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自分でも気づかないうちに、フィーは口角をほんの少し上げていた。
「それはそれは…。
じゃあお嬢様…アンネッタと敵対はしないと、そう言う認識で良い?」
フィーの問い掛けに、躊躇う事なく耕作は頷いた。
「それは、当然っつーか。
いや、これまでのエネオット…ってか、自分の事なんだけどさ……その記憶がしっかりとあって、わりと居た堪れない…。
でもまぁ……わからなくはない、かもな」
そう呟いた耕作の表情は、どこか虚ろな空気を纏っている。
「あ、先に謝っとく。
俺自身が『自分の感想、思い出』ってまだ思えなくて、他人事な感想になるけど、それはごめん。
で、幼い頃…アンネッタちゃんと出会って直ぐの時は、『なんて可愛らしい女の子なんだ』とか思ってたみたいなんだよ」
フィーは無言で先を促す。
「劣等感…なんだろうなぁ。
原作ゲームの方でもそうだったのかはわからないけど、今ざっくりと過去を振り返って感じるのは、素直過ぎる馬鹿?
いや…もっと有体に言うなら、思考力のない馬鹿、かな。
多分なんだけど、側近のデービー達も、劣等感を感じてたと思うんだ。
アンネッタちゃんだけじゃなく、ケルナーもかなり優秀だろ?」
当然だ。
シナリオ強制力に立ち向かう為にも…と、フィーが全身全霊で矯正したのだから。
「で、デービーが筆頭かな…エネオットに色々と吹き込んだみたいだ。
アンネッタはエネオットを見下してるとか。
で、だんだんとエネオット自身も、そう言う考えに馴染んじゃった感じだな」
言葉が途切れたのを合図に、フィーは無意識に口に出していた。
「つまりどう言う事?
今のエネオットは耕作さんであって、エネオットだった人格はもう居ないって事?」
そう言う事なら転生と言うより、憑依なのかもしれない。別に今更重要な事ではないが、つい気になってしまった。
耕作も、問いの意味をしっかりと捉えられたらしい。
「転生なのか、それとも憑りついただけか…って事?
わかんないなぁ…俺自身死んだのかも曖昧だし。
でもほら、そう言う記憶がないからと言って、転生じゃないと言い切るのも難しいだろ?
そうだなぁ…これまでのエネオットが、死んだとか消失したって感覚じゃないかも。
そうそう、過去のエネオットはすんごく悩んでたみたいだぞ。
僻んじゃう自分も嫌だったみたいで、必死に抵抗していた節があるんだよ。
なんて言えば良いんだろ…なんか押さえつけられてるような、目隠しをされたような……そんな息苦しさを、どうにかしたかったみたい。
アンネッタちゃんの事は嫌いじゃないけど、劣等感が根っこにあって、それをデービーとかにずっとちくちく弄られて…で、そのうち考えると自分が苦しくなるから、考えるのを止めたっていうのも本当なんだろうけど。
エネオットもデービーも、何かにつけてアンネッタちゃんやケルナーと比べられてたみたいだから、可哀想な気もする」
圧力に抵抗…もしかすると、エネオットにはシナリオ強制力が作用してたのかもしれない。
確認する術もないので推論でしかないが、もしそうなら、エネオットは外圧で歪められていた可能性が出てくる。
それはそれとして、耕作の言う可哀想と言う気持ちは、わからなくはない。
身近に非の打ちどころのない人物がいると、逃げ場がないだけに苦しいだろう。
ちょっと待て…。
エネオット限定なのかはわからないが、もしシナリオ強制力が発動してたなら、ヒロイン…今の場合ドニカだろうか…彼女に対する気持ちは?
話が少々ズレてしまうが、先に聞いておきたい。
「ドニカ?
あぁ、あの煩い娘な。
なんか婚約者予算って言うのか?
それをアンネッタちゃんに使いたくないのと、婚約をナシにしたくて、他の女の子を侍らせ始めたみたいだな」
フィーが無言のまま半眼になり、口角をあからさまに下げた。
それに気付いていないのか、耕作は続ける。
「だからドニカに対して、別に恋愛感情はないな…。
ほんと、他人事な物言いになって悪いんだけど、過去のエネオットにもそう言う感情はないみたいだ」
転生にしろ憑依にしろ、耕作としての意識が消えないなら、その内、融合するなりして落ち着くだろう。
何より、ヒロインに溺れると言う事はなさそうだ。
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