第4話 現代魔王の基礎知識 其之壱
俺は、美人教師による個人授業を受けている。羨ましいか? 魔王の特権だ。誰にも代わってやるつもりはない。残念だったな。出直してこい!
授業内容は、【新人魔王講座初級編 ステータスウインドウの見方】だ。俺のステータスをじっくり見ていく。ちなみにこれは、人物鑑定能力のスキルを持つ者にしか見れないもので、スキルを持たない者が自分のステータスを知りたければ、スキル持ちに見てもらうか、ギルドや神殿、騎士団支部など鑑定用のAFを置いている所で見てもらうのが普通らしい。
また、並の鑑定スキルやAFでは、第一ジョブとそれに付随するスキル程度しか見えないらしい。俺の魔眼には、[完全鑑定]があり、人、魔物、武器、防具、アイテム、etcと全ての物をかなり細かく鑑定できるとのこと。
すげえな、これだけでもチートじゃん。まあ、それゆえ信頼できない相手には教えてはいけないと、先生に釘を刺されている。
じゃあ次は、ジョブ[魔王]だな。どれどれ、おおっなんかいろいろ出た。
魔界を統べる者、またはそう定められた者 全ステータス中+ スキル:[全言語理解][魔眼][魔王覇気][魔素生成][魔力放出][必要経験値減少]
何だこれ? わからない事は知ったかぶらず、素直に聞こう。
「現在はまだLv.1ですので、それが魔王のジョブ効果とスキルになります。全ステータス中+は生命力、魔力、体力、攻撃力、防御力、敏捷性、etcとあらゆるステータスが向上します。[全言語理解]は、ほぼ全ての言語の会話・読み書きが可能となります。魔王が侵略する国に赴き、猛々しく名乗りを挙げたのに、相手に全く伝わっていなかった、なんて事があったら困るでしょう。それゆえの能力です。ですが、機密を旨に組まれた特殊ルーン文字などは読めないものもありますので、ご注意ください。[魔眼]はさらに深く確認してみてください」
何かご都合主義な能力だな。えっと魔眼、魔眼っと。おお、出た! 魔眼:[万能鑑定][魔力視][暗視][透視][魅了]とある。
「[万能鑑定]は全ての物を鑑定する能力です。本来鑑定スキルは持つ者によって、人物、武器、アイテムなど様々に分類されますが、[万能鑑定]は、その全てを深くまで鑑定する事が可能です。但し、格上の鑑定は不可能な上、鑑定した事を気取られますので、お気を付けください。[魔力視]は魔力の流れを見る能力です。これにより敵が魔法を使おうとしている事やその種類を察知したり、魔法トラップなどを感知する事が可能です。また、レベルが上がれば、魔物の弱点となる魔石の位置を見抜く事もできます。[暗視]は光が全くなくとも昼間のように視る事ができます。[透視]は相手の防具や衣服を透かし、その内に隠された物を見通す事が可能です。そうですね、試してみましょう。私を透視してみてください」
という事で、アレクサンドラを見ながら目に力を込める。ムムム……、疲れた。
「ラングリード様、力ではなく魔力を目に込めてください」
ああ、魔力ね。って魔力って何だよ。込めるも何も概念自体が理解できねえよ。
そこから3時間程、魔力の概念と感じ方、練り方などを教わる。基礎だけは何とか使えるようになったぜ、俺って凄くねぇ?
アレクサンドラが微妙な笑顔で小首を傾げている。あれ、もしかしてこのくらい、最初からできて当たり前なのか? そんな馬鹿な!
とにかく、改めて目に魔力を通す。おお、何か服が透けて……、って、アレクサンドラの裸が! 下着すら透けてる。俺は慌てて[透視]を解く。
こっこれは、なんとけしからん能力だ!
「これが[透視]です。上手く使えば便利な能力ですよ。但し、これも格上には弾かれますし、気取られます。今の私は弾かず受け入れておりますので、見えているのです。また[鑑定]ともどもそれを阻害する魔法やAFもありますのでご注意ください」
全く前を隠そうともせず、説明を続けるアレクサンドラ。何とも魅惑的な能力で、見放題なんだが、見られているのがわかっていて、こうも堂々とされるとなぁ。男心は複雑です。
いつか人里に下りたら、こっそり楽しもう。なんて考えたのは内緒だ。誰にも言うなよ!
「最後は[魅了]ですが、これは相手の目を見て魔力を込める事で、その相手を籠絡する力です。洗脳ではなく当人が自分の意思で従うようになる力です。レベルが上がれば、ほぼ洗脳のように自我を奪い、言いなりにさせる事も可能ですが、今は相手に好意を持たせたり、警戒心を解かせる程度となります。最初から嫌悪していたり、敵視している相手に影響を及ぼすのは困難です。当然これも格上には通じません」
何だ、そのエロヴァンパイアみたいな能力。レベルが上がればどんな美女でも言いなりにって、貞淑な人妻や神聖な聖女まで! 魔王、なんとけしからん存在だ、羨ましい! って俺がその魔王でした。早くレベルを挙げなきゃ。
いや、今の初対面で好意を得られるだけでも凄い能力だが。第一印象が良好というのは社会人としては垂涎の能力だ。俺もそういう奴が羨ましかったもんな。まさか、なぜか人から好かれる連中は、このスキルを獲得していたのか?
