110
盛大なブーメラン…とは、まさにこの事だろう。
ドニカに吐いた言葉が、そのままナホミに向けられた。
ナホミにしたって、男爵家に思い入れがある訳ではない。ふよふよと意識だけで漂っていた時に、見つけた空っぽの身体が在ったのが、此処だったと言うだけの事。
本当のナホミの魂は絶望して、この身体から抜け落ちてしまっていたから、あっさりと身体を強奪できた。それは都合が良かったが、実際身の回りを確認すると、都合が良かったのはそこまでだった事が、直ぐにわかる。
ただでさえボロい寝間着は、滅茶苦茶に引き裂かれて、ただの布切れになってしまっていた。
痩せ細った身体にも、色々な意味での暴行の痕跡が生々しく残っていた。
多分、この身体の持ち主の部屋なのだろうが、家具らしい家具さえなかった。
誰かは知らないが、ナホミの身体を乗っ取った魂は荒く零した。
―――うっわ…なにこれ…
―――ボッロい部屋…この身体もだけど
―――あ~なるほどね
―――差し詰め初花を散らされたって所か
―――ふぅん…あたしだったら有効活用するのに
―――勿体ない事するなぁ
現在身体に入っている魂自身の身に起こった事ではないからか、それとも本気で気にしない考えなのかはわからないが、飄々とそんな事を考えていたが、やはり身体の付着した穢れは気になるようだ。
―――つっか、臭いし汚い…
―――どうせ相手はスケベ親父なんだろうしなぁ
―――せめてイケメンだったら、この身体の持ち主も絶望しなかった?
―――ま、どうでもいっか
―――絶望してくれたから、あたしがこの身体を奪えたんだしね
―――それより風呂よ風呂!
―――あ、でも待てよ…
―――ふらついてる時、周りはぼんやりとしか見えなかったけど
―――日本の下町くらいに思ってたのに…
身体を強奪するまでは、感覚が曖昧だったようだ。
―――まさか日本じゃないの?
―――じゃあいったいどこなのよ、ここ…
―――って、なんか受け入れちゃってたけど、あたし…
―――なんで漂ってた?
―――あれ?
―――あ~それも気になるけど、まずは風呂よ!
―――こんな汚いモン、身体につけたままなんて絶対に嫌!
―――本気で臭いし…
―――でも……風呂…ほんとにない?
―――そういえば人家らしい建物にも風呂なんて見なかったような…?
―――ええ…日本じゃないのは理解したけど
―――………まさか時代も違う?
―――いや、未開の地なら考えられる!
―――……結構建物があったし、未開の地というのは難しいか…
―――とにかく水、水を探さないと…
―――未開の地じゃないなら井戸、それか川くらいあるでしょ
ナホミの内側に入り込んだ何者かは、汚れと傷だらけの身体を何とか立たせ、部屋から出てみる。
静まり返った廊下は暗く、何も見えない。
だが、それほど長くなかったらしく、壁に手を添わせて進むと、直ぐに扉に行き当たった。
ギ…と軋んだ音を立てて、薄い板張りの扉が開いた。
途端に夜風が肌を突き刺す。
季節的には冬ではないと思うが、傷で発熱でもしているのか、それとも栄養失調で血が足りないのか……理由はわからないが、とにかく身体が震える。
それでも月明かりのおかげで、なんとか周囲を見る事は出来た。
―――水…水、せめて川…
―――あ、あるじゃん!
―――って、ポンプ式じゃない!?
―――…ほんと…ここは何処で、一体いつなのよ
痛みに悲鳴を上げる身体に鞭打って、なんとか水桶を引き上げる。
覗き込めば、多くはないが、それなりに水を汲み上げる事に成功していた。
その揺れる水面に、顔が映り込む。
何となく気になって、水面の揺れが収まるのを待ってから、もう一度じっくりと見つめた。
―――へぇ、素材は悪くないじゃん
―――悪くないどころか、結構可愛い…
―――はっはぁん、だからスケベ親父の餌食になっちゃったんだ
―――でもま、これならチャンスがあるかも…
―――さて、どうやって成り上がるか…
―――この身体の元の持ち主の素性もわかんないしなぁ
―――素性は疎か、名前も…
―――あ~そう、名前…
―――あたしの名前って…なんだっけ
―――そういえば…あ…
―――思い出した…
身体の清拭に水を探しに出たのに、それも忘れてしまったようにじっと佇んだまま動かず、水面を睨み付けていた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
ブックマークやリアクション等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




