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我に返ったヤッセムによって、ドニカが拘束される。
暴れたり抵抗したりしてはいないが、騒がれるのも困るのだろう。
その様子に小さく胸は痛むが、今はフィー自身も連行される身だ。
最悪の場合、逃走する際にドニカを連れ出す可能性もあるが、どの道それは『今』ではない。
まずはメナジア夫人…もしかしたら当主も…かもしれないが、彼等と対面してみない事には始まらない。
フィーが歩き出した事で、先導していたサリタもハッとして歩き出した。
向かった先は本棟にあるメナジアの私室。
てっきり離れとか地下に連行されると思っていたのだが……。
室内は無人で、そのまま待つように言われた。
暫くすると扉が開かれ、メナジア夫人と、その後ろにイメネアとユーミが続く。
イメネアとユーミはフィーと目が合うと、泣きそうな顔になって、身振り手振りで『ごめん』と伝えてきた。
実際、フィーは不在になっていたし、気付かれない方がおかしい状況だったのだ。イメネアやユーミを責めるつもりなんて欠片もない。
メナジアが、フィーの正面に位置するソファに腰を下ろし、ふぅとこれみよがしに大きく息を吐いた。
「で、どう言う事なのかしら?」
さて……どこから話せばよいのやら……。
とはいえ、まずは謝罪するべきだろうと、フィーは深く頭を下げて謝罪する。
そんなフィーに、メナジアはまたしても大きな溜息を零した。
「フィー…貴方の事を信じていない訳ではありませんが、翻意ありととられても仕方ないと分かっているでしょうね?」
言い分はわかる。
仕えるアンネッタに嫌がらせをしていた相手を保護し、その上仕事をほっぽって看病までしたのだ。
成り行きだっただけだが、そんな言い訳が通用するかは怪しい。
重ねて謝罪すれば、ドニカを保護した理由を問われる。
状況的に成り行きだった部分も含め、アンネッタに絡んでいたのが、彼女自身の意思ではなかった可能性がある事も、併せて報告する。
「どう言う事?」
メナジアがソファの背凭れから半身を乗り出し、思い切り眉間の皺を深くした。
報告に至れなかった事情を始め、諸々を話しだすと、メナジアは難しい表情で蟀谷に指先を押し当てる。
「……ぃえ、ありえないでしょう。
使用人が主を操る?
そんな事、あり得る訳が……」
「はい、普通でしたら考えられない事態です。
しかし、どうやらナホミと言う人物…人柄が大きく変わっているようなのです。
もしかすると乗っ取られたのかもしれません」
メナジアだけでなく、サリタや、後ろで萎れていたイメネアやユーミも、驚愕の形相で固まっている。
「乗っ取……まさか、悪霊なの…?」
この世界にも『悪霊』等の概念はあるのだ。
地球でも実際にあった事だが、狂犬病などの病が原因で、人間らしからぬ行動をとる者を『悪霊に憑かれた』『悪魔に魅入られた』等と考える事は、自然な流れなのだろう。
少なくとも前世だの、ゲーム云々だのの話をするより、この世界の人間には理解しやすい筈だ。
それに、全くの見当違い…と言う訳でもない。
転生なら兎も角、憑依なら『憑かれた』状況である事に間違いはない。
「モーソー嬢は幼い頃より、令嬢として真面な扱いを受けていなかった事は調査済みです。
その彼女に寄り添い、信頼を得たのがナホミと言うメイドだった事も、本人の話だけでなく聞き取りでも確認しています。
その信頼に付け込み、意のままにしていた節が見受けられるのです。
今回の一連で、首謀がモーソー嬢でないなら、彼女だけ…生家の男爵家も含めて処罰したとしても、それでは話は終わりません。
使用人だからと甘い判断をした場合、悪意を野に放って残してしまう事に繋がります。
根幹をどうにかしないと、お嬢様にも公爵家にも、安寧は遠いのではないかと考えたのです。
その為、モーソー嬢本人の話を聞き、首謀と思しき人物と引き離すことも必要だと……。
まだ確証がなかったため報告できず、本当に申し訳ございませんでした」
メナジアは力が抜けてしまったのか、乗り出していた半身をドサリと背凭れに預け、蟀谷を揉みながら、ゆるゆると首を横に振っている。
(お願い……奥様、これで何とか誤魔化されて!!
まるっと嘘って訳じゃないから!!)
フィーは無意識に、祈るように目を閉じた。
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