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おろおろと狼狽えるばかりの耕作に、落ち着くよう言い聞かせる。
実際、低位とは言え、仮にも貴族令嬢が行方不明なんて、醜聞でしかないのだ。
なので家が、秘密裏に捜索するのが一般的な筈。
心底不愉快だが、この世界、この国では女性は物扱い…いや、もっと有体に言うなら商品なのだ。
婚姻も、所有権が当主である父親から、夫に移るだけの事。
王であるクーノに言いたい放題なヨリアンナでさえ、婚姻そのものは政略で、彼女の意思が介在する事はなかった。
あのネルローネでさえ、婚姻は国益を第一に考えて…と、政略を受け入れるつもりでいる。
そんな世界、国だから、令嬢の商品価値を下げるような真似は、普通はしない。
その為ドニカについても、聞かなかった事にして静観するのが、推奨される対応だろう。
一応フィーも気に掛けておくと言って、耕作には『落ち着かないだろうが、何もするな』と釘を刺しておく。
そんなこんなで話の腰も折れた事だし、今日はこの辺りで下がる事にした。
一応、アンネッタやケルナー、公爵家に牙剥くつもりはない事は確認出来たし、ドニカを妃に…なんて言う馬鹿な話も出なかった。
中の人である耕作が消失したりする可能性は、無きにしも非ずだが、少なくとも今は耕作なので、常識的対応を期待出来るだろう。
不安を抱える耕作には悪いと思うが、他にも知った事や思った事、諸々の整理をする時間も欲しいので、また来ると告げて早々に部屋を辞し、挨拶の為にネルローネの部屋に立ち寄ってから、馬車止めへ向かった。
徒歩で帰邸を考えていたのだが、いつの間にか雨が降り出していたらしい。
雨なんて、魔法で弾けば濡れる事もないし、大袈裟だと思うのだが、ネルローネからは、馬車で帰るようにと厳命された。
しかも既に準備済みだと言われれば、断り続けるのも失礼になってしまう。
馬車止めには、既に一台の馬車が待機しており、御者がフィーに気付くと直ぐに扉を開けてくれた。
どうしても苦笑が浮かんでしまうが、御者には丁寧に感謝を伝えて乗り込む。
程なくして動き出した馬車は、やはり王家所有…と言わざるを得なかった。
一応黒塗りの、地味な馬車を選んでくれたようだが、乗り心地は最高である。
揺れも殆どないし、窓はあるが嵌め殺しになっていて、外の音も殆ど響いてこない。
フィーは、やはり緊張していたのだろう。
他人の目もない馬車内と言う事で、身体から力を抜くと、思わずホッと息が漏れた。
(はぁ…兎に角これで、エネオットの方は暫く放置しておけるわね。
それにしても根岸リーダーの弟かぁ…世間は狭いと言うか…。
でも…ぅん、不憫ではあるわよね。
だってあの人が姉なんて、少なくとも私だったら悪夢だと思うし、何より大学生で死亡するか何かしたんでしょう?
まだ下手したら10代じゃない…。
そんな若くして、一番楽しい時間を手放す事を強いられたなんて。
どうにもお嬢様との縁は切れそうだけど、是非ともエネオット…もとい耕作には、幸せになって欲しいものだわね)
そんな、取り留めもない事をだらだらと考えながら、ふと窓から外を見る。
少し目線を上げて、大粒の雨を見つめた。
(こんな雨の中、ぶっ飛んでるとは言え、仮にも貴族令嬢が一人でなんて……無事でいると良いけど)
ドニカとナホミの遣り取りを盗み見ているうちに、もしかすると彼女は、ナホミの操り人形なだけではないか…と言う考えが浮き沈みしている。
ただ、言動は転生者のそれで、転生者が使用人に主導権を握られるなんて、そんな構図はあり得るのだろうか…という疑問もわくのだ。
(そうなのよね…転生者って、大抵が学生とか社会人…あぁ、老人だったりする話もあったっけ。
そんな年齢の現代人が、この世界、国の人間にいいように使われるって、あんまり想像出来な……待って、転生者が子供なら?
……ないわ、いやぁ、ないわ。
だって、そんな子供なら、そも乙女げーなんてしないでしょ…。
う~~ん、やっぱりわかんないなぁ)
ぼんやりと外を見ていた事を、『でかした自分!』と褒め称えたくなるのは直ぐの事だった。
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