91
夜が明けたが、ドニカの熱はまだ下がっておらず、話も聞けていない。
今日も今日とて、学院で助手の仕事があるのだが、昨日伝えられた話から察したのか、朝早くから先輩メイドのユーミが宿屋を訪れてた。
フィー不在による、急な仕事の割増イベントがあった事等を、苦笑交じりに話しながら、着替え他を渡してくれる。
「大変申し訳ございませんでした…」
「もう…謝って欲しいんじゃないわ。
急ではあったし、普段わたし達が関わらない仕事だった事もあって、戸惑いやミスはあったけど、皆それなりに楽しんでたから、気にしないで大丈夫よ。
何よりあの、普段は空気な執事長が喋ったのよ!
動いて喋ってたの!!
もう、ラッキーなのかアンラッキーなのかわかんないけど、珍しいものを見られたって、皆テンションが爆上がりになってたわ。
…って、え~っと…コホン、で、どうするの?」
昨日のテンションを思い出したのか、ちょっとおかしな事になっていたユーミだったが、咳払いと共に落ち着きを取り戻し、ちらりとベッドに沈むドニカを一瞥した。
「どう……そうですね。
軽く調べただけですが、生家に連れ戻すのは、現時点では避けたいと考えています。どうやらご家族と色々とあるようで…連絡も、本人と話が出来てから、判断したいと思っています」
フィーは言葉を濁すが嘘は言っていないし、ユーミの方も何となく察したようである。
それにしても、置物と言われても納得しそうな程、動かない、あの執事長が動いて喋った……それは是非見てみたかったと、ちょっぴり残念に思うフィーであった。
「なるほどね。
ま、今日はわたしが彼女を見てるから、学院に行ってらっしゃい。お嬢様にも学院で会えるでしょうし、自分の口から事情を説明しておいて。
もう、昨晩はお嬢様、本当に心配なさってたのよ」
「はい…。
本当に申し訳なく…」
「謝らなくていいって、何度も言ってるのに。
それはそうと、彼女の看病と…後は、じゃあ逃がさないようにしておけばいい?」
「お願いします。
まだ動けないとは思いますが」
「えぇ、油断は禁物ね。
心しておくわ」
「お願いします」
こういう所が流石だと思う。
オファーロ公爵家では、フィーに限らず、これまでも適性のある使用人には、簡単な教育を与えてきたそうだ。あくまで『簡単な』…ではあるが…。
フィーの存在と提言から更に手厚くなったのは事実だが、このユーミもある程度、護身術が使える。
メイド長の娘だから優遇された訳ではなく、適性があったからこそだ。
ちなみに、ケルナー付きのイメネアも、メイド長サリタも、護身術系はからきし…である。
それはそうと、まだ助手としての仕事始め2日目で、サボりを決め込まずに済むらしい。
ユーミは、自分が乗って来た馬を使えば良いと言ってくれたが、いつ何があるかわからない為、馬は宿に残しフィー自身は徒歩で向かう事にする。
フィーなら魔法による身体強化も可能だ。
使うまでもないだろうが、最悪その手段も残されていると考えれば、徒歩移動一択である。
これと言って何かが起こる訳もなく、無事学院に到着したフィーだが、まずアンネッタに会おうと馬車止めで待機する事にした。
普通なら、どう考えても到着は始業ギリギリになる筈なのに、低位貴族の子息子女の馬車が到着する前に、学院へ辿り着いているフィーが異常なだけである。
ぼんやりと待っている間に、かなりの数の馬車が出入りしたが、そろそろ公爵家の馬車が来る頃合いだ。
フィーは、今一度自分の身だしなみを確認する。
問題なしと判断して、姿勢を正していると、待っていたオファーロ家の馬車が見えてきた。
馬車の窓からフィーを確認したアンネッタが、公爵令嬢にあるまじき大声を出して手を振っている。
「フィー!!!」
後で少々お小言が必要かもしれない。
だが…もっとお小言が必要な人物が居た。
「フィー!!
心配したんだぞ!!!」
どうやら、アンネッタの隣に座っていたらしいケルナーが、アンネッタを押し退けて窓から身を乗り出している。
フィーの蟀谷がピクリと動くが、こんな公の場所で咎める訳にもいかない。後から絶対説教すると心に決めて、平常運転でアンネッタとケルナーを出迎えた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
ブックマークやリアクション等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




