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芙美子として、自分でも気になってちょっとだけ調べた事がある。
『織田』と書いて『おりた』と読む人は、『織田』全体の2割ほど居るらしい。
ざっくりと言ってしまえば、少しだけ珍しいと言えるかも…な読み方だ。
「確か…『新人の癖に』とか『なんで最後に残ったのが、選りにも選って織田なのよ』とか…後は『本田係長と…なんて、許せない』とか…」
思わぬ名に、フィーの方が目を瞠って固まってしまった。
「ちょ……待って…『本田係長』?
本田って……まさか…ね…」
『本田』という名前には、聞き覚えがある。
新人教育を担当してくれた、直属の上司とも言える人物。
その上司と姓が合致する……となれば……と、そこまで考えて、フィーは一旦逸らした視線を耕作に戻した。
「聞いて良い?
本田係長の下の名前は聞いた事ある?
それと、さっきは言わなかったけど、貴方の名字は」
フィーは、朧気に浮かんだ人物でない事を祈りながら問いかける。
『本田』なんて、ありふれた名字だ……同一人物とは限らない…はず…。
「聞いた事ある様な気もするけど……なんか古臭い名前だったような…『なんとかぞう』って、時代劇にでも出てきそうな…。
あ、俺、下の名前しか言ってなかったっけ、ごめん。
名字は根岸。
ついでに姉ちゃんの名前は直美」
フィーは思わず蟀谷を揉んだ。
表情は当然のように渋面である。
上司の本田の名前は『金三』
30代前半の独身で、面倒見の良いタイプだった。
名前が少々時代錯誤な為、よく周囲から揶揄われていたので、フィーの前世である芙美子も、聞き知っていた。
そして、一番の問題は耕作の名字……いや、はっきり言おう。
耕作の姉と言う『根岸 直美』が問題だ。
前世日本……芙美子が入社した企業は、一流とまではいかないが、それなりに大手の商社だった。
既に社会人となっていた先輩達からの評判も、特に悪いモノはなく、安心していたのだ。
しかし配属された部署が悪かったらしい。
芙美子と同期入社で、同部署に配属されたのは3人。
実を言うと、少し『?』とは思っていた。
新人を3人も同じ部署に配属する事に、違和感があったのだ。
しかし新社会人となって浮かれていた芙美子達、まっさらの子羊達はそんな違和感なんてすぐに忘れてしまう……。
配属されて直ぐに、『同部署でも別チームだと仕事は異なるから、何かあれば同じチームの人間に聞くように』と釘を刺された。
これは、まぁそんなものかぁと軽く受け流していたが、徐々に実態が明らかになってくる。
別チームの女性リーダーが、妙に絡んでくるのだ。
最初に受けた注意の事は気になったが、別チームとは言え、仮にも先輩女性にあんまりな態度をとる事も出来ず、新人なりに当たり障りなく過ごそうとしていた。
だが…やはり、だんだんと見えてきた実態に、芙美子達もその女性リーダーを敬遠し始める。
何しろ、仕事の話ならまだ我慢できたが、自分語りから始まり、最後は本田係長の事。
これがほぼ毎日だ。
辟易するなと言う方が無理だろう…。
それからは、あからさまな嫌がらせが始まった。
はじめは些細な事だった。
しかしそれはゆっくりと、しかし確実にエスカレートしていく。
多分、最初に標的にされたのは芙美子だった。
しかし元から争ったりするのが苦手だった芙美子が、何とか穏便に済ませようとしている間に、ちょっと気の強い新人の一人が物申してしまった。
そこからはお察しいただけると思うが、標的は気の強い彼女に移る。
最初は何とか抵抗していた彼女だったが、あっさりと退職を決めた。
最後に…。
『あんた達も早々に見限った方がいいわよ。
あんな先輩が居るんじゃ、頑張ったって損するだけよ』
と言い残して、颯爽と去って行った。
次の標的は、芙美子よりも大人しそうな新人に向いた。
彼女は必死に耐えていたが、そう掛からずに限界が訪れたようだ……最後には出社する事も出来なくなり、退職代行を使って去って行った。
その間に、女性リーダー…根岸直美のチームが崩壊していく。
彼女のチームの者達も、とうとう我慢できなくなったのか退職し始めたのだ。
その結果、芙美子達逃げ遅れた面々が、酷使され……ま、そう言う事だ。
癒しを求めて『流恋』に手を出した頃、直美チームの一人から聞かされた。
いじめの原因は、新人教育に本田係長が携わっていたからだ…だと。
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