200 狭間の物語 ◇◇◇ 節哀順変―1―
フィーを公爵邸前まで送った後、セルは学院にある部屋へ戻った。
扉を開けると、ルルが開口一番聞いてくる。
「どうだった?
楽しかったか?」
妙にニコニコしながら聞いてくるルルの後ろで、シャフが苦笑している。
これは返事をしないと解放して貰えないパターンだと、これまでの長くもない人生の中で学んでいた。
「えぇ、楽しかったです」
ただ、それ以降の言葉は呑み込む。
そんなセルに気付いていないルルは、笑顔全開でグッと拳を握った。
「いやぁ目出度いな!!
で? それで??」
「はい?」
「とぼけんなよ……。
プレゼント、するって言ってたじゃないか」
「あぁ……ちゃんと贈らせて貰えました」
微妙な言い方だが、何故かルルが万歳している。
「よっしゃぁぁぁ!!!」
ルルの万歳に、セルもシャフも面食らって無言になってしまっている。流石に気付いたのか、ルルは少々バツが悪そうに口を尖らせた。
「別にいいだろ?
セルの春だぜ?
そりゃぁ…その前にライアンサの跡地だかに行かないといけないんだろうけどさぁ。
でもそれさえ終われば!
で? フィーがイボルボンに来ンの?
それともセルがこっちに?」
元々継承魔法と言うのは不完全なものだったと伝え聞いている。
更に術者だけでなく、被術者の魔力、魔法力にも大きく影響されたとも。
だからこの3人の中で、一番多くの事を受け継いできたのがセルの血筋。ついでシャフの血筋だった。
ルルは自身の魔法力は高いが、血筋としてはそれ程大きくない為、継承したものは、あまり多くない。
だからこその発言だと、セルは勿論、シャフもわかっている。
とは言え、顔を背けたセルの表情に昏い色を見つけてしまったシャフが、空気を変えようと口を開いた。
「その前にイボルボンに戻りませんと。
一応主体になって動いているのはわたし達3名ですが、イボルボンにはリッケ家を始めとした協力者がまだ現存しています。
彼等へ報告は必要でしょう。
その上で、更なる協力を申し出てくれる者が居れば、その調整もしなければ」
途端にルルがムッと唇を歪める。
「そういう細かい事を、俺に言うなって…。
俺は頭で考えるより、先に身体が動く系なの!
でもまぁ、了解。
あぁ、その間、フィーはこっちで待っててくれるんだ? それとも一緒にイボルボンまで行く感じ?」
問い掛けなのかと思ったら、ルルは勝手に一人で続けた。
「あぁ!
それが良いかも!!
だってライアンサの皇王女殿下だぞ…皆驚くだろうなぁ。なんたって直系だし!
聞いたら絶対に会いたがると思うんだよ!
しかしまぁ、改めて思うに、ライアンサのオリジナル連中ってバケモンだな…。
俺等の継承魔法もそうだけど、フィーの身体と魂の分離って……想像もつかねぇよ…」
うまくはぐらかす事が出来た様だ…と、シャフはホッと胸を撫で下ろした。
「ルル、少しは落ち着きましょう。
兎に角一度イボルボンに戻るのは決定事項です。旅支度は進んでいるんですか?」
「俺?」
ルルは自分を指差す。
「えぇ。
なんのかんのと言っても、セル様にそう言う心配は不要ですが、貴方は色々と抜け落ちがある可能性が高いでしょう?」
「うっわ、藪蛇だった…。
ん~ちょくちょく進めてるけど、思った以上に荷物が増えてて……うぅ。
あ、でも土産とかは必要ないだろ?」
「はいはい。
お土産他は後回しにしましょう。話しが出たついでです、荷物の確認をしてらっしゃい」
あっけらかんと言うルルに、シャフは困った笑みを浮かべながら、その背を押して部屋から追い出した。
「セル様……すみません」
「え?
何故謝っている?」
「いえ、その……ルルが…」
セルは窓辺に佇み、カーテンの隙間から外を見つめる。
そしてゆっくりと視線を落とした。
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