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デービーの話に戻ろう。
彼の魂の損傷具合を視たが、これまでで一番酷いものだった。
魂にはビッシリと黒い糸が絡んで縺れている。
一部は糸端が何処かに繋がっているのか、だらりと垂れ下がる事なく撓んでいた。
幽閉後、暫くした後に彼は秘密裏に処理されるし、今更確認した所でどうしようもないのだが、どうしても確認したかったのだ。
だが、確認した事で、改めて強制力の恐ろしさを垣間見た気がした。
彼の狂行の多くは、その『強制力』のせいかもしれないと思ったからだ。
もしフィーの魂がオリジナルの身体に戻らなかったら…前世の記憶を持っていなかったら…それに抗おうと思わなかったら……本当にゾッとした。
最初は、自分の給与を守る為だったのに…と、フィーは薄く苦い笑いを刻む。
冷静になって考えてみれば、本当に酷い話だと思う。
誰にどんな権利があれば、彼等の人生を狂わせて良いというのだろうか…いや、誰にもそんな権利はない筈だ。強いて言うなら彼等自身にはあるかもしれない。
だが、少なくともゲームシナリオなんて言う馬鹿げた存在に、狂わされて良い筈がない。
フィーは鉛を詰め込んでしまったかのような胸の重さに、苦い溜息を零した。
直美が消え、強制力に一番踊らされていたデービーも王都から去った。
ドニカはティディとなり、ヒロインと言う枠組みから外れている。ゲームと言う、この現実とは無関係な外圧が今後影響する可能性は低くなった。ならば…と、フィーは今後の事を考える。
自身はいずれ…と言っても、そう遠くない未来にここを去り、故国ライアンサに向かう。勿論『なんで私が…』と言う思いもないではない。だが、自分はその為に、ある意味生かされたのだ。
ならば逃げるなんて出来ない。
だから、フィーが去った後の不安要素を少しでも減らせれば…と考えた。
今後ゲームシナリオの影響力は考えなくて良いだろう。いや、もし続編なりが発売されていればわからない。だが前世での評判他を考えると、続編は難しいのではないかと思う。
絵師のおかげで一定数のファンはいたが、それでも掲示板等で『あの絵師さんだったから買ったけど、ちょっとお腹いっぱいかな』等と言う書き込みが殆どだった。
それに続編の事まで面倒見切れない。
しかしその外力によって傷つけられた魂の持ち主は、多少なりとも生きていく上での不具合が生じるだろう。
特にコターは、多分だが長生きは出来ないだろう。その程度には損傷している。
フィーが、彼の魂が負った傷をどうにかしてやれば回避できる。しかしフィーにその気がない以上、『精々残り少ない人生を謳歌して頂ければ良いのでは?』…そこで終了だ。
ま、強制ざまぁ万歳って事で。
だが先だっても言ったように、ドニカ…失礼、ティディの傷を見過ごそうとは思っていない。
と言う事で、一番に手を付けるのは魂の修復の手立て…その確立だ。
だが、これにはある程度目星は付いている。
フィーはメイドと助手と言う二足の草鞋を履きながら、隙間時間にコツコツと手作業を繰り返していた。
小さな端切れを手に入れ、チクチクと針を動かす。
「……出来た…」
フィーはピンクッションに針を戻し、繋がっていた糸を切る。
その後、手の中に残っていたのはお守りだ。
そう、日本のあの五角形のお守りの袋である。
端切れと言ってもアンネッタやメナジアのドレスの残り布で、とても光沢の美しい布だから、出来た御守り袋もとても上品な物に仕上がっている。
中に入れるのは勾玉――と言っても、この世界に勾玉の意匠や文化等はない。
あくまで『お守りに入れるならこの形ってアリかも』等と言う、フィー独自の考えで作り上げた物だ。
ちなみに勾玉もフィー製作である。
露店を幾つも巡って、貴石や半貴石の端材である、大き目の細石を探した。そのおかげで、お値打ち品と呼べる細石を幾つか見つける。後は風魔法と水魔法を使って、日本人であった時の記憶を基に加工してやればすぐだった。
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