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ドニカの魔力が、頭を庇う手に集まっている。
魔力の量は決して多くないらしく、拳一つ分より少し小さい範囲を覆う程度だが、その集まった魔力が、皮膚表面の硬度を上げているように視えた。
持久力も乏しい様で、魔力は散って、直ぐに皮膚強度も元に戻ってしまったが、身体強化の魔法の一つと見て間違いないだろう。
(へぇ…身体強化が出来るなんて、ゲーム内にはなかった設定だと思うけど…これは…いける)
身体強化魔法は、術者によって発現の仕方が大きく違う。
それ以前に、身体強化を使える術者が少なく、発現形態を分析できる程のデータがないのだが、多くはドニカのように皮膚硬度を上げると言うパターンだ。
そして術者が少ない…つまり希少魔法と言う事だ。
これが明るみに出れば、ドニカは別の意味で注目を集めてしまうだろう。本当に王家や高位貴族に望まれるかもしれない。
それは絶対に阻止しなければならない。
阻止を失敗すれば、アンネッタと公爵家の安寧に、影を残してしまう可能性があるからだ。その為には、このままドニカを遠くへ追放してしまうか、反対に囲い込むのが良いだろう。
ちなみに身体強化魔法はフィーも使えるのだが、フィーの場合、皮膚硬度を上げる事も出来るし、活動時間の延長や筋力増強までこなせるチート級である。
当然、お口をミッ〇ィーちゃんにしておかなければならない。
ヤッセムが倒れ込みかけたドニカを、何とか支えきると同時に、フィーが口を開いた。
「奥様」
平坦で特に鋭さもなかった声なのに、どこか緊迫していた部屋の空気を一瞬で切り裂いた。
「……フィー…?」
メナジアは身を引いた体勢で固まっていたが、フィーの声に我に返ったのか、のろのろとフィーへ顔を向けて名を呟いた。
「モーソー嬢には労役を科しましょう。
そうでない場合、どこか遠くへ追放でもするのが良いかと思いますが、その場合、彼女はほぼ間違いなく命を落とすでしょう。
首謀でなかった彼女に、流石にそれはどうかと思うのですが…如何でしょう?」
フィーの言葉を反芻でもしているのか、メナジアは視線を床に落とし、何やらぶつぶつと呟いている。
咄嗟に判断できないのも当然だ。
そんなメナジアの様子に、意識が向かないくらい驚いていたらしく、サリタが怪訝な顔で尋ねてきた。
「労役………まさか鉱山送りにでもすると言うの?
それくらいなら追放の方がまだ……」
サリタの言葉に、メナジアも『そうね』と零している。
当然その場は困惑に満ちた空気に支配された。当のドニカは今にも失神しそうな程、真っ青になっている。
そんな皆を前に、フィーは口角だけを微かに、そしてゆっくりと引き上げた。
「いいえ。
この邸での労役でございます」
フィー以外の全員が目を丸くした。
皆の内心を代弁するように、サリタが口を開く。
「この邸って……そんなの…それでは罰になるどころか、栄誉になってしまうじゃない」
サリタの呟きに苛立ちが見える。それも当たり前の事だ。
公爵家の使用人と言うだけで、かなりなステータスになる。
所謂『エリート』と言う奴で、羨望を集めるのに十分な肩書なのだ。
「第一、罰になる程の重労働なんてないわよ。それはフィー、貴方が一番よく知っているでしょう?」
勿論である。
公爵邸の使用人達の職場環境改善に努めたのは、フィーだったのだから。
そのおかげで現在の公爵邸の仕事内容は、とてもホワイト且つクリーンである。
まぁ、フィー自身はかなりブラックになってしまっているが……。
皆が疑問に思い、訝しむ様な視線が集中する中、それでもフィーは微笑みを消さない。
消さないまま、フィーは考える。
フラグを断つ為にも、かぼちゃラーメンの捜索は続けるつもりであるが、それが見つかれば、セル達もタイミングを見計らって、いずれこの地を離れる事だろう。
推しが居なくなるのは悲しいが、推しの幸せを願うのも信者の務め。
そうして推しを見送った後は……。
これまでは、アンネッタの下で働き続けるのだと思っていた。
それが自分の未来だと、信じて疑わなかった。
けれど、エネオットこと耕作と話した時、フィーは自分探しの旅に出たいと思ってしまった。
それはアンネッタの傍から離れると言う事に他ならない。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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