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困り果てたように、尻もちをついたままのドニカを見降ろせば、彼女の表情はどこまでも虚ろだった。
(……流石にこんな状態の、敵とは言え、弱り切った人を放置すると言うのも……寝覚めが悪い…わよねぇ…)
『とほほ』と書き文字が書きこまれそうな程、フィーはがっくりと項垂れた。
(それにしても…もしかして私に気付いていない?
もし認識出来てるなら、絶対にビシッと指差しながら『アンタは!!』とか、叫び出しそうなのだけど…)
再確認するように、尻もちをついたまま動かないドニカの顔を覗き込む。
目は虚ろだ。
焦点が定まっていない…と言えば良いだろうか。
顔色も良くない、と言うか、はっきり言って悪い。
ついでに言うなら、ちりちりの乾燥わかめのようだった髪は、今は雨に濡れたせいか、毛先が外側に跳ねてはいるものの、強い癖は見受けられない。やはりあの髪型は、ナホミが作っていたのではないだろうか…。
顔や髪だけでなく全身びしょ濡れだし、こんな雨の中で彷徨ってたんだから、身体もさぞ冷え切って……と考えた所で、ふと違和感に気付く。
偶然見つけた相手が想定外の人物だった事で、一瞬思考がフリーズしてしまい、気が回っていなかったのだろう。
フィーは慌ててドニカの額に触れてみる。
(やっば…かなり高熱だわ。
あぁ、どうしよう……)
さっきも考えた通り、公爵邸に連れて行く事は避けたい。
メナジアも、病人を雨空の下に放り出す事はしない…かもしれない、だが、可能性はゼロではないし、何よりアンネッタ達の心情を思えば、やはり連れて行かない一択だ。
ならば近場の、宿にでも連れて行くのが良いだろうか…。
多分だが、生家…モーソー男爵家に連れて行くのは、悪手な気がして仕方ないのだ。
ドニカがこんな状態に陥るなんて、ナホミが原因だとしかフィーには思えない。そして彼女は、その外見とは裏腹に、かなり強かな印象だ。それこそ、あの『根岸 直美』を彷彿とさせる程に。
それに以前、露店通りの顔役ノギーから話を聞いたが、ドニカは幼い頃から育児放棄されていた節がある。
衣服も満足に与えられず、恐らく虐待レベルの放置を、その身に受けていたのではないだろうか。
フィーは、そんな印象を持った。
しかし、そんなドニカに転機が訪れたようだった。
どう言う事情かまではわからなかったが…いや、追跡調査はすべきだと思っていたのだが、学院への潜り込みだの何だので、そっちまで手が回らなくなってしまっていたのだ。
ナホミがモーソー家に住み込みメイドとしてやって来た…それが転機だったのだろうと、フィーは思っている。
それからは、ナホミにベッタリになったとノギーも言っていた。
最初は『まるで本当の姉妹のよう』だった…というのはノギーの談。
だが、ある時を境に、ナホミの表情がなくなった。
その理由もさっぱりわからないが、そこからどう言う経緯で、あのように主従逆転と言うか、支配関係になったのかも、当然わからない。
だが、推察出来る事はある。
ドニカはナホミに依存していた…のではないだろうか?
ナホミに見放されたら生きていけない…と思い詰める程に、縋っていたのではないだろうか…。
勿論、フィーの憶測で、事実ではない可能性も十二分以上にある。だが、この状況を見るに、ナホミと何かあった可能性は捨てきれない。
そんなナホミが居る場所に、今のドニカを戻すのは、どうしても得策だとは思えないのだ。
フィーはポケットに金袋が入っているのを、素早く確認する。
邸から出る時は、念の為に常に金袋は携帯するようにしていたのだが、思わぬところで役に立ちそうだ。
ぽつぽつと見える街灯りの方を、少し爪先立って見つめる。
(ちょっと距離があるわ。
病人を歩かせるのは酷……よね。申し訳ないと思うけど、御者さんに頼んでみようか…)
フィーは、自分を追って足元の悪い土手を、何とか降りようとしている御者に向かって声を出した。
「すみません。
病人を見つけたので、近くの宿までお願い出来ませんか?」
決して嘘は言っていない。
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