うんうんと唸りながら俺がいろいろ考えを巡らしているうちに、先生はお茶とお茶請けを用意してくれた。甘味料が入っているらしく、甘めなお茶だが、疲れた頭に染みわたるようで心地いい。
お茶請けも未体験な味だ。ビスケットとちんすこうと麩「菓子を一緒くたにしたような不思議食感だが、仄かに甘くておいしいな。ここで食べた物は全部おいしい。この世界の味は日本人好みなのかもしれない。食の好みが合うって大事だよね。
「では次に[魔王覇気]について説明しましょう。これは魔王のみが持つ覇気です。これを放つ事で、受けた者に強烈な威嚇を行う事ができます。格下にしか通じませんが、相手の戦意を挫き、心を折る事ができます。無駄な戦いを避けたい時や相手を従えたい時などに有効です。序で[魔素生成]ですが、そもそも魔素をわかり易く説明すると、魔力の元と考えて問題ないと思います。魔素は世界中に満ちているもので、魔物や魔人、精霊などの存在の力の根源です。また魔法とは、これを魔力に変換し、様々な現象を起こすものです。殆どの存在は自然界の魔素を利用するのですが、精霊や高位の魔人は自らの体内で魔素を生成する事ができます。つまり魔組成性ができる者は、魔素が枯渇した地でも活動できますし、強大な力を発揮できます。言ってみれば活動の燃料を自ら作り出しているようなものです」
「何だそれ、永久機関か? 反則じゃないのか、それ」
「その解釈で問題ないと思いますよ。内包魔力量の少ない人種の魔術師などからすれば、確かに許し難い事でしょうね。さらに[魔力放出]は、その生成された魔素を魔力として周囲に放出するものです。これにより周囲にいる家臣たちに様々な影響を与えます。つまり、ラングリード様と主従契約を結んだ者に、その能力を底上げし、また自然治癒能力を向上させるなど、様々な加護を与えるのです。それゆえ、力を求める者などにとっては、魔王との主従契約は大きな意味があるものとなるのです」
う~ん、何か凄いという事はわかるんだが、いまいちピンと来ないな。まぁ、こういうのは必要になって初めて本当に理解できるもんだしな。でも、必要な時には大抵わからなくて困るものでもあるんだよなぁ……。
あっ、そうか! 俺には、脳内にアレクサンドラ先生がいらしたのだった。じゃあ、必要になった時に改めて聞けばいいんじゃね? 素晴らしい! 素晴らしいよ、アレクサンドラ先生! そう、俺の脳内にはマルチコア的領域が作られており、そこは常にアレクサンドラと繋がっていて、俺を補助してくれるんだ。
つまり、ゴーストならぬ、アレクサンドラが囁くのである。俺はもうスタンドアローンにコンプレックスを感じなくていいんだ!
「そして最後が[必要経験値減少]です。これはレベルアップに必要とする経験値が通常よりも減少します。つまり同じ魔物を倒していても、他の者よりラングリード様のほうが早くレベルアップするという事です。そして、これは主従契約を結んでいる直臣の家臣や冒険者としてPTを組んでいるメンバーにも当てはまります。但し減少率は違うので、ラングリード様と直臣、PTメンバーが同じ敵を倒していても、レベルアップのタイミングが同じではありません。以上がジョブ魔王の説明になります。ご理解頂けたでしょうか?」
「うん、よくわかったよ。ばっちりだ! でも、忘れちゃってたらその都度教えてね」
アレクサンドラ先生は微笑みながら頷いた。なぜだろう? 目が笑っていない気がする。そんなはずないよね?
「では、次はスキルについて説明しましょう。[次元収納]ですが、これは非常に珍しいスキルです。[I・ストレージ]の上位互換スキルだと思われますが、恐らく内容量に限界が無いかと。さらに内部を自由に区分けでき、時間経過もそれぞれ設定できるものかと思われます。これは先代様も持っていなかったスキルです」
「え、あいつも持ってないの? なのになぜ俺が? かなり有用なスキルだと思うんだけど」
「はい、とても有用です。これは称号[次元超越者]の加護かと。ラングリード様は異世界より次元を越えて来訪されたとの事ですので、その過程で得た称号とスキルかと推測されます。前例が無いため、詳しくはわかりませんが、今後使っていくことでいろいろと判明していくと思われます」
アイテムBOXやストレージは異世界モノでは定番だけど、これも人には言わないほうがよさそうだな。[I・ストレージ]だと誤魔化そう。
こうして、アレクサンドラ先生による個人授業は続くのだった。
[透視]で見た映像をどこかに録画しておけないだろうか。まさか彼女自信に記憶の海からサルベージしてとは頼めないしな。




