第1話 分析と再構築
「フハハハハ、我こそは、魔王ラングリードなるぞ!」
……。うん、恥ずかしい。ってか、全くしっくりこない。何だよ魔王って! これ、堂々と名乗れる程慣れるには、100年くらいかかるぞ。いや、100年経っても慣れたくない。紳士にだって羞恥心はあるんだよ。いや、紳士はみんなシャイなあんちくしょうさ。
今、俺は魔王城に与えられた自室にいる。自室といっても客間だ。魔王の名を受け継いだからって、この城の主になったわけじゃないからね。
あの衝撃的な襲名から2時間程経った。一息つき、落ち着いた今、俺は激しく後悔している。何だよ魔王って、イタ過ぎるだろう。雰囲気と勢いに流されて承諾した自分が恨めしい。こんなの生きていけねぇ。恥の多い人生を送ってきましたってレベルじゃねえよ。太宰じゃなくても自殺考えるわ~!
ハァッ、ハァッ、ハァッ、ごめん、取り乱した。とりあえず落ち着こう。
そう、俺は魔王ラングリードと出逢い、あれこれあった後、意気投合し、夜通し酒を酌み交わした挙句、魔王の名とその力を受け継ぐ事になってしまった。
なぜ? なっちゃったんだから仕方ないだろ。見返りが魅力的過ぎたんだよ。目の見えない俺が、見えるようにしてもらえるって言われたら、例え毒入りだとわかってても喰らいつくのを誰が責められる?
と、いうわけで、ここ1時間程一人で悶えていたんだが、そろそろ覚悟を決めよう。やっぱなしっとか言える雰囲気じゃ無いしな。あの魔王に怒られるならまだしも、もしも泣かれたりしたら……。よし、俺も男だ、腹は括った。
一通り騒いで落ち着いたのを待っていたかのように、部屋にアレクサンドラさんが訪れた。
「失礼します、魔王様。少しよろしいでしょうか?」
「魔王なら来てないよ。って、もしかして俺のこと?」
「勿論です、魔王様。それともラングリード様とお呼びしたほうがよろしいですか?」
正直、どっちもやめて欲しい。勇者呼びもキツかったが、魔王呼ばわりされるとは……。
「いや、呼び方はもうどうでもいいです。で、何のご用ですか、アレクサンドラさん?」
「ラングリード様こそ、サン付けはご勘弁ください。私は既に貴方様の忠実な臣なのですから」
「ハァ、そう言われてもなぁ。それにあなたはあいつの家臣なんでしょう?」
「はい、ですがあのお方の名を継いだ貴方様の臣でもあります。二君に仕えるのは心苦しいのですが、あのお方が健在の間はどうかお許し頂きたく、曲げてお願い申し上げます」
「いや、それは別に構わないよ。むしろ無理に俺に仕えなくても。いや、そりぁ、あなたみたいな人が傍に仕えてくれるなら、こんなうれしい事はないんだけど」
「クスクス、ラングリード様、私のような者にそのような世辞は不要ですよ。うっかりその気になってしまいます」
くぅ、早くこの人の顔を拝みたい。よし、今からは呼び捨てだ!
「では、こちらにお越しください」
そう言われ、俺は別室に誘われる。少し暖かく、湿気の多い場所だ。
「では、失礼致します」
って、へ? 何と彼女は俺の服を脱がせだした。しかも見事な早業で。
完全に言葉を失った俺に彼女は説明を始める。
「これよりラングリード様の肉体の分析を行います。まずはここで身体を洗浄し、阻害要素を除去します」
その後も続いた彼女の説明を要約するとこうなる。
ただの人間に魔王の力を宿らせるのは、大海の水を無理矢理壺に注ぐようなもので、すぐに、パリンってなっちゃうらしい。何それ、怖過ぎる。で、そのための対処として、俺の肉体を耐えられるように再構築する必要があり、そのためにはまずは身体を正確に分析する事から始めるとのこと。分析するならまずキレイにしないとねって……。
説明を受けている間に、既にマッパにされて洗われていた。一応自分で洗うって主張はしたよ。即、却下されたけどね。
で、俺はアレクサンドラに全身をくまなく洗われている最中だ。ホントに隅の隅まで。もう、お嫁に行けなくてもいいや、グスン。全くここは何の店だよ。いや、ボクそんなお店行った事ないから、どんな事されるのか、さっぱりわからないんだけどね。ホントだよ。
とかやってるうちに、身体を流され終了した。なんか荒れてた踵や指先の皮がツルツルになってる。このお湯、水酸化Naって事ないよね?
