第2話 新たなる肉体
魔王の名前と序でにその能力も引き継ぐ事となった俺は、頭と心が付いて行かないうちに、肉体を改造されていたらしい。
まぁ、俺だって人間の身体で魔王になんかなれるわけない事くらいはわかっていた。けどねぇ、最終的に俺が何をされたのか? 俺にもわからない。
アレクサンドラによる、エロゲばりの無意味にエロい肉体分析に完全に堕とされ、3日も眠り続けているうちに、改造は終わっていたらしい。なぜ眠っている間に終わらせたのか?
彼女曰く、(ラングリード様の精神衛生上知らないほうが良い行程がいくつかありましたので……) と目をそらしながら言われた。
まさか、(やめろぉ、ショッカー!) ってな事が俺の身に……。忘れよう、終わった事さ。結果良ければ全て良い……のか?
それにしても、凄いな。俺は生まれつき視力が弱かった。失明する前も人の数十分の一しか見えていなかった。だから今見えている物、全てが感動的だ。世の中とはこんなに明るいものだったのか? 人の顔、物の形、壁の模様まで、こうもはっきり見えるものなのか?
多分、俺は今、動物園や遊園地に初めて連れて来てもらった子供のような表情をしているのだろう。見るもの全てが美しく感動的だ。まぁ、最も美しいのは目の前に跪くアレクサンドラだが……。シャイな俺はそんな事言えない。
「うむ、大儀であった。苦しゅうない、面を上げよ!」
「……。ごめんなさい、一度言ってみたかったんだ、このセリフ。とりあえず立ってくれるか、そのままじゃあ話もしづらい」
立ち上がったアレクサンドラは、部屋のクローゼットを開け、服や何かをいろいろと取り出し、テーブルの上に置いた後、こちらに振り替える。
「それでは再構築されたお姿を確認して頂きますので、こちらをご覧ください」
そう言うと、彼女は何かの呪文を唱え始める。すると目の前の空間が歪み、そこに独りの男が現れた。
「えっ、誰? ああ魔王か。初めて見たけどごついな、お前」
「はい、魔王様ですが、先代ではなく貴方様のお姿です。今の貴方様を映しております」
え、この異常に筋肉質な長身の男が俺? いや、完全に別人だろ。確かに顔は似てるけど……。てか、若くない?
眼前に立っている俺は、どう見ても30代半ばくらいの長身マッチョメンだった。
「何で俺、こんなに筋肉隆々なの? しかも背も高過ぎる気がするんだけど、気のせいかな? ってか、かなり若くなってないか?」
「はい、ラングリード様の肉体再構築は素粒子レベルから行われております。その際、魔王としての力を得られる理想的な肉体を構築しました。そのため筋肉の質と量が飛躍的に向上しております。また骨格自体もそれに耐えうる物とするため、かなり変化致しました。身長は、ラングリード様の国の単位で、現在190cmとなっております」
もう、驚かないけどね。親近感湧きまくりだった俺の庶民的な我儘ボディが、今夜にもK‐1でアーツやレバンナと闘えそうな肉体に! 身長なんか15cmは高くなってる。これはもう俺じゃない気がする。しかも現在とか言ってるし。
「ん、cm? 俺の国の単位って何で知ってるんだ?」
「はい、分析の際、ラングリード様の記憶も調べさせて頂きました。ですので、私はラングリード様の記憶を共有しております。家族との思い出、とても愛されていた飼い犬との日々、そして初めてのお相手を務めた女性のことも……」
「なっ! 今すぐ忘れろ!」
俺は、過去の自分とともに、プライバシーすら失っていた。
「クスッ、申し訳ありません。最後のは冗談です。いえ、知ろうと思えば知れるのですが、ラングリード様がご不快に思われるような記憶は覗かないようにしております。それと、ラングリード様が一度でも見たり聞いたりした知識は、いつでも記憶の海からサルベージできます。既に忘れている事も、記憶の海にはちゃんと残っておりますので。命じて頂ければいつでもお調べ致します」
しれっと、とんでもない事を言い出すアレクサンドラ。
「また、脳の再構築時に別領域を構成いたしました。これにより、常に私と繋がる事が可能となり、ラングリード様の呼びかけに応じ、助言や思考のサポートをさせて頂けるようになっております。わかり易く言うと、頭脳のマルチコアといったところでしょうか。まあ、いつでもどこでも、私というサポートセンターにコールできるようなものです」
……サポートセンターって。つまり、ラノベとかでよくある、賢者さんとかアナウンスさんとかいうやつみたいなものか? もう、何でもありだな。
「服はこちらに用意しております。お着替えが終わりましたら、お食事を用意しておりますので、食堂までお越しください。この姿見はもうしばらく消えませんので、着替えにご利用ください。では、失礼します」
アレクサンドラが部屋を出て行き、一人取り残される俺。ここ数日の急展開に着いて行けず、頭が痛くなりそうだ。まあ、体調は絶好調なんだけど。頭も身体もすごぶる軽い。まるで生まれ変わったかのように、今まで感じた事がないくらい、すっきりしている。いや、本当に生まれ変わったんだっけ?
