211 狭間の物語 ◇◇◇ 羈旅終演―1―
『羈旅終演』~造語です! 四字熟語としてある訳ではありません! すみません!!
荷物は大事な物だけ手元に残し、他は先にリッケ家へ送った。
3人は途中、辻馬車を拾ったり荷車を借りたりして、一路イボルボンを目指している。
「なぁ、戻ったら直ぐ報告なんだよな?
リッケの当主と、後は?」
ルルが荷車の上で寝そべりながら尋ねると、馬を操るシャフが前を見たまま答えた。
「リッケ家の御当主に言えば、後は伝わるでしょう。
それがどうかしたんです?」
「いや、なんか面倒だなぁって思ってさ。
でもあの狸親父に言うだけで良いなら、まぁ諦めるかぁ…つっても、報告はセルかシャフがしてくれるんだよな?
俺、あの父娘苦手なんだよ…」
「わたしも苦手ですよ。
それはセル様も同じだと思いますがね」
シャフとルルの会話が聞こえているのかいないのか…セルは寝そべるルルの隣で、手元に残した本を読んでいる。
尤も、その頁は進んでおらず、開かれたまま止まっている。
心此処に在らず…な様子がずっと続いているセルを、ルルが半身を起こして見つめた。
「セル」
「………」
「セル! おい!!」
「…ぁ、ぅん? 何?」
ぼうっとしたままのセルに、ルルがガシガシと髪を掻き毟り、盛大な溜息を落とす。
「はぁ、まぁいいや。
少し休憩しようぜ。そろそろ昼飯に良い時間だろ?」
ルルの言葉を切っ掛けに、荷馬車を街道の脇に寄せて止める。
手前の宿場で買っておいたパンと水を取り出し、少し早めの昼食となった。
「国境まで、後どのくらい?」
ボーカイネンとイボルボンの国境までは、意外と距離がある。しかも国境付近は地形が平坦ではないし、何より渡河があった。
街道を繋ぐ橋が使えれば良いが、通行制限や橋の損壊があれば、大きく迂回を余儀なくされるかもしれない。
「まだ後2日か3日くらいはかかるかもしれませんね。ボーカイネンの王都を出て、もう5日になりますが、道が悪すぎですよ。
少し天気も崩れそうですし」
シャフは空を見上げた。
まだ雨雲なんてどこにも見えないが、ほんの少し、土と水の匂いが増したかもしれない。
「あ~…確かに。
んじゃどうする?
次の宿場まで天気が持つかな?」
ルルも空を見上げて、げんなりと呟いた。
丁度宿場と宿場の中間辺りなので、戻っても進んでも、距離的には変わりそうにないが、それなら前進一択だろう。
シャフとルルが旅程の話をしている横で、セルは無言でじっとしている。
パンも水も口にしていない。御者台に居たシャフが、気遣わし気にセルを見つめた。
「セル様、一口なりとも食べてください」
「……ぇ、あぁ…ぅん、そうだね」
じっくりと見れば、ぼんやりしているというより、何か考え込んでいるようにも見える。
「何か気に掛かる事でも?」
シャフが問うと、セルは伏せた視線を更に落とした。
「予感……いや、単に僕が不安になっているだけなんだろうと思う」
「不安?」
ルルがすかさず割り込んできた。
「彼女の…フィーの最後の表情が…」
続く言葉を口にするのが怖いとでもいう様に、セルは下唇を噛み締める。
「気になるような何かって、あったか?」
「わたしは特に気付きませんでしたけど…」
ルルとシャフは、首を捻りながら互いに顔を見合わせた。
「うまく言えないのだけど…。
何かを決意したような…」
「決意って…そりゃするんじゃないか?
だって俺等が報告を終えて、ボーカイネンに戻ったら、西に出発だぞ?」
何を当たり前のことを…とでも言いたげに、ルルは口をへの字に曲げた。
「……待っていない…フィーは待たない様な気がして…」
流石にシャフもルルも、眉根を寄せる。
だがセルは…振り返りたくなるのを必死に抑え込み、彼女に背を向けたあの時、フィーの表情にこれまで感じた事のない何かがあったように思えてならない。
セルの『離れたくない、傍にいたい』と言う感情のせいかもしれない…けれど、何かを隠しているような、密かに何かを決めた様な…曖昧な苦しさとでも言えば良いだろうか…そんな表情に見えたのだ。
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