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長く…と言っても数百年程の事らしいのだが、その『魔窟の森』と言う場所に立ち入った者は居ないと言われている。
いや、立ち入ろうとした者達は居たのだ。
当然だろう…灰の森に迷い込んだ旅人等が、魔窟の森には遠目にだが、魔物が居るように見えた…等と騒げば調査に行くしかない。
だが、灰の森までなら兎も角、魔窟の森に入り込んだ者達は、誰も帰っては来なかった。
そして調査は頓挫し、それ以上、誰も手出ししようとはしなくなった…という経緯がある。
そんな森に住まうと言う魔物も、何故か灰の森へ姿を見せる事はない。
魔窟の森と、人の住まう場所、その間の防壁として機能しているのだろう。
尤も、魔物が足を踏み入れないからと言って、人間が暮らすのに向いた土地かと言えば、決してそうではない。
名の通り灰色に見える場所だ。
木々は枯れ乾いて、まるで骨が乱立しているような錯覚を覚える場所…当然のように土地も痩せ枯れていて、水もない。
だが、灰の森より東側は安全だと、経験的に知った人々は、不干渉に徹する事にした。
下手に手出しして、魔物が溢れるなんて事にでもなれば、取り返しがつかない。
そんな魔窟の森には、ある伝承があった。
いや…最早、夢物語、御伽噺と一蹴されるような話だ。
それは以前、フィーが書庫で写本を担当していた話でもある。
魔法皇王国…調査考察では、数百年前にあの場所は、そう呼ばれていたと言う記述があった。
王宮へ到着したフィーは、まずネルローネに挨拶に向かった。
慣れたもので、ネルローネの部屋へ迷う事なく到着する。
部屋の扉脇で警護する騎士達に、フィーは足を止めて深く一礼した。
「失礼します。
王女殿下に御挨拶に参りました」
王女の私室に近付いてくる人影を、当然のように観察していた騎士達は、見知った顔に緊張を解いて待ち構えていた。
「あぁ、フィー殿か。
王女殿下より聞いている。
どうぞ」
再度深く礼をして、ノックの後、開けられた扉から中に入った。
部屋に入ると、直ぐに大きな衝立が目に入る。
見事に王族の部屋だな…と思う。
衝立は勿論、置かれている調度品の数々は、華美で豪華だ。
アンネッタに伴われ、初めて王宮を訪れた時なんて、思わず『売ったら幾らになるんだろう…』と、つい思ってしまった記憶がある。
その衝立の奥から声が掛かった。
「フィー?
あぁ、奥に来て頂戴」
「失礼いたします」
奥に進むと、お茶を楽しみながら、ソファで寛ぐネルローネと目が合う。
「いらっしゃい。
あら…アンネッタは?」
フィーが一人らしいと分かり、ネルローネは首を傾けた。
「本日は邸にお留まり頂きました」
「残念。
アンネッタも来るかしらって、ちょっぴり期待してたんだけど」
「申し訳ございません。
ですが……」
流石に、はっきりとは言わず、言葉を濁してしまう。
仮にも王宮内で、自身が仕える主人である令嬢に、危害が及ぶ可能性があるだなんて、きっぱりと言い切る訳にもいかない。
だが、ネルローネはくすっと笑って頷いた。
「ま、あの馬鹿なら、この部屋まで乗り込んでくるかもしれないものね。
アンネッタは来なくて正解だったかも」
手にしていたカップをソーサーに戻したネルローネは、表情を改めると、少しばかり心配そうに問いかける。
「本当にあの馬鹿と話をするつもりなの?
ん~…悪い事は言わないわ。止めといた方がいいと思うんだけど……だってあの兄よ?
話が通じる訳ないわよ。今までだって話が通じた事なんてないでしょう?
ま、無理に止めないけど、閉じ籠ったまま返事もしないかもしれない事は、承知しておいてね」
ネルローネの言葉には、一理しかない。
エネオットに関する様々な記憶が、脳裏に蘇るが……どれも碌な記憶ではなかった。しかし、ネルローネの言っていた呟きが本当なら、これまでとは話は変わる。
『スマホ』『コンビニ』…どちらも当然のように、この国だけでなく世界に存在しない。
『ガヴォッドラーヘン』『エネミー』『流恋』…これらは、あのゲームを知っていると言う事だ。
敵か味方か……新生エネオットがどちらなのか……それを見極めなければならない。
ネルローネへの挨拶を終えたフィーは、勝手知ったる何とやら……案内もなしにエネオットの部屋の前に到着する。
彼の心の表れかもしれない…と、つい思ってしまう程、警備の騎士もいないまま閉ざされた扉は、酷く頑なに感じた。
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