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宿に着き、部屋へ向かうと、ユーミが廊下に居た。
フィーが声を掛けるより先に、ユーミの方が気付いて顔を上げ、フッと笑う。
「早かったわね。
もしかして、急がせてしまったかしら」
少し困ったように笑みを深めるユーミに、問題ないと返事をする。
ただ…何故、廊下に居るのか等も含め、状況を先に確認した方が良いだろう。
「別に彼女が暴れたりとかした…って訳じゃないわ。
目覚めてすぐ、傍に居るのが見知らぬ他人では落ち着かないでしょうし、不安にもなるでしょう?
だから部屋の外に出てただけよ」
それは、確かにその通りだろう。
しかし『梃子摺る』とは、どこ情報だったのやら……。
その後は 簡単に状況の引継ぎを済ませる。
仕事そのものは調整はしてくれていると思うが、ユーミも忙しい身なので、いつまでも引き留めていられない。
礼を言い、ユーミと交代する。
「それじゃ、何かあったらまた連絡してね」
「はい、ありがとうございます」
フィーも、叶うなら今日は公爵邸に戻りたいが、それはドニカ次第…かもしれない。そんな事を考えながら、ユーミの背中を見送った。
引継ぎの中でユーミが言っていたが、やはり怯えているような素振りはあったらしい。目が覚めると直ぐに、ベッドの端に移動して身を縮め、おどおどとしているように見えたと言っていた。
(さて…困ったぞっと…被虐待者のケアなんて知らないのよね。
いやまぁ…そう思えると言うだけで、身体に痣があるとか、わかり易い虐待の証拠を見たって訳じゃない。
兎に角、威圧的にならない様に注意するくらいかな…。
とは言っても、私相手じゃ確実に怯えられるだろうし、どうしたものか…。
なんて躊躇ってても仕方ない…彼女は元より敵なんだし、最悪、それで彼女がどうなろうが、知ったこっちゃない…と割り切るしかないわよね。
病人を見捨てなかったんだから、それで良しとして貰いましょ。
まずは情報を得る事を優先しないと…話はそれからだわ)
フィーはドアをノックした。
暫く応えはなかったが、微かに返事の様な音が聞こえた。そっとドアを開き、出来るだけゆっくりと室内に入る。
案の定と言うか…ドニカは目を見開いて、ヒッと息を呑んで固まってしまった。
想定通り過ぎて、苦笑しか出てこない。
「怯えないで頂けると助かります。
一応、貴方を救助したのは私ですので」
やはり熱で朦朧としていたのだろう、見開いた目に、今度は驚愕の色が濃くなった。
だが彼女は彼女で、色々と考えているのだろう。あちこちに視線を彷徨わせた挙句、フィーから顔を背けて俯いてしまう。
「それで……貴方は何故、雨の中に一人で居たのです?
男爵位とは言え、仮にも貴族令嬢が供もなく一人でうろつく等、普通の行いではないでしょう」
「……そ、れは…」
反応があった事に、吃驚はしたものの、少しホッとする。
少なくとも会話を続ける事は出来そうだ。
「……ぁ、あん、たに…話す事…な、んて……」
続ける事は可能だと思ったのだが、思い違いだったかもしれない。
だが、本当に操り人形だったのなら、抵抗も長くは維持できないだろうと踏み、フィーは無言の圧を掛ける。
「………っ」
無言の攻防は、思った以上に長引いたが、先に防御を崩したのはドニカの方だった。
ギュッと唇を引き結び、フィーを拒絶する空気を纏う事で身を守っていたのに、静けさに耐えられなくなったのか、身動ぎしたのを切っ掛けに、視線に落ち着きがなくなる。
そして、拒絶の鎧にヒビが入った。
「な、なんで、も……なんでも、ない、の…。
ちが……でも……」
ドニカは、頼りなく握った手を、強く瞑った目元に押し当てて唇を噛む。
だが一度弱った防御なら、再度崩す事は難しくないだろう。
「貴方が何もしなければ、私も何もしません。
此処には貴方と私しかいませんし、貴方が望むなら、見聞きした事を言いふらしたりもしません。
そこは安心してくれて大丈夫です」
躊躇い、沈黙を何度か繰り返した後、ドニカはやがて、ポツリポツリと言葉にし始めた。
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