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「…悪霊が絡んでいたなんて…。
フィーの事だから、何かあるのだとは思っていたけれど、そう……悪霊絡みじゃ、おいそれと口に出せないわね。
えぇ、理解したわ。
フィーが報告を渋っていたのも納得よ。いえ、反対に感謝すべきね。
アンネッタの為に、悪霊の事を口に出せず…最悪、自分でどうにかする事も考えていたのでしょう?
翻意があるのかも…なんて疑った事を許して頂戴」
吐息交じりに呟くと、メナジアは別の意味で眉間の皺を深くした。
同時にフィーが心の内側で、安堵の吐息を交えたのは言うまでもない。
この世界に悪霊の概念があって、本当に助かった…。
無駄に信頼が厚かった事もそうだが、奥様が存外チョロくて、本当に助かった…。
何より、何とか話を繋げる事が出来て、心底助かった……。
表現するなら、そっと拳を握りつつ、感涙しながら天を仰ぐ……そんなシーンになっていただろう。
「けれど……。
このまま無罪放免と言う訳にも…」
メナジアの呟きが暗みを帯びる。
悩みどころだが、ドニカを男爵家…延いてはナホミの下へ戻されては困る。
引き離す事が出来た結果、ある意味正気に戻ったかもしれないのだ。
それなのに戻されてしまっては、元の木阿弥になりかねない。
「モーソー家には抗議済みだし、脅しも掛けたから、こっちの好きに処分できるのだけど…」
思わず焦りのままに『ゲ…』と、声が漏れそうになったフィーだったが、何とか無表情を保てた。
(うわっちゃぁ…危ない所だったんじゃない……。
用意周到と言うか……。
聞く耳持ってくれてなければ、さくっと口封じされてたかも…ハハハハハ……。
さて、どうしよう…ナホミから引き離しつつ、何とか奥様の溜飲が下がる方法……ぁ)
ちょっと思いついた事はあるのだが、捉えようによっては罰にならず、反対に栄誉になりそうで、フィーは唇に指の背を押し当てて唸る。
フィーとメナジアだけでなく、その場の全員が困り果ててしまった。
暫く唸り続けていたが、お手上げとばかりにメナジアが疲れた様子で口を開く。
「良い方法が見つからないわ。
悩んでいても時間は過ぎていくし……一旦、その男爵家の娘を連れて来て頂戴」
メナジアの言葉に、サリタが『承知しました』と部屋から出て行った。
少しして、ヤッセムと執事長を伴って、サリタがドニカを連れて戻ってくる。
開けられた扉の前で、ドニカは向けられた視線にビクリと身体を震わせた。
フィーにチョロいと思われようが、メナジアは公爵夫人。
普通に威圧感は半端ない。
公爵夫人から視線を向けられ、穴が開きそうな程見つめられれば、怯えない方がどうかしている。
だが、その場の公爵家側の者達には、まったく想像出来ない事態が起こった。
良くも悪くも、流石『ヒロイン』…いや『ヒドイン』…。
度胸がある…と言えなくもないが、無駄にありすぎて頭を抱えたくなった。こういう猪突猛進な所は、ゲームを遵守しないで欲しいと本気で思う。
「奥様!!
ごめんなさい!
ごめんなさい!!!」
怯えていた筈のドニカが、突然メナジアの方へ身を乗り出したのだ。
いや、言葉から察するに、心底謝罪をしようとしているのだろう…そう思いたい…が………突っ込みどころは満載である。
まず『奥様』なんて呼ぶな。
そんでもって、身を乗り出すな。
叫ぶな、泣くな、喚くな……と、まぁ、このワンシーンだけで突っ込む場所に困らないのは、流石と言うか何と言うか……。
あまりのイノシシな様子に、傍に居たサリタは『ヒッ』と漏らしつつ、身を捩って距離を取ってしまう。
イメネアとユーミも、思わず手を握り合って防御の姿勢だ。
メナジアの方は表面上変化はないが、頬がピクリ動いたのをフィーは見逃さない。
見逃さなかったが、頭を抱えたくなる事態と言う事に変わりはなく、左手で顔半分を覆ってしまった。
「ごめんなさい!!
そこのメイドさんは悪くないんです!!」
挙句、駆け寄ろうとまでするが、護衛騎士団長と言う肩書は伊達じゃない。
ヤッセムはすぐさま反応し、駆けだそうとしていたドニカを拘束するべく、手を伸ばした。
勢いのままに前方へと動いていたドニカの身体が、手を掴まれる事でバランスを崩す。
ヤッセムとしては『危ない』と思っての事だろう。空いていた方の手を咄嗟に伸ばしたのだが、ドニカは叩かれると思ったのかもしれない。
バランスを崩して倒れ込みつつ、掴まれていない方の手で自分の頭を庇った。
(……ぇ…)
意識して視てなんていない。だが、フィーの目は捉えた。
(これは…)
フィーの口角が微かに上がった。
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