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ぼんやり、暗い空から途切れる事なく降り落ちてくる雫を見ていると、車輪が伝えてくる振動と音が変わった。
いつの間にか橋の所まで来ていたらしい。
ふと視線をおろすと重い雨雲のせいで、どんよりと翳る街並みに、ぽつぽつと点在する街灯りが雨粒に滲むように見えた。
視界に違和感を感じたのは、その時だ。
視界の端、しかも下の方で背の高い…葦のような植物が、さわりと不自然に揺れる。
雨粒は、素直に重力に引かれる軌跡を描いているから、風は殆どないはずなのに、群生の一角だけざわざわと揺れ動いているのだ。
フィーは気になって目を凝らす。
まだ川は大人しい、いつもの顔をしていたが、この雨で、そのうち増水するかもしれない。
もし葦を揺らしている何者かが居るのなら…それが人間なら危険を伝えないといけないし、動物なら保護してやる必要性が出てくるだろう。
馬車の壁を叩いて御者に合図を送ると、しっかりと伝わってようで、馬車は速度を緩め…そして橋の真ん中を過ぎた辺りで止まった。
今一度、葦の群生、揺れていた一角に視線を向けて観察する。
葦の向こうに埋もれる様にして動く人影が見えた。
草影に埋もれている事からも、覗き見えた人影が子供である可能性がある。
本当に子供なら危険だ。
フィーは慌てて馬車を降り、土手へと急ぐ。
「ちょっと、そこの人、上がって!
雨で増水するかもしれないから、早く!!」
だが人影は動かない…いや、動いてはいた……土手の方ではなく、川の方へ……。
聞こえていないのだろうか、それとも怖くてパニックになっているのか。
このまま土手の上から呼びかけていても、人影が土手を上がってきてくれる可能性は、かなり低そうだ。
フィーは意を決して、雨の中、足元の悪い土手を下りる選択をした。
背後で御者が何か叫んでいるが、人命救助の方が大事だろう。
勿論、既に増水しているのなら衛兵なり、大人を呼んでくるのが正解だろうが、まだ増水してはいない。
それに、もし万が一があっても、フィーなら魔法でどうにか出来る。
「待って!
そっちは危ないから、止まって!!」
聞こえていないかもしれないが、フィーは必死に叫びながら人影に近付いた。
足元が覚束ないみたいで、ふらついてるようにも見える人物の手を、何とか摑まえる。
だが、相手はそれにも構わず、尚も川の方へと進もうとしていた。
「危ないってば!
そっちに進まないで、止まって!」
そこでやっとフィーは気付く。
相手の方がフィーより年長そうだ。追いかける形になっていたので、相手の後頭部しか見えないが、フィーはやや見上げる体勢になっていた。
これは少し力を強くしないと、振り切られると思ったフィーは、少しばかり強めに掴んだ手を引っ張る。
するとやっと止まった人物は、止まっただけでなく引かれた力の方向、つまり背面の方に倒れ込んできた。
急いで支えようとするが、フィーは倒れ込んできた人物の顔が見えた事で、一瞬固まってしまい、相手は派手に尻もちをつく事に…。
想定外…いや、気に掛けると言ったのはフィー自身だし、こうして見つかったのは僥倖だが……。
思わずフィーは、図らずも迫ってしまった川面を見つめる。
(まさか…自殺?
いやいや…そんな、まさか…よね。
そうじゃなく!
なんでドニカがこんな所を徘徊してるのよ!?
あ~行方不明って聞きはしたけど、まさか川に自分から向かうなんて…何があったの…?)
雨粒が全身を叩くのも構わず、フィーは思考の海に沈み込む。
だが、背後から追いかけてきた男性の声で、ハッと我に返った。
追いかけてきた御者の声だと気付き、フィーはふるんと一度、大きく首を振った。
(兎に角、こんな所でぼんやりしてる場合じゃないわ。
でも、どうしよう……ドニカを公爵邸に連れて行くなんて、流石に無理だし……)
一応アンネッタの同年生ではあるが、一方的にアンネッタに絡んでいたドニカを、公爵家の誰も受け入れないだろう。
(そうよねぇ…。
お嬢様はまだしも、奥様は『とっとと捨ててきておしまいなさい』とか、にんまりと微笑みながら言うに違いないわ。
まぁ、これまでの行いの報いではあるのだけど…)
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