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彼等…いや、一つの生命なのだから『彼』と呼称すべきか……何にせよ、彼には時間や空間に隔てられた場所に、穴をあけるという特殊能力があったようだ。
そしてその穴から触腕を伸ばす事によって現地の生命体を捕獲。
捕獲した現地の生命体に子株を植え付ける事で操り、遠隔でも生命エネルギーの獲得を可能にしていた。
フィーは似た事例を知っている。
そう……故国ライアンサに現れたのは『彼』だったのだ。
世界と世界の間に穴を穿ち、そこからライアンサの民を何人も引き摺り込んで、寄生体を植え付ける事で手先に変えて、元の世界に送り返した。そうする事で残虐の限りを尽くし、ライアンサを地獄に変えた。
母であるローデンヌを中心に、あの日話していた事は夢想ではなかったという事。
だが、わかった事はそれだけではない。その植物型生命体が求めるエネルギー…それは魔力、もしくはそれに近いエネルギーと言う事。
当時のフィーが暮らしていた星は、幸運にも魔法なんて存在しない星だった為、襲われずに済んでいた。
姉フィリアーヌの結界内で、フィリエーヌとしての記憶が戻った時に思い出せていれば良かったのだが、これを思い出せたのはあの件以降で『最近』と言っても良い時期の話…。
つくづくタイミングが悪いと思う。
けれど、ライアンサの地を目指すにあたって、何の情報もないよりずっとマシである。
ただ、思い出した事によって、ある危険性に気付いた。
あの生命体は魔力、もしくはそれに類するエネルギーを欲する。
しかも星一つを覆いつくす程成長しているのなら、それはもう膨大な量を欲するだろう。
この世界…と言うより星は、魔法大国であったライアンサを呑み込んだ事で、大きな魔法エネルギーは失われつつある。
現在の魔法大国といっても、当時のライアンサに、イボルボンは遠く及ばない。
そんな中でフィー…フィリエーヌが戻った、戻ってしまった。
敵の欲する膨大な魔力をその身に内包して……。
つまり、フィーがいるだけで危険になるかもしれないのだ。
その記憶が戻って以降、可能な限り魔力抑制はしている。しかし不安は消えない。
だから離れる。
自分が傍にいる事で、周りを危険に晒したくない。万が一そうなってしまったら、フィーは自分を許せないし、狂ってしまうかもしれない。
そんな事情も相まって、フィーに旅立ちを思いとどまる…なんて選択肢は最初からなかった。
少しずつ公爵邸での仕事も居場所も手放していく。
今後の事を話したメナジア以外の周囲からは、ティディの独り立ちの為に色々と控えているのだと思われている事だろう。それで良い。
そうこうするうちに時間は流れ、セル達が帰国する日となった。
冬季休暇の前だが、もうセルが担当する授業はない。週末…学院が休みの日に合わせて、セル達は帰国すると決めた。
フィーも、当然のように見送りに来ていた。
セルは相変わらず無駄にキラキラしいが、そう見えているのはシャフとルル、そしてフィーだけみたいで、まばらに通り掛かる人々は、集う4人を気にもしないで通り過ぎていく。
シャフは目立たない旅装だし、ルルは初めてメイド服以外の姿を見たかもしれない。ちゃんと『男の娘』ではなく『男の子』した姿で、微妙な違和感が笑えた。
「フィー、今日までありがとう」
セルが手に持っていた鞄を足元に置いて、そう言いながら目を伏せる。
するとそれを合図に、シャフとルルも別れの挨拶を口にした。
「長い様で短い期間でしたが、本当にありがとうございました」
「つっても、報告が終わればまた戻ってくると思うぜ。
で、いいんだよな?
フィーがイボルボンに来るんじゃなく、俺等がこっちに来るって事で?」
ルルがフィーからセルの方へと目線を移す。
目線が向けられている事に気付いたセルは、慌てて表情を取り繕った。
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