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「そろそろ戻ろうか。
帰りの時間もあるし、あまり遅くなるとフィーの雇用主である公爵家から苦情が来てしまいそうだ」
セルの気遣いには感謝だが、最近は特に、心配らしい心配はされてはいないと思う。先だってのケルナー救出劇も、陽が落ちてからの話だったので、公爵邸面々の認識が『心配不要』に落ち着いているのではないだろうか。
まぁ、この王都でフィーに物理的怪我を負わせられる人物がいるかと問われれば、返答に窮するのは間違いない。
でも…だからこそ、気遣いが嬉しい。
まるで女の子扱いされているようではないか。これを喜ばずして何とする…である。
フィーが頷くと、当たり前のように手が差し出される。
正直に言うと気恥ずかしいのだが、今だけの特権と、フィーはその手を取った。
手を繋ぎながら、てっきり来た道をそのまま戻ると思っていたのに、そのルートをいつの間にか外れている。
「あの…セル様?」
「ん?
うん、少しだけ寄り道」
何処に寄り道したいのか、皆目見当もつかないが、手を引かれるまま歩いて行くと、なだらかな坂道が見えてきた。どうやら目的地は少し高台になっている場所にあるようだ。坂道を上っていくと、先の方に噴水が見える。
その噴水の先はちょっとした展望スペースになっているみたいだ。
夕方前と言う微妙な時間だからだろうか、人影はフィーとセル以外にない。
仕事終わりにも、夕飯の買い出しにも、少しばかり早い時間だからだと思われる。
「こんな場所あったんですね」
フィーは普段、公爵邸を中心に学院と王宮、近場の商店街くらいしか出歩かない。その為思った以上に王都の事を知らないのだ。
別にそれを不満に思った事はないが、こうして新たな発見があれば、やはりワクワクしてしまう。
手摺に手を置き、眼下に広がる景色を楽しんでいると、いつの間にかセルがフィーの背後に立っていた。
振り返ろうとすると『そのままで』と小さく告げられる。
何故止められたのかわからないが、言われるまま眺望の方へ顔を戻すと、首元にひんやりとした何かが触れた。
『え?』と思い、視線を下げると見た様な気がする深みのある黄色が揺れている。
「セ…セル様!?
あの、これは……」
そう、見たようなも何も、さっきセルが購入したばかりのネックレスだ。
セルの色そのままのネックレスが、今フィーの首元で揺れている。
思わず振り返ろうとするが、それは後ろから抱き込まれる事で阻止された。
「!?」
思いがけない行動に、フィーの方が固まってしまう。
「ごめん、そのままで…。
君の顔を見ながら言う勇気がない……それ以上に自分の顔を見られながらだと、言い切れなくなりそうなんだ」
自嘲するような吐息を感じ、フィーも再び眺望の方へ顔を戻す。
これは有頂天になって良い場面ではないかと思う反面、それを表現してはいけないかも…と言う考えも浮かぶ。
「…皇王女殿下に不敬だよね。
本当にごめん。
でも、出来れば不敬は問わないでくれると嬉しいかな」
内心で突っ込みは入れる。それはもう秒の素早さで。
(不敬なんて問う訳ないデス!!
そんなモノ、用水路にでも放り込みますが、万歳三唱をしてもいけない訳で……あぁ、でも内心で舞い上がるくらいは許されますよね?
大丈夫、きっと許される筈よ!)
等と一人忙しなく脳内突っ込みを入れる。
まさか、そんなズレた思考に陥っているとは思っていないセルが続ける。
「前回の詫びは返却されてしまったからね。これは受け取って欲しい。まぁ返却不可だから諦めて。
……冬になったら僕達は帰る…イボルボンに。
僕はきっともう戻れない。
だからこれは代わり。
共に行く事が出来ない僕の代わりに連れて行って欲しい」
そこまで聞いて、抱き締められた事に舞い踊っていた気持ちが、一瞬で氷点下にまで急降下した。
(ま、まさか…自分の寿命は長くないと……知ってる?)
セルが何を考えて、そう言っているのかわからないし、問い返す勇気もない。
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