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ここ最近はなかった、昔のような穏やかなお茶会は無事終わった。
『昔のような』と言っても、そんな穏やかな関係性だった頃を、フィーは知らないのだが…。
少し離れた場所に控えつつ、アンネッタと耕作の様子を眺めていたが、何とも初々しいというか、こそばゆいというか……まぁ、感触は悪くなさそうだ。
帰りの馬車の中でも、アンネッタは良い意味でそわそわしているように見受けられた。
公爵邸での夕食の際、メナジア達もアンネッタから話を聞きたそうにしていた。特にケルナーなんてドレス選びなどの助言も求められたのだから、気になって仕方ないだろう。
しかし、当人が気恥ずかしそうに目を伏せるばかりで、暫く待ってから…と言う空気に落ち着いた。
そして現在、眠りにつく前の湯あみを済ませ、フィーがアンネッタの髪を整えている。
「………」
「………」
アンネッタが物言いたげな視線を送ってくるのだが、フィーとしてもどう反応したものやら…で、言葉が出せない。
艶やかな若草色の髪を風魔法で乾かし、丁寧に梳っていると、とうとう観念した様に、アンネッタが肩を落として…でも、微かに頬を赤らめて話し出した。
「……フィー…どうだったかしら…」
「はい?」
「だから……その…」
アンネッタの視線が泳ぐ。
あまり追い詰めるのも得策ではないだろう。
「王子殿下でございますか?」
「!……ぁ…ぅん、そう…」
「少なくとも以前とは随分御変わりになられたと思います」
アンネッタがパッと振り返った。
「やっぱり?
そう…そうなの…。
なんだか小さい頃を思い出すような……」
「お嬢様は如何でございますか?」
フィーはアンネッタの髪を整える手を止めずに促す。
「!!…ぇ、ぁ、わ、わたくし!?」
「はい。
お嬢様のお気持ちが、何より大事でございますから」
アンネッタは座り直して、寝着の袖口を飾るレースを弄っている。
「わたくしは……」
フッと表情が静けさを孕んだ。
「……わたくしは…お支えするのだと思って来たわ。
政略だもの…殿下の御心がどうあれ、わたくしはわたくしのすべき事をするだけ…そう思って来たの」
フィーはアンネッタの言葉を遮らない。
「でも……。
今日の殿下は、ちゃんとわたくしを見てくださった。
ちゃんとわたくしの目を見てくださっていたの…なんだかふわふわしてしまって…わたくし、どうしてしまったのかしら…」
エネオットの罪はデカイな…とフィーは内心で言ちる。
先だっても話したが、アンネッタ達の幼い頃の様子を聞いた事はあるけれど、フィー自身の目で見た訳ではない。
でも…エネオットが、アンネッタやケルナーと距離を置き始めたのは…悪意を向け始めたのは、決して短い期間ではない。
変わったから…いや、本当に内側である意味交代劇はあった訳だが…それはそれとして、急に態度を変えられても、アンネッタの気持ちが追い付かないのは仕方ない。
「お嬢様のお気持ちが一番です。
嬉しく感じたのなら、嬉しく思えば宜しいのです。反対に許せないと感じたなら、勿論そのお気持ちを大事になさってください。
ですが、お嫌でしたか?」
フィーからの問いに、アンネッタは一瞬目を丸くする。
そして再び俯くと、ゆるゆると頭を振った。
「嫌……ではなかったわ」
「それならそれで良いかと思います」
「……いいのかしら…だって…」
言葉を詰まらせるアンネッタを、フィーは急かさない。
「だって………本当に幼い頃の幼馴染で、政略の相手で……お兄様もわたくしの事も避けてしまわれて……なのに……」
アンネッタは耳まで赤くして、両手で顔を覆ってしまう。
「あんなの…反則ですわ!
あんな……急にわたくしを見てくださって、尊重してくださって……」
細い肩が震える。
何かを恐れる様に、アンネッタの体温が下がった……そんな気配をフィーは感じた。
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