俺はガウンを脱ぎ、全裸になって自分の身体を姿見に映して確認する。あの、隙だらけだった愛すべき中年の肉体が、何という事でしょう。全く隙のない、嫌味なまでの完璧ボディに……。
ちょっとポージングしてみる。Wバイセプス。盛り上がる二頭筋、キレイに割れたシックスパック。こんなの俺じゃない!
後ろ向いたりしてもっとよく確認する。太腿にあった古傷や、首元にあった小さなイボも無くなっている。ボリュームのある頭髪に混ざり始めていたらしい白髪すら完全に消えている。どこからどこまでも親切設計だ。
要望聞かずにここまで完璧にクライアントの希望に沿うとは。いや、俺の記憶が読めるなら、コンプレックスも知られてるか。何気に白髪とか、人から指摘されて気にしてたんだよな。
それにしても……。再度正面を向いて全身をマジマジと眺める。あのマイルドだった俺のかわいい[カメ吉]が、ワイルドで凶悪な[ドラゴン]に進化していた。ここまで改造するか? いや、改造じゃなくて再構築か? どう考えてもやり過ぎ改造だよ! 悪ふざけの産物だよ!
クソ、何でアレクサンドラとの前にカメ吉は進化できなかったんだあ! いや、せめてあの時見えていれば、彼女の肢体を目に焼き付けたのにぃ! 姿見の前で全裸の俺は理不尽な後悔に苛まれていた。
まぁ、何だ。すっかり見違えたけど、一応原型はとどめているし、ちゃんと人間に見えるからいいか。何せ魔王だからな、目覚めたら[名状しがたいもの]になってた! 何て事もあり得たわけだし。……コワッ!
用意された服を身に着け、やっと落ち着く。うん、服着たらそれなりに違和感はなくなった。姿見に向け、ニヒルに笑って見せる。なかなかどうして、苦みばしったいい男だ。フッ突っ込みは、要らねぇぜ!
とりあえずご飯だ! お腹空いたし、考えたら3日間食べてないんだっけ?
俺は身支度を整えると、部屋を出て、勝手知ったる他人のお城を食堂に向かう。
う~ん、廊下ってこんなんだったんだ。思ってたより立派なお城かも。魔王城って言うから、もっとこう、薄暗くておどろおどろしいのを想像してたけど、どういう仕掛けか照明が見当たらないのに、廊下全体が明るい。しかも広々としており掃除も行き届いていて、とてもキレイだ。
おっと、食堂はここだっけ? 扉を開けると広い部屋に大きなテーブルといくつもの椅子が並んでいる。一体何人で食事する場所なんだ、ここ? 食卓の上には湯気が昇る料理が所狭しと並べられている。何人前だよ、これ。
とりあえず席に着き、食べ始める。許可は要らないってことなので、勝手にやらせてもらってる。
相変わらず、うまいな。この肉は何の肉だ? 明らかに牛や豚とは違う。調味料の味じゃなく、肉自体の強烈な旨味が噛む旅に溢れ出てくる。他の皿も全て、食材の味を活かした絶品ばかりだ。
この料理、誰が作ってるんだ? アレクサンドラか? どこまで完璧なんだよ、彼女。
っていうか、彼女以外は魔王としか会ってない。まさか、魔王の家臣はアレクサンドラ独りか? 家臣独りで王様やってんのか? オイオイ、想像したら泣けてくるぞ。いや、さすがにそれはなぁ。アレクサンドラも最初はそうだったように、私語は謹んで静かに控えているのか?
それされると、盲人には全くわからないんだよな。よし、これからは、この城の中をしっかり見て回ろう。どんな存在も見逃さないぜ。
俺は、市原のえっちゃんばりに見まくる事を決意した。
「あら、まあ!」
よし、セリフもばっちりだ。




