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耕作はクシャリと顔を歪める。
「なんでだよ…俺の方が旅に出たいって言ってたのにさぁ…」
あのゲームを知ってるからだろう、耕作は涙声になった。
『流恋』のラストダンジョンは、なかなかに過酷だったのだ。
一部魔法の使えないエリアがあったり、途中の雑魚ですら、最大レベルまで上げても無傷とはいかない。
その上HPМP回復のテントも使えなかった。流石に薬品系は使えたけど…。
そして最終ボスは3形態まであり、勝利を収めても、その時には必死に溜め込んだ消耗品は、ほぼすっからかんになっていた…なんて報告が良く上がっていた。
ヒドインがヤバすぎ、戦闘パートのテンポ悪すぎ…なんて酷評が連発されていたが、実は最終ダンジョンはかなり歯ごたえがあって、高評価がつけられている。
「なぁ、この世界って、あのゲームの世界そのまんまって訳じゃないんだろ?
だったら無視でもいいじゃんか……ラスボスなんて居ないって。大体居たら困るよ…。
それなのに、なんで織田さんが行くんだよ…全然必要ないだろうが…」
耕作にはフィーのあれこれを全て話していない。
エネオット達攻略対象を始め、アンネッタやドニカにも外圧が作用していた痕跡があったなんて言える訳がない。
フィーについても話してあるのは『織田 芙美子』だった時の事だけだ。
「でもほら、そのものじゃないとしても、似通ってるのは事実よ?
空振りになるとしても、一応確認はしておくべきだと思うのよね。あのゲーム…ラストダンジョンが過酷すぎたから、心配してくれるのはとても嬉しいのだけど。
あぁ、一応戻ってくるつもりはあるのよ? だから念の為よ、念の為。
それとなんだけど…公爵家は辞してから行くつもりだから、もし戻ってきたら耕作さんの所で雇ってくれない?
戻っても職なしじゃぁ、食うに困っちゃうから。
公爵家で再雇用して貰えたら良いんだけど、未来の事なんてわからないものでしょ?」
「アンネッタ嬢が…彼女が悲しむ…泣く……間違いなく泣く…それでも行くって言うのか?
いいじゃん、バックレちまえよ…」
耕作の拳を握りしめ、その顔は涙でグシャグシャだ。
「それでこの国に被害が出ちゃったら、何にもならないでしょうが…。
それに、私以外で立ち向かえそうな人材なんて思いつく?
私の戦闘力は、耕作さんも知っての通り……悪いけど、王宮騎士団が束になって掛かってきても、私が勝つわよ?」
「………流石にそれは盛りすぎだろ…」
泣き笑いで肩を竦める耕作には悪いが、現在のフィーなら、本当に指の一振り程度の労力で勝ててしまうだろう。
勿論そんな事実を彼に話す必要はないが、フィーの戦闘力が桁外れだという事くらい、耕作だって知っている。
「そうかもね。
でも他に適任者がいない事も事実よ。
灰の森は兎も角、その後ろの魔窟の森に足を踏み入れて、無事で済みそうなのは私くらいでしょう?
だからそこを抜けて、奥にラスボスさんが居るかどうか、確かめてくるわ」
冗談っぽく言うが、耕作は首を横に振った。
「行くなって……。
さっき織田さんが言ってただろ?
アンネッタ嬢を…彼女を泣かせたら承知しないって…俺を締め上げるって…そう言ってたじゃないか!
だったらここで、俺を監視しててくれよ!!
それに…それに織田さんが行っちゃったら…俺…ほんとに一人になっちまう…もう日本の事…誰とも話せなくなる…そんなの…嫌だよ…」
弟がいれば、こんな気持ちになったのだろうか…。
フィーは…いや、芙美子はほっこりとした暖かみを胸の奥に感じていた。
(根岸さん…貴方、本当に勿体ないことしたわね。
貴方の実弟はこんなに真っ当で、可愛いのに…。
それなのに勝手に巻き込んで殺して……どこぞの海溝より深く…深ぁく反省して欲しいモノだわ。
……消えてしまって、それも無理なのだろうけど…)
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