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フィーは本日も忙しい。
とは言っても、セル達が隣国に戻る事は決定済みで徐々に魔法講義の時間は減り、助手としての仕事は減る一方だ。
その為、専ら忙しいのは本業の方である。
元ドニカ…現ティディの、メナジア以外の公爵一家への紹介も終わった。
案の定と言うか…アンネッタもケルナーも、彼女が『あの迷惑令嬢』だと、最後まで気付かなかった。恐らくこれから先も気付く事はないだろう。
つくづくナホミ…いや、この場合は直美だろう……彼女の偏ったメイクテクニックには脱帽である。当然良い意味ではない。
ティディ自身も強化魔法の修練が進んでいる。
以前は拳一つよりも小さな範囲を覆うのが精一杯だったが、現在は何とか掌サイズまで拡大する事が出来るようになっている。
そして一番大きいのが、以前は無意識に発動するしかなかったが、現在は任意で発動する事が可能になっている事だ。
まぁ…まだマナー他が足りているとは言い難い状態なので、王宮へ同行は出来ていないが、フィーとイメネアにくっついて、部屋付き…いずれは専属にもなれるよう経験を積み始めている。
「そこの紐取って」
アンネッタの髪を整えるイメネアの指示に、ティディはおろおろと周囲を見回す。
本来アンネッタ専属メイドであるフィーではなく、イメネアが髪結いをしているのには訳がある。ティディの指導だ。
フィーはティディの後ろに控え、観察している。
とはいえ、あまりアンネッタを待たせる訳にはいかない。小声で助け舟を出す。
「リボンでもピンでもなく紐…と言われましたね?
であれば仮結いの為の紐です」
「ああ!」
「声が大きい」
「すっ……スミマセン」
その様子にアンネッタがくすくすと笑っている。
「大丈夫よ、ティディ。
フィーとイメネア、二人の指導にちゃんとついて行けているのだもの。
心配はないわ」
アンネッタの言葉に、ティディは感動した様に薄く涙を浮かべた。
少し前まで、散々暴れていたドニカの姿なんて、もうどこにもない。
「お嬢様…はい、ありがとうございます。
あたし、頑張ります」
感動シーンに申し訳ないが、今日はアンネッタと耕作のプライベート茶会があるのだ。
あれからぎこちなくも、二人の距離は少しずつ縮まっている。
ただの日本人大学生だった耕作も、エネオットとしての記憶もあるからか、徐々にエスコートするのも板についてきた。
勿論、影でフィーの助言は続いているが、そろそろそれも中止して良さそうだ。
耕作と呼ぶのではなく、エネオットと呼び直した方が良いかもしれない…と思う程度には。
出掛ける準備が終わり、予め正面に回されていた馬車に乗り込む。
王宮に着くと、ここ最近の出迎えはエネオットだけだったのに、今日は王妃付きの侍女まで控えていた。
何事かと思っていると、ヨリアンナからの伝言があったらしい。エネオットに伝えておけば良かったのだが、伝える前に彼が出迎えに動いてしまったのだそうだ。
「茶会の後、王妃陛下の所へ行かないといけないようだわ」
アンネッタはそう言って、用向きの書かれたカードをフィーに渡してきた。
『承知しました』と、カードを受け取る。
尤も、その隣でエネオットが顔を顰めていた。
「なんの話だろ…。
先にパパッと済ませられる話じゃないって事か…」
「どうでしょう。
どう言った御用件かは書かれていませんでしたから」
「うん。
俺も同行するよ」
エスコートされながら優しく言われて、アンネッタの方が頬を赤らめた。
穏やかに、だけど親密な空気を深めた茶会をキリの良い所で切り上げ、アンネッタとエネオット、そして同行を求められたフィーの3人で王妃の私室に向かう。
ノックをし、中からの返事を待ってから入室。
部屋の中では王妃ヨリアンナと、王女ネルローネが笑顔で待ち構えていた。
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