82
聞かされた時の心情は『は?』だった。
もうそれ以上でも、それ以下でもなく、一瞬脳が言葉を拒否した…そんな感じ。
まさかそんな仕事に関係のない事が、いじめと言うか…嫌がらせの切っ掛けだなんて思いもしなかった。
いや、確かに世を騒がせていた、それ系の問題の切っ掛けって、恐らく些細な事が殆どなのだろう。
加害者にとっては重大な事でも、被害者含む一般にとっては『えーっと?』という構図である。
理不尽過ぎて、全身で理解を拒んでしまった。
次に訪れたのは脱力…自分が足掻いた所で、どうこう出来る問題ではない……そう思えば、溜息交じりに脱力するしかないだろう。
確かに『本田係長』と言う人物…まだ30代前半の独身で、穏やかで面倒見の良い性質なので、女性社員からの人気は高かった。
だが…実は人気と言っても、それはあくまで上司やリーダーとしてで、男性としてではない。
彼には既に恋人が居た。
社内では知る人ぞ知るで、知っている者達は生暖かく、適度な距離感を保っていた。
何故かと言えば、係長の恋人と言うのが同性だったからである。
まだ嫌悪感を持つ者もいるだろうと、この話はあまり広まる事はなく、同じチームの一部だけが知っている話だったが……まさか、思い切りズレた『色恋沙汰』で、嫌がらせをされていただなんて、想定外も甚だしい。
だが根岸…耕作とごっちゃになって、ややこしいので『直美』と呼称しよう。
直美は『知らない陣営』だったのだろう。
そのせいで新人達に優しい本田の態度に、カチンときたのだろうが、そもそも本田金三には恋人がいる。
少なくとも芙美子達新人が、被害に遭わなければならない理由は、欠片もなかったのだ。
そんな問題社員だった彼女が、リストラされなかったのは、お偉いさんに親戚が居たからである。
ありふれた話すぎて、涙も出ないとはこの事だ。
とは言え、これまでの話と今の耕作の態度を見るに、直美の事で耕作を責めるのは筋違いだろう。
お偉いさんに対しても、耕作が何かお願いしたとかでもないようだ。
いや、勿論腹は立つ。
腹は立つのだが、芙美子…フィーの中の冷静な部分が、しっかりと分析してしまうのだ。
でも、結局死に至ったのは自業自得よね?……と…。
そう、嫌がらせの切っ掛けは直美の思い込みや誤解。
だから、そんな物で振り回された事は、怒って良いとフィーも思う。
しかし……あの時点、あの状況で、更に睡眠時間を削ってしまうモノに手を出したのは、間違いなく自分だ。
「とりあえず立って。
貴方は家族だったかもしれないけど、根岸リーダーじゃないし、貴方とは面識もなかったんだから、土下座なんてされても困るってば…」
へにゃりと、ほんのり苦みを含む歪な笑みを浮かべると、見上げていた耕作は泣きそうな顔で、グッと唇を噛み締めた。
セルが居たので推しにはならなかったが、中身は兎も角、エネオットも結構な美少年。
そんな美少年が痛苦を耐えるような顔をしているのだから、一旦すべては呑み込んでおくのがベターだろう。
フィーからの促しで、よろよろと立ち上がった耕作だったが、衝撃は思いの外大きかったようだ。
「……でも…ごめん…」
沈みきった声で呟く耕作だったが、既にどちらも転生済みだ。
前世の事で言い合うなんて、建設的ではない。
大事なのはこれからの事だ。
「前世の話は一旦横に置いてよ。
それより『今』なんだから。
一旦整理するわよ?
耕作さんとして、とりあえず『流恋』の話の流れは把握してるって事で良い?
少なくとも、誰が主人公かはわかってるでしょ?」
「それは、うん。
あの短い会話だけでも、そのくらいはわかったよ。
そのせいで、ちょっと悪役令嬢の方に興味出て、ネットで少し調べたりしたし」
イベントは直美から『進めるな』と言われていたからだろう。
「だから俺…なんであのヒロインが主人公なのか、さっぱりわからんくてさ…。
だってあの姉ちゃんに似てるんだぞ?
碌な奴じゃないじゃないか…普通にアンネッタちゃんの方が可愛かったしさ」
フィーは目を丸くした。
今、耕作は『アンネッタの方が可愛い』と言わなかったか?
これは……彼が敵に回る可能性は、ない…いや、百歩譲って、低い…のではないだろうか?
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
ブックマークやリアクション等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




