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セル達も見送った。
アンネッタを始めとする公爵家面々の不安も、多分…ない。去る事をメナジアにしか話していないが、ひっそりと旅立つ事を、女主人であるメナジアが許可してくれたのだから、問題ないと思う。
別れの挨拶が出来ない事は、心残りではあるが、立つ鳥跡を濁さず……手紙などを残す事も考えていない。
フィーが存在した痕跡なんて、必要ないのだ。
イレギュラーな…ある意味過去からの亡霊とも言えるフィーは、黙して消え去るのみ……その一択である。
自室として与えられている部屋で、フィーは静かに後片付けをする。
洗っておいたシーツや衣服、使っていた備え付けの文具他は備品室へ戻した。机の上も抽斗の中も、塵一つ残っていない。
誰かがそこで暮らしていた…そんな空気は綺麗さっぱり一掃してある。
最後に窓を閉めれば完了だ。
振り返れば濃密な時間だった。
けれど、ちょっとした満足感が、そんな感慨を上回る。
アンネッタは断罪される事なく生き延びた。
多分ヒロインなドニカも、新たな人生に踏み出した。
エネオットを始めとする攻略対象達も、それぞれの人生を進んでいる。
まぁ、直美と言う想定外の悪意のおかげで、全員が大団円とはいかなかったが、それもまた其々の選択の結果だ。
メイド服から旅装に着替え、以前購入しておいた剣を腰に佩く。
荷物は驚くほど少ない。
背中に小振りのリュックを背負っているだけだが、フィーには魔法収納があるので、殆どの荷物はそこに入れてある。
ただ、セルから貰ったネックレスだけは身につけていた。
盗賊等に見つかると不味いだろうが、マントと服の下なので人目に触れる事もない。
何よりフィーが向かう方向は、人より魔物の方が増えていく。
魔物は宝石に価値を見出す事はないので、そう言う面は安心だ。
フィーは部屋の灯りを落とし、見回りの隙をついて廊下を進む。
使用人棟は本棟に比べれば外壁に近いので、このまま誰の目にも触れずに外に出る事が可能だろう。
外へ出る扉を開き、するりと外へ身を滑らせた。
使用人棟の扉は、蝶番部分が少し錆びていて、開け閉めの時に少し軋んでしまう。その音に気を付けながらゆっくりと閉めて……息を吐いた。
慎重になるあまり、いつの間にか息を詰めていたらしい。
(さて、出発しましょうか)
【もう良いのか?】
ガヴォッドラーヘンの問いに、フィーは念話で応じる。
(えぇ、きっともう大丈夫。
さ、ライアンサの方も急がないといけないし…)
そこで心の声が止まった。
フィーが何気なく振り返った先……本棟の一室に明かりが灯り、人影が窓辺にあるのが見えた。
「……奥様…」
メナジアが、こんな深夜にも拘わらず、見送りに起きていた様だ。
胸が一杯になって声が出ない。
だが、それを振り切る様に深く一礼し、フィーは身を翻した。
もう振り返らない。
振り返ってはいけない。
自分に科せられた役目を、今度こそ終えるのだ。
故国ライアンサを目指し、フィーの姿は西へと消えていった。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
今話にて、フィー視点では完結となります。
今後は悪役『メイド』ではなくなりますので、キリ良く!
ですが、もう少しだけセル達サイドを続けたいと思います。
鍵とは? 戻れないとは? 野良3精霊達は?
その辺に触れてから完結させたいと思っていますので、今暫くお付き合い頂ければ、望外の喜びです。
どうぞ宜しくお願いいたします<(_ _)>




