70 狭間の物語 ◇◇◇ ナホミの望み
フィーにあっさりと追い払われたナホミは、校舎を出た所で振り返り、忌々し気に睨み付ける。
そしてギリっと親指の爪を噛んだ。
無意識にガジガジと何度も噛んでしまい、気付いた時には爪がボロボロになっていた。
そんな爪を見つめて、ナホミは唇を噛み締める。
―――あたしだって幸せになりたい……
ドニカを校舎前まで送り届け、ぼんやりと眺めていたナホミの視界の端に、鮮やかな若草色が飛び込んできた。
普段は決して見る事のない色……。
登校時の混雑を避ける為か、爵位によって学院到着時間をずらすと言う慣習が、暗黙の了解で受け継がれていた。
低位の者ほど早く、高位になる程遅く学院に到着するよう、其々調整するので、男爵家のドニカの登校時に公爵家のアンネッタが到着する事なんて、普段にはあり得ない。
だが…と、ナホミはニヤリと笑う。
こんな表情を普段する事はないように気を付けているのだが、今は思いがけない幸運に気が緩んでしまったようだ。
―――これはチャンスよ
―――以前は失敗したけど…
―――何とか公爵家に近付く切っ掛けが欲しい
ナホミは小さく咳ばらいをし、自分に気合を入れる。
そして浮かんでいた、邪な笑みを消し去った。
―――ドニカが思った以上に役立たずなんだもの
―――役立たずどころか、足を引っ張るだけだなんて最悪
―――もう、自分で頑張るしかないわ
ナホミの視界には、若草色と一緒に蜂蜜色も映り込んでいるが、そんな事は気にしていられない。
一応保険としてドニカを足掛かりに、デービーとチェポンにも面識を持ったが、デービーはあまり好みではないし、チェポンははっきり言って反応が悪くて鈍感すぎてだから、ナホミには嫌いな部類だ。
―――エネオットは王子だし、面倒そうだから避けたけど…
―――アレとも接点を持っておけばよかったかな
―――ドニカが王子を篭絡してくれればって思ってたのに
嫌な記憶でも蘇ったのか、ナホミは表情を歪ませる。
そして、また無意識に親指の爪を噛みだした。
―――なんで夢の通りにならないんだろ…
―――もうホント上手くいかない!
―――あのボンクラは王子を完全に落とせてないっぽいし…
―――あたしの幸せの為って思ったから、我慢して面倒見てやったのに
ボンクラで役立たずなドニカだが、ナホミの言う事は素直に聞く。
それしか能がないと言えるが、せっせとナホミが吹き込んだとおりに動く操り人形だ。そこかしこにボロが見え隠れしているのに、ドニカはナホミを妄信して疑いもしない。
校舎に入って行ったアンネッタとメイドに、ドニカが絡みだした。
何をどう言って絡んでいるのか、声が聞こえなくてわからない事は残念だが、こればかりは仕方ない。
―――うんうん、ドニカの取り柄なんてそれだけだもんね
―――もっと盛大に絡むのよ
―――逆上させるとか…成功しないかなぁ
―――そうしてドニカに手でも上げてくれたらいいのに…
仮にも仕える令嬢であるドニカに対して、一介のメイドが持っていい感情ではない。
だが、こっそりと覗き見るナホミの心の内に湧き上がるのは、どす黒いモノ…。
わくわくしながら『どっちでもいい…やらかしてくれないかな…』等という、人として下劣な…不謹慎極まりない感情のみ。
だが、流石に不謹慎過ぎたのかもしれない。
少し離れた場所で身を潜めるナホミを遮断するかのように、校舎の扉が閉まってしまった。
―――って、あぁ!!
―――扉が閉まっちゃったじゃない……もう…
状況がわからず、苛立ちが募る。
だが、ナホミの邪な願いを拾い上げる神でも居たのだろうか……。
突然響いた悲鳴。
声の感じから、ドニカでもないし、多分あのメイドでもない。
ナホミはニヤリと笑った。
―――今だ…きっと今だわ!
―――あぁ、ケルナー…もう少し待っててね
―――フフ……アハハ……我慢した甲斐があったってもんだわ!
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