事は言うまい。へばって眠ったふりをしておこう。


 腹へったなあ!

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