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「ドニカ嬢…ドニカは幼少期を不遇に過ごす中、一人だけ心を開いた人物が居ました。それが件のメイド…ナホミです。
ドニカはナホミに悪霊が憑りついた事には気付かず、心の拠り所であったナホミの言うがまま、学院でのあれこれを引き起こしていました」
「幼少期を不遇?」
フィーの言葉の中で、ヨリアンナが引っ掛かったのはそこらしい。
モーソー男爵家で彼女が、どう扱われていたのか、どう過ごしていたのか…それについても少し詳しく話しておく。
折角だ…ドニカを放逐しただけで逃げ果せられると思っているあの一家にも、是非とも痛い目に遭って頂こう。
ドニカ自身は別に望んでいないだろうが、フィーが不愉快だ。
因果応報万歳。
やった事のツケは、当事者に払って貰うのが道理である。
「……そう。
貴族家の内情に踏み込むのは歓迎されない事だけど……それは流石に目に余るわね。
モーソー家についても、陛下と話し合ってみるわ」
ヨリアンナがそう言うのなら、任せてしまって大丈夫だろう。
話を戻すとしよう。
「と言う訳で、悪霊を国外追放や重労役程度で野に放てば、後の世に禍根を残す事になります」
ヨリアンナは頷き、考え込む。
「そうね。
後々、どんな報復をされるかわからないし……処刑は当然として、神官や魔法士へ直ぐに連絡を入れておくわ」
難しい表情をしていたヨリアンナは、顔を上げ、真っすぐにフィーを見つめた。
「フィー、感謝するわ。
よくぞ調べておいてくれました。
悪霊なんて出現の記録が途絶えて久しいから、思いも寄らなかった……でも悪霊なら納得だわ。
平民に近い下位貴族の娘が、同じ爵位でも、雇用側を下にみるなんて、普通はあり得ないもの」
ヨリアンナはホッとしたように薄い笑みを浮かべるが、ネルローネの方は顔色が悪いままだ。それどころか、微かに震えているようで、自分で自分を抱き締めて身を小さくし、下唇を噛み締めていた。
暫く重苦しい沈黙が続いたが、カップかテーブルか…どこともわからない場所を、睨むように視線を投げていたネルローネが震える唇を解いた。
「……他は…?」
「他?」
ともすれば呟きにしか聞こえず、聞き流してしまいそうな程小さな声で、ネルローネが問う。
その小さな問いを拾ったフィーが、首を傾げた。
「そう、他…他には居ないの?
例えば近くにいたんだからドニカとか……あの子も悪霊だったとか?」
なるほど…感染症のように広がる事を懸念しているのか…と、フィーは納得する。
この世界の『悪霊』について調べた時、過去の事例において病のように増えながら広がった例は、残念な事に…あった。最終的に村2つを焼き払ったという記述を見つけているが、それはほぼ間違いなく流行り病…感染症だ。
今回の場合、根源が感染症ではなく『根岸 直美』だとはっきりわかっている為、広がる事はない。
だが、そんな事がフィー以外にわかる筈もない。実に真っ当な不安だと言える。
「いえ、それはなかったです」
「そう。
あの子については公爵家が対処したって聞いてるし、大丈夫なのね…良かった」
ドニカについてはモーソー男爵家が既に貴族籍を抜いているし、色々と迷惑を掛けられたオファーロ公爵家が処分済みだと、対外的には言われている。そのおかげで、周りから突っ込まれずに済んでいた。
まぁ、処分は下した……公爵邸で労役…という、とても穏便な処分ではあるが、彼女自身は日々の勉学鍛錬にヒィヒィ言っているから、ある意味では実刑になっているのも嘘ではない。
今後は名前も変えて貰う事になるし、ドニカと言う存在は消される。
本人も納得…それどころか喜んでいるので問題ない。
それはそれとして、悪霊に触れられる流れが出来て良かった。
どうやってナホミの刑に口出ししようかと、悩んでいたのだ。フィーの方から積極的に口出しすると、不自然に見えるかもしれない。
怯えさせてしまったのは申し訳なかったが、ネルローネの問いは本当に助かった。
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