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出会った最初の頃は警戒しかなかった。
どう見ても、攻略対象にしか見えない美貌を持つ不審者…にしか見えなかったのだから仕方ないだろう。
次に会ったのはカザロ学院長に連れて行かれた時で、本当に不意打ちだった。
助手として認めてもらえるよう、試験準備をしていた時はダンスの練習にも付き合って貰った事もある。
その時借りた…本当はプレゼントだったそうだが…ドレスやアクセサリーはお返ししている。けれど……そう言えば髪飾りだけ返しそびれていた事を思い出した。
(どうしよう……あれだけ貰っても良いかな…。他を返したのに、あれだけ返さないのはやっぱり不味いかしら…。
でも、推しから貰ったもの…一つくらい手元に残したいな…)
きっと自分はそんな感情を、この先持つ事はないと思う…いや、持てる事はない…と言い換えるべきか…。
無邪気に推しの御尊顔に溜息を吐いたり、はしゃいだり……そんな恋になり切らないような、甘酸っぱく華やかな感情は、間違いなく遠くなる。
だって……そこで思考を止める。
そこから先を考えれば、悲しくなってしまうではないか…。
目頭が熱くなって、堪えるように唇をきつく噛み締めた。
覚悟はしている。
けれど…だからこそ、一つだけセルの…推しの思い出が欲しかった。
パンと自分で自分の頬を軽く叩き、手仕事を再開する。
作業に没頭していれば、自分の感情から目を背けられる筈だ。
そんなある日、やっとアンネッタと耕作の顔合わせの日が決まった。
王宮から届いたのは、日時の書かれた手紙だけではない。
大小、幾つかの箱も届けられている。中はある意味婚約者なら当然のモノ。
ドレスとそれに合わせたアクセサリー類。そして靴。
当然だがサイズはアンネッタにぴったりと合わせられていた。
アンネッタはそれらに困ったような表情を浮かべるが、その奥にはどことなく嬉しい様な、はにかむ様な…そんな表情が透けているようにも見える。
まず手紙を開封して日時を確認、問題がないとアンネッタが頷いて、手紙をフィーに預けようとした。
その時、一枚のカードが床に滑り落ちる。
手紙に挟まれていたようで、気付かなかったのだろう。
フィーがすかさず拾い上げた時に覗き見えた文面に、すぐさまアンネッタに手渡した。
「……まぁ…」
受け取ったアンネッタは、カードに目を落とすと、微かに頬を赤らめる。
戸惑う様に声を漏らすが、さっき浮かんだ嬉しさを上回る感情が表情に現れていた。
カードには…
『ケルナーに助言を頼んだんだ。ケルナーだけじゃなくネルローネや母上にも…。
けど、選んだのは自分だから。
君に似合うと思って選んだんだ。
だから、ごめん。言葉じゃ足りないってわかってる。
けど、今は言葉でしか表せないから、何度でも謝らせて欲しい。
そして当日、ドレスを身につけてくれたら、とても嬉しい』
と書かれていた。
いやぁ、青春だね――とは言葉にはせず、内心でホクホクと微笑んだフィーであった。
程なくしてお茶会の日となる。当日はフィーも同行するよう、アンネッタからも頼まれていたので、馬車に同乗した。
茶会の席では、付かず離れずの距離で見守るとしよう。
アンネッタと共に、王宮侍女の案内で庭へ向かう。
花々も美しいが、木陰が出来るように大きめの樹木が配置された庭は、見るからに涼し気だ。
その合間に敷かれた小道を進んだ先に、テーブルセットが置かれている。
耕作…アンネッタから見ればエネオットが既に待っていた。
彼は椅子から立ち上がり、ゆっくりとアンネッタへ近づく。そしてエスコートの為に手を差し伸べてきた。
「殿下……」
アンネッタの戸惑うような声に、エネオットは情けなく眉尻を下げた。
「今日は来てくれてありがとう」
それ以上の言葉は一旦飲み込んだエネオットの手に、アンネッタは少し躊躇いがちに手を重ねる。
そして二人がテーブルに着くと、穏やかなお茶会が始まった。
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