183 狭間の物語 ◇◇◇ ナホミは足掻く―1―
身体中が痛い。
身動きもできない。
ナホミは意識が戻ると、そんな感想を抱いた。
冷たくじめじめとした石の床に横たわっているようだが、『なんで?』と理解が追い付かない。
確か男爵夫人に追い出されたんだった……と、薄い記憶が蘇る。
途端に湧き上がるドニカへの憎悪。
―――なんであたしがこんな目に…
―――ドニカがボンクラだからじゃない!
―――あたしは悪くないわ
―――ドニカがちゃんと働けば良かったのよ
―――そんで迷惑にならないように、さっさと戻ってきてれば…
―――それにしてもあのババア…腹立つ
浮かぶ夫人の顔を心の中でズタズタに引き裂いた。
引き裂いて引き裂いて、それでも足りないと、思わず起き上がろうとしたが、身体は言う事を聞いてくれなかった。
そして思い出す。
―――あ~……失敗したんだっけ
―――チッ…デービーもホント使えない
―――折角ケルナーを捕まえたのに
―――それにあのメイドよ、メイドッ!!!
―――なんなのよ、アレ……
―――あんなのがメイドって、反則でしょ!?
―――メイドなんて『ご主人さまぁ~』って、媚びってるだけじゃない
―――そうよ、この身体のように、男に股開いてりゃ…
―――くっそ……なんであたしがこんな目に合うのよ
―――あ”~~~~許さないッ!!!
―――でも、どうにか考えないと…
―――あんな戦闘メイド…正面からじゃ勝ちようがないわ
イライラと考えるうちに、自分が何故、身を起こす事も動く事も出来ないのか、やっと気付いた。
全身を何かで縛られているようだ。
感覚戻るのが遅すぎだろ…と、自分に呆れるが、痺れているせいで鈍くなっているらしい。
首を動かす事も出来ず、自分の状況を確かめる事も出来ないが、痺れば少しマシになった手先をもぞもぞと動かすと、固く冷たいモノに指先が触れた。
―――何…これ…
―――金属? まさか鎖?
―――うっそ、ありえないわ!!
どうやらナホミの身体は、金属の鎖で雁字搦めに縛られているらしい。
身動きが難しいはずである。
だが、口は解放されたままだ。猿轡などはされていない。それにも拘らず、声が出せないのはどうしてだろう。
ナホミが不思議に思っていると、ふいに声が聞こえる。
「気が付いた様じゃな」
「あぁ、どうやら銀鎖が有効な悪霊のようだ」
「これでダメだったらどうすべきかと、悩んでいた所だったが助かった」
「でも執行まで俺達……これ?」
4つの違う声が、四方から聞こえた。
どうやらナホミを囲むように、4名が近くにいるという事だろう。
「!!??」
ナホミは声を荒げようとしたが、口がパクパクと、まるで陸に打ち上げられた魚のように開閉するだけだ。
「あぁ、声は出せんよ」
「銀鎖は優秀だな」
「護神符もしっかりと効いている」
「執行までついてなきゃいけないのがタルいんだけど?」
この4人は話す順番まで決められているのだろうか…同じ順番で話す。
ナホミは何とかしてその4人の顔をみてやろうとするが、首を巡らせる事も出来ないようでは難しい。眼球だけは動かせるようだが、視界に入らない位置に居るらしく、顔はおろか影さえ見えないのだ。
―――なんなのよ、こいつら……
―――何でこんな目に合わなきゃいけない訳?
―――意味わかんない
―――それに『アクリョウ』って…何よ…まさか悪霊?
―――はぁ?
―――………バッカじゃないの…そんな迷信信じてるとか…
―――どんだけ原始人なのよ
―――やってらんないわね
―――でも……どうしよう…これ、身体が動かないのって……
多分……恐らく…いや、間違いなく、この声4人組のせいだと考えたナホミは思案する。
どうやったら逃げられるのか…を。
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