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「日本の事なんて、思い出す暇もなくなるわよ。
これからお嬢様との盛大な結婚式に、ネルローネ王女殿下の婚約結婚…貴方の妹よ?
そんな大きなイベントが目白押しなのに、日本の事を懐かしんでる暇があると思って?
大丈夫。
貴方は…耕作さんは一人になんてならない。お嬢様も御両親も、妹だっているのよ…だから大丈夫」
フィーは耕作の肩…には、手が届かないので背中をあやす様に一叩きして扉へ足を向ける。
「お嬢様を幸せにしてよ?
そして貴方自身も幸せになんなさい。
私の見た目はこんなだけど、中身は貴方より年上なんだから、年長者の言葉はちゃんと聞いておいて損はないわよ?
あ~まぁ、貴方の実姉のせいで複雑な心境かもしれないけどね…。
ぁ、それと…今の話はまだ内緒にしておいてね」
俯いたまま泣き濡れる耕作に小さく微笑むと、フィーは彼の自室を後にした。
セル達の出立時期が近付いてきた頃、ティディも何とか形になって来た。
そろそろ頃合いだろう…と、フィーはメナジアに時間を取って欲しいとお願いする。
公爵夫人の美貌美容に響きそうで申し訳ないが、少しだけ就寝時間を遅くして貰う事になりそうだ。
邸内がシンと静まり返った夜、フィーは許可の出た時間にメナジアの私室へ向かう。ノックをすると応えがある。
そっと静かに扉を開けて中へ入ると、メナジアが険しい表情で待っていた。
こんな夜に、しかも人目を忍んでの話をお願いしたせいで、予想がついてしまっているのだろう。
「奥様、このような時間に申し訳ございません」
メナジアは、じっと…探る様にフィーを見つめてから、深い溜息を吐いた。
「喜ばしい話じゃないのは予想しているわ」
メナジアは、気が進まないと言いたそうだが、それでも話すよう促してくれる。
その言葉に甘え、フィーは口を開いた。
「御暇を頂きたく…」
メナジアの眉間の皺が深くなった。
「……予想はしてたけど…理由を聞かせて貰える?」
問われるのはわかっていた。だから当然のように理由は用意してある。
自分の出自を探したい――今でこそ嘘になってしまったが、以前旅を考えた時の切っ掛けなので、全くの嘘と言う訳でもない。
メナジアは難しい表情のまま目線を床に落とした。
「アンネッタが嫁ぐ今…というのは、流石にタイミングが悪くないかしら?
せめて婚礼が終わってからではダメなの?」
当然、これについても想定済みだ。
王家に入る前だからこそ、交代が可能だという事……アンネッタが妃として暮らし始めてからの交代の方が、影響が大きいのだ。
何しろ公爵家だけではなく王家…王宮にまで話が及んでしまう。
メナジアとしても納得出来る話だったらしく、そこで言葉が途切れた。
重苦しい沈黙が続く。
メナジアが大きく息を吸って…そして吐き出した。
「あぁ、もう…納得出来てしまうのが腹立たしいわ。
でも…それでもあえて言わせて頂戴。
貴方の過去は、もう私達にとって重要ではないのよ。
フィーだから……貴方が貴方であるだけで、それで十分なの。それでは不十分?」
まさか食い下がられるとは思わなかった。
メナジアは、フィーが公爵邸に来て直ぐの頃、孤児院に過去を問い合わせた事がある。だから、すんなり了承して貰えると思っていた。
こうなってはケルナーの事も持ち出した方が良いかもしれない。
「不十分ではございません。
ですが……若様の事もございます。
私のような、どこの馬の骨とも知れぬ者を気に掛けて頂き、本当にありがたく思っております。
しかし、だからこそ、私が居ない方が若様の今後の為に良いのではないでしょうか……。
相応しい婚約者が、若様には必要かと思います」
嫡男がメイドに懸想して、婚約者を決めないなんて、いつまでも許される事態ではない。
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