第6話 魔王の修業
知らない事がおいでおいでしてたので、城内を探検する俺。地図は描かないけどね。
そして遂に俺は見てしまった。
「あら、まあ!」
用意してたセリフが口をつく。何かいる。魔王でもアレクサンドラでもない何かが城内をウロウロしていた。いや、ウロウロしているのは俺の方で、あれは仕事してるのか?
そこでいい事を思いつく。そう、本当にアレクサンドラと繋がっているのか試してみよう。どうするんだ? とりあえず小声で呼んでみる。
「アレクサンドラ。聞こえるか? アレクサンドラ」
すると、すぐにレスポンスがあった。すぐと言うより、ほぼ即答だ。
『はい、何でしょうか? ラングリード様』
「凄いな、ホントに頭の中にいるみたいだな」
周囲を見回すが、当然近くにはいない。一応[魔眼]を使って[鑑定]や[透視]で、姿を消して潜んでいないか確認するが、いなかった。
「なあ、城内をウロウロしてる奴、あれは何だ? 俺、見つかっても襲われたりしないか?」
『申し訳ありません、説明を怠っておりました。あれらは城内の管理や雑務、そして警備をしております、使い魔やゴーレムです。当然ラングリード様に危害を加える事はありません。ただ、あれらは先代様が自らの魔力で具現化させたり造り出したりした存在ですので、私と違い先代様にのみお仕えする者たち。そのため、ラングリード様には、大切なお客様として礼儀を持って従いますが、忠誠心は持っておりません。ですが先代様の不利益にならない事なら何でも致しますので、用がありましたら遠慮なく命じてください。それと、私を呼ぶ時は、声に出さなくとも念じてくだされば通じますので、いつでもお呼びください』
そりゃそうか、脳内で繋がってるんだしな。にしても使い魔ね。そんなの持てるのか。ゴーレムも作れるとは凄いな。俺もいつか作ってみたい。できれば美少女形態のかわいい奴を。
という事で、何か作業している奴に近付く。こちらを振り返った奴は、深々と頭を下げ作業に戻る。ゴーレムっぽくないな、使い魔か? よし、[鑑定]っと、どれどれ。
レッサーデビル 種族:下級悪魔 性別:男 年齢:709歳 ジョブ:[使い魔Lv.102]
スキル:[気配察知][飛行] 魔法:[水B][土C][闇A] 称号:[魔王の下僕]
うんうん、ちゃんと見えるな。下級悪魔か。レベル高いけど闇魔法以外は大した事ないか。まぁ、俺よりは強いんだろうけど。喋らないけど、話せないのか?
またウロウロしていると、今度はいかにもゴーレムって感じのカクカクしたフォルムの奴がいた。よしこいつも[鑑定]っと。
「あっこら、動くな!」
理不尽な命令で動きを止めて、もう一度。
ストーンゴーレム 種族:魔法生物 ジョブ:[警備兵Lv.98] スキル:[剛力] 称号:[ま王の下僕]
いろいろ回ってみたが、この2種類の下僕しか見当たらなかった。何体いるかは不明だ。
俺は食事ができたと呼ばれたので食堂に向かう。アレクサンドラといつでも連絡がつくから便利だな。でも常にどこで何をしてるかバレてるようで微妙でもある。
食事を取った後で風呂に入る。分析前に身体を洗った場所は風呂では無かったらしく、別の部屋に通される。後でわかった事だが、この世界、風呂はあまり一般的には入らないらしい。温泉が湧いている土地などでは入る習慣があるが、それ以外では、濡れた布で身体を拭くのが普通だとのことである。王族や上位貴族でもなければ毎日風呂に入ったりはしないらしい。
魔王やアレクサンドラも、[ウォッシュ]で済ませる事が殆どとの事で、一応湯殿は作ってあったのだが、使うのは数百年ぶりらしく、準備に時間がかかった。
知ってたら無理言わなかったんだけど、普通にあると思ってたから……。ゴメンね、下僕の皆さん。
◇ ◇ ◇
次の日、朝食後に武器庫に連れて行かれる。俺の武器と防具を選ぶらしい。
通された所には、いろいろな武器や防具が飾られていた。とりあえず防具を選ぶ。アレクサンドラに聞きながら選ぶのだが、そもそも防具なんて着けた事ないから、わからない。
だが、見るからに重そうなフルプレートアーマーなんて着る気にもならない。できるだけ軽そうな物を選んだ結果、革をメインに接続箇所が金属でできている鎧一式にする。
何とかの革で作った軽いが防御力の高い物とのこと。魔物の名前は忘れた、聞いた事もない名前だったので、覚える気にも慣れなかった。こげ茶色のなかなか渋い色で統一された鎧上下とブーツ、それらとは種類の違う、もう少し柔らかい革でできたグローブである。
兜と盾は後にして、武器を選ぶ事にする。
とりあえず手頃な物を用意してもらう。剣、槍、斧、メイス、ハルバート、弓などが数種類あった。全部鑑定してみる。どれも鉄製か鋼鉄製のようだ。
さて、どれにするかな? 弓は論外、使えない。戦闘経験のない足軽レベルの俺は、槍辺りが無難かとも思ったが、この周辺は山や森も多いとの事だったので、長柄物は取り回しが困難だろう、結局基本武器である剣にする。
その中から俺は、鋼鉄製のブロードソードを選んだ。ロングソードはカッコイイが、素人の俺が使えるとも思えない。このくらいが調度いいだろう。これなら片手で使えるので、ラウンドシールドも選んでおく。とりあえずは訓練らしいので、兜は着けていない。
ちなみにブロードソード(幅広の剣)、という名前から、横幅の広い剣だと思っている人が多いらしいが、それは間違いで結構細い。この名前はレイピア全盛期にそれよりも幅広い剣という事で名づけられたもので、剣としてはむしろ細身であり、持ち手の辺りにサーベルっぽいハンドガードがついている。
訓練場に行くと、魔王が待っていた。俺の鎧姿を凝視している。
「ああ、笑えよ。俺自身しっくりきてないんだ。似合ってないだろ?」
「いや、別に笑うべき所は見当たらんが。むしろ感心している。それは貴様が自分で選んだのか?」
俺に聞きながら、俺の後ろのアレクサンドラに確認している。失礼な奴だ!
