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そう言い捨てて、ナホミはあの場にドニカを置き去りにしたのだ。
男爵家に戻って最低限の仕事をしていると、いつの間にか外は暗くなり、雨が降り出していた。
普段は娘の事なんて気に掛けた事もない癖に、今日に限って男爵夫人がドニカの所在を聞いてきた。
居ないとわかると、探して来いとまで言いだす始末。
もしかしたら、ドニカの婚姻先でも見つけてきたのかもしれない。
本音を言って良いのなら、ドニカが何処に売り飛ばされようと、興味も何もない。だが、今はまだナホミの手駒なんだから、勝手な事をされるのは困る…が、こんな雨の中、外に出たくはない。
「っと、今日は最悪…。
あのババァ、何で今日に限って…。
仕方ないじゃない。
ドニカが鈍臭いから、あたしのイライラがMAXになっちゃったんだもの…って、別にいっか。
どうせ、すぐ戻って来るでしょ。
あの鈍臭い子ネズミは、あたしがいないとダメだもんね。鬱陶しいけど……」
ナホミは口を閉じた。
スンと表情をこそぎ落とした後、何かを思い出す様に、目の焦点を曖昧にする。
「……ま、あいつよりマシか…。
やっぱ弟より妹…ってか、ドニカは妹じゃないんだけどさ。
弟って言うより男だからなのかもだけど、つまんないのよねぇ…ちょっとやそっと弄ったくらいじゃ動じないし。
その点、ドニカは一々反応して、ビクビク怯えてくれるから、ホント弄り甲斐があるって言うか。
あのおどおどした新人達を思い出しちゃう。でも不思議よねぇ…こっちは親切心で色々と教えてやってるのに、新人達ときたら、どいつもこいつもホント使えなくて…でも、だんだんとすっきりすると言うか、いつの間にか丁度いいストレス発散になってたわね。
ま、係長に可愛がられてるのが、ムカついてたって言うのもあったかなぁ」
ニンマリと片側の口端を上げた。
「でも、どうしよっかな。
本当に婚姻先が見つかったってんなら、何とか阻止しないと?
だって一応ドニカがヒロインなんだしね。
ヒロインが居なくなっちゃぁ、ストーリーが破綻する訳だし、あたしに何の旨味もなくなっちゃう。
こういう時は旦那の方……あ~違うな、息子の方に言わせた方が、夫人は言う事聞いてくれそう。
今夜は坊ちゃんのベッドで一戦、かしらねぇ」
そんな事を呟いた途端、胸の奥が微かに痛んだ気がする。
ふと自分の胸を見下ろし、ナホミは呆れたように目を細めた。
「ええ~~? まだ居たの?
いい加減成仏しなさいよ。
自分で自分を手放したのは貴方でしょ?
でもまぁ、最後に誇っていいと思うわよ?
なんたって、この顔と身体で旦那も息子も骨抜きだし。
あたしが精々有効活用して、幸せになってあげるから、もう消えちゃってよ。
ね?」
宥める様に自分の胸をあやす。
「さて、説教なんてうざいから、さっさと餌食べさせとくかなぁ。
あ、運ぶ前に鉄板の嫌がらせはしとかないとね」
ナホミは自分の分を皿に取り分けた後、残りのシチューに雑巾の絞り汁を混ぜ込んだ。
「うん、今日も完璧♪
あたしをイラつかせた罰だから、自分を恨んでよね」
一方、王宮からの馬車が公爵邸に到着すると……。
「なんですって!?
フィーが帰ってこないと、諸々……」
メイド長のサリタが、眉間の皺を深くしている隣で、イメネアが某ム〇クの叫びよろしく絶句している。
その正面に陣取る執事長が、ホッホと微笑みながら、珍しく口を開いた。
「仕方ありませんなぁ。
では今夜はお嬢様のお世話は、イメネア、お願いしますよ」
「ぅ、は、はい」
「ユーミは手紙の確認を」
「……はい」
ユーミと言うのは、最初に邸でフィーを預かった先輩メイドで、メイド長サリタの娘である。
その後も執事長は冷静に指示を飛ばしていく。
メニューや各種手配等々……フィーの負担を実感させられる瞬間であった。
「……困りましたな。
流石に旦那様はじめ、皆様の御衣装のデザインは……」
ずらりと並ぶ使用人達と顔を見合わせ、やっと存在感を現した執事長は深い溜息を零した。
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