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まずは順当にノックする。
アンネッタ達、他の王族の部屋からは考えられない程、かなりシンプル且つ重そうな扉だ。
エネオットが暴れたりするから、飾り気の少ない部屋が、自室として割り当てられたのだろう。
そして案の定無言だ。
フィーは想定の範囲内と思いながらも、つい溜息が零れる……が、ここで反転180度してしまったら、今日訪れた意味がない。
もう一度ノックし、今度は声も掛けた。
「王子殿下。
フィーでございます。
扉を開けて頂けませんか?」
扉の奥で人の動く気配がする。
我慢強く待っていると…。
「(………か、帰れ!!)」
扉越しに、くぐもった応えがあった。
(声は……くぐもって聞こえるけど、エネオットに間違いなさそう。
でも、妙におどおどした感じがする。やっぱり転機があったみたいね。
それが記憶のせいか、魂のせいか、それともそれ以外なのかはわからないけれど。
けど、どうしたものかしら…このまま来た道を戻ると言う選択肢はない。
ない以上、扉をなんとしても抉じ開けないと…。
……ぃゃまぁ、だからってダンスする気はないけど…)
正確には単なるダンスではないが、そんな事はどうでも良い。
今の所、声を掛けるしか方法がない訳だが……どう言った言葉を掛ければ、扉を開かせる事が出来るだろうか?
フィーは思わず腕組みをして考える。
(これまでのエネオットとしての記憶があるなら、フィーと名乗ったのは悪手だったかもしれないわね。
出来れば遭遇したくない…それこそ敵…と言うか天敵だもの。
……ぁ…そうだわ……ぃぇ、でも……)
何か思いついた様だが、直ぐに逡巡してしまった。
しかし他に方法はないと決意したのか、フィーは双眸を閉じてゆっくりと深呼吸してから、徐に扉に近付き……身を屈めて張り付いた。
「超大盛りフェア」
中の気配がたじろいだように感じる。
前世を彷彿とさせる言葉は、フィーにとっても諸刃の剣だ。
なにしろ、これはフィーにも前世の記憶があると、白状しているに等しい行為だからである。
エネオットの中身次第では、敵になるしかないから、可能な限り避けたかったが仕方ない。
賭けなのは確かだが、さっきの返答から『勝算あり』と見込んでの行動だ。
(中身が碌でもない人物なら、おどおどした感じにはならないと思うのよね。
そう言う人物なら、きっと開き直るに違いないもの。
開き直った挙句、呆れ返る程、弱みも変化も、見せたりしないモノだと思う。
………あれ、私ってじゃあ……碌でもない?
まぁ良いわ。
開き直ったけど、別に悪事を企んだりしてないし…きっと悪役なのは顔だけよ)
そんなズレた事を考えていると、中の人物…エネオットが、ゆっくりと近づいてくる気配がある。
だが、少しすると止まってしまった。
やはり、あまり悪人の反応ではない気がする。
「ラノベ、サブスク、アニメ、漫画、他には……ゲームも……オタクにとってはこの世界、『ないモノ尽くし』で辛いものがありますよね」
立ち止まっていた気配が、驚きの早さで扉越し直ぐにまで近付いてきた。
そして間髪入れずに開錠音。
……ゆっくりと薄く扉が薄く開いた。
開かれた扉の隙間、その奥の暗がりに、窶れきったエネオットが驚愕の表情で、立っているのが見える。
暗がりのせいだけではない顔色の悪さに、フィーの方がギョッとしたくらいだ。
「……ィ……フィー……き、みは…」
暫く、声を発する事もなかったのだろう。
一人閉じ籠って、話し相手も居ないのならそうなるしかない。
最初は声が掠れていた。
だが、それに留まらず、扉の奥のエネオットは、くしゃりと顔を歪めたかと思うと、滂沱の涙を零し始める。
ただでさえギョッと身を引いていたフィーだが、思わず仰け反ってしまった。
だが直ぐにハッとして、周囲を見回し、誰もいない事を再確認すると、素早くエネオットの部屋に滑り込んだ。
中身はどうあれ、彼は『エネオット』その人である事に変わりはない。
一国の王子殿下が、泣き顔なんて周囲に見せる訳にはいかないだろうとの判断だ。
そっと扉が閉じられる。
男女が密室に…なんて言ってる場合ではないし、問題になるのは同じ貴族階級の令嬢や夫人に限った事で、メイドなんて動く置物程度にしか思われていない以上、問題にもならない。
そして…部屋の前の廊下には、静寂が戻って来た。
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