「アレクサンドラに手伝ってもらったが、一応俺が使えそうなのを選んだ。文句あるか?」
「フン、文句は無いな。素人は大概防御力の高い全身鎧と長い剣を選ぶんだがな」
「そんな動き難いの着けてどうするよ。それに長剣扱える程熟達していないからな」
「フフ、満更阿呆でもなさそうだな、最低限の戦闘センスはあるようだ」
「褒められてる気がしないんだが……。で、俺はどうすればいい?」
「理屈を教えるつもりはない。強くなりたければ直接敵と闘ってレベルを上げろ。我は最低限の動きを矯正してやるだけだ。どこからでも撃ち込んで来い」
そう言うと、魔王の右手がスパークし、一m程の長さの棒が現れた。これが[創造錬金]ってやつか。まったく便利なスキルだな。俺も使えるように頑張ろう。だが今は戦闘訓練だ。
[Lv.1,000]の魔王が直接稽古つけてくれるんだ、こいつが飽きる前に、できるだけ腕を上げないとな。遠慮してる場合じゃない、本気で行こう。
「じゃあ、行くぞ!」
俺は一気に間合いを詰め、大冗談から打ち下ろす。しっかりと力が載ったところで焦る。魔王は全く動こうとしない。
やバッと思ったが、もう遅い。止まらない! そのまま奴の額に叩き込まれる。
「えっ!」
思わず声が出る。
「どうした? まさか勝ってしまったかとでも思ったか? よもや我の身を案じたのではあるまいな」
俺の剣は、奴の額に当たった所で止まっていた。ピクリとも動かない。いや、おそらく当たってすらいない。その直前で止まっているんだ。マジか! 皮一枚切れないのか?
「それが今の貴様の実力だ。躱す必要も受ける必要もない。貴様の力では我に傷一つ付けられぬわ。わかったら遠慮せず全力で来い」
言うが早いか、魔王は俺の左腰に一撃を入れてくる。痛い! だが絶妙な力加減なのか、そのまま打ちあえる。
それから激しい打ち合いが始まった。いや、打ち合いじゃない。俺が一方的に打ち込み、魔王が俺の足、腰、肩、腕と、無駄な動きや悪い姿勢を矯正するように的確に打ってくる。
打たれると痛いが、身体が矯正された動きを覚えていく。
唐竹、袈裟、逆袈裟、右薙、左薙、右切上、左切上、刺突。素人の俺が思い付く剣筋を、ただひたすら何度も繰り返す。
もう何時間続いているだろうか? おかしい、こんなにも身体が動くわけがない。以前の俺なら、とっくにぶっ倒れて動けなくなってるはずだ。俺、一体どんなスタミナしてるんだ?
「フッ、解せぬという顔だな。これが以前のエセ勇者としての貴様と、生まれ変わった魔王としての貴様の違いよ。以前の貴様なら、この一撃一撃で骨がへし折れておったわ。それに20合も打ち合えば、バテていたであろうな」
全く動きを止めずに宣う魔王様。マジでか!
だが遂にはスタミナも切れて、ぶっ倒れる俺。全身の細胞が酸素を要求している。全ての筋肉が痛い。俺、ホントに呼吸必要ないのか? 信じられなくなってきた。
「ウム、まあこんなところか。続きは午後にする。それまで休んでおけ」
午後もあるの? 身体が全く動かないんですけど……。でも徹底的に矯正されたため、後半は自分でも信じられないくらい打ち込む型が整ってきていた。無駄な動きが減ったんだろう。こいつはやっぱり凄い奴だ。この短時間でここまで伸ばしてくれるとは。
「う、ああ、ありが、とお、ござ、いま、した」
息も絶え絶えに言う、心からの言葉だ。
魔王は驚いたように俺を見、軽く微笑んで、部屋を出て行きながら吐き捨てる。
「貴様は治癒魔法が使えるのだろう。自分で回復しておけ。午後も手加減はせんぞ!」