そしてガウンのような服を着せられ、隣室に移動。座らされた所は、……ベッドでした。ホントここ何のお店? 俺金持ってないって知ってるよね。知らないのかも、どうしよう。
「では、これより分析を開始致します。ラングリード様の身体を全て調べますので、ご不快かもしれませんが、どうかお許しください」
そう言うと彼女は俺のガウンを脱がせた後、シュルシュルと音を立てている。これって衣擦れだよね? マジ? 何このシチュエーション! ホントにいいの?
「失礼します」
そう言うと彼女は俺の頭を両手で支え、右目の瞼に口付けをした。固まる俺。
(青いその瞼を唇でそっと塞ぎましょう♪) そうか、彼女は聖母だったのか! じゃぁ、もしかして、小さな子供の昔に帰って、熱い胸に甘えていいの? ララバイが聞こえる。
そのまま彼女は唇と両手で俺の身体をくまなく触れていった。大きな二つの膨らみが俺の身体に当たっている。俺の経験上、ここまで豊満な女性の身体に触れるのは初めてだ。もう、完全に下半身が誤魔化せるレベルを越えている。
そして、彼女は囁く。
「次は内面と体液の分析に移ります。どうかその身をお委ねください」
これ以上は語るまい。でも多分想像通りの展開だったと思うよ。俺も本当に久しぶりだったからな。考えたら、失明してからは一度も無かったな。本当に久々に女体の素晴らしさを実感した。
そして彼女は俺から少し身体を離し、そっと告げる。
「全ての分析は終了致しました。不愉快な思いをさせ申し訳ございません」
そう言う彼女を俺は抱き寄せ、再び口付けする。そして強引にベッドに引き寄せた。
「ふふフッ、私のような者を求めてくださるとは、本当にうれしく思います。このような身体でよろしければ、存分にお楽しみください」
◇ ◇ ◇
気付いた時、俺は自室のベッドで眠っていた。夢だったのか? とも思ったが、ベッドから起きると、ガウン1枚だったので夢では無いらしい。
ハァ、久し振りだからってなぁ。年甲斐もなくあんなにがっつくなんて、紳士とした事が。でも10年ぶりの女体だったんだ。一度じゃおさまらないのは漢ならわかるだろ。わかってくれるよな!
そして毎度の事ながら、全てを見越したかのようなタイミングで来室するアレクサンドラ。
「お目覚めですか、ラングリード様。ご気分はいかがでしょうか?」
いかがも何も、あんな事して気分が悪いはずがない。かといって、当人相手に、(最高でした!) とも言えない。
「あの、その、何と言うか、すみません。あんな強引に……」
「その事でしたら謝る必要などありません。主に求められるのは悦びであり栄誉です。このような身でよろしければ、お好きな用にお使いください」
アレクサンドラが妖艶に微笑む。艶のある黒髪、美麗な顔立ちと知的な瞳。ゆったりとしたローブに隠した豊満な肉体。ハリウッド女優も真っ青な美女と俺は何度も……。
ん? 今何か引っかかった。何がおかしい? どこもおかしい所などない。彼女はパーフェクトに美しい……って、何で見えてんだ、俺?
何がどうなっているのか、誰か教えてくれ。俺は見ている! アレクサンドラを! この部屋を! 見える! 見えるんだ! 見えてるんだよ!
オイ、何落ち着いてんだよ、お前ら! もっと驚け! クールぶっても無駄だぞ、驚きまくってんのはわかってるんだからな! ビックリ! ビックリ! 今日は朝からビックリカーニバルだ! ……ハァっ、ハァっ、ハァっ。いや、落ち着くのは俺か。
「ア、アレクサンドラ! これは一体……、どういう事だ? 夢、夢なのか? 俺はまだお前の胸で眠っているのか?」
「いえ、ラングリード様。貴方様はちゃんと目覚めておりますよ。実はあの分析から既に、3日経っております。その間に、ラングリード様のお身体の再構築は終了致しました。貴方様は魔王としての肉体に生まれ変わられ、先代様より、その能力を受け継がれました。。当然、その双眸も魔眼として再構築されております。おめでとうございます、ラングリード様。新たなる魔王様の誕生を心からお慶び申し上げます」
そう言いながら、アレクサンドラは見事な所作で跪いた。




