And Then They Said “ I do. “ .
結婚式はグノムシャークでするかどうか迷った上で、結局王都で執り行うことにした。王都教会の司祭であるカデルが宣誓証人として取り仕切ってくれると請け負ってくれたし、王立第二騎士団のみんなも参列したいと言ってくれたから。
ロバーツ家の商う “ Timeless Trinkets ” の伝手にて手配した婚礼衣装はため息ものだった。
式まで数週間。
ドレスを含めた全貌はだめだけれど、手袋だけ試着したところをシャーロに見せた。
「ベールもすごく綺麗なの。とくにこの手袋が好き」
肌が透ける涼しげなレースの手袋。
「お気に召したようでなにより」
「これはリリさんが手掛けてくれたの?」
「ええ、デザインは頑張ってくれたし、仕上がりの検査の目もとても厳しくて」
ふっと遠い目をする。
虫眼鏡を取り出して裁断前のレースを点検するリリは何かに取り憑かれたかの様子だったのを思い出して身震いした。
糸の繊細さから編む過程でどうしてもほつれが出てしまうのだが、損傷箇所を示す目印が増えていく様は思いだしたくない。
「作ってくれた職人さんにも感謝だね」
「そう言われると俺も苦労が浮かばれる」
えっ?と聞き返すカリナに、弱々しく微笑むシャーロ。
「俺もしがないロバーツ家の職人のひとりですからね」
これもひとえに父が技術を教え込んでくれたおかげ。
「シャーロが編んでくれたレースなの? え、いつ?! そんな時間なかったでしょ……!」
「デザインはリリが型紙に起こしてくれていたし、カリナさまが王都にいて引越し準備をしていた間にだいたいはなんとか」
期間は数ヶ月あった。仕事に影響が出ない程度に夜中にこつこつと。休日返上でとりかかっていた。
聞いた上であらためて観察する。レースの一部に見覚えがあった。
「あ、これ……前にもらったリボンと同じ模様が……?」
シャーロが手袋に包まれた手を握って、カリナのあごを掬う。
脈絡のないキスにカリナは頬を赤くした。
「カリナさまにもそのうち我が家について教えることになると思う」
「どういうこと? なにがあるの?」
つぅ、と手袋の模様をなぞる。
「これは、『カリナ・ロバーツ』とかいてある」
指が移動する。
「この模様は文字なの?」
「ええ。ロバーツ家で考案して使われる紋様なんだ」
シャーロはゆっくり家の成り立ちについても、刺繍に込められた意味も話してくれた。
結婚後、カリナはリリとシャーロに弟子入りしてボビン・レースを習った。聖女が様々なまじないを込めたレースのリボンは受け取った人たちからご利益の報告が入り、リリもシャーロも驚愕していた。
それからというもの売り物になる出来に仕上げられるまでの大量生産修行をリリから言い渡され、カリナは旅の先々で習作の手編みのレースを配って歩くようになる。
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結婚式のために久しぶりに戻った王都では、懐かしい人を捕まえた。というより、実情は彼の方から会いにきてくれたのだろう。そうでなければ会えない人物。
「ターフェルさん」
危険の及んだカリナを逃し、旧寄宿舎に匿った王城兵士。相も変わらず飄々として、軽く片手を上げた。
「なんだ、お祝いでも言って欲しいか。婚約おめでとう」
「ううん。シャーロと出会わせてくれてありがとう、って私が言いたかったの。グノムシャークに行く前に会えてよかった」
無理矢理に聖女として召喚されて散々な日々を送っただろうに、文句こそあれど礼を言われるなんて予想外すぎて、ターフェルは首を振った。
「……これからはどうか幸せに」
「うん、元気でね」
淡白な別れだったけれど、その送り出しは真実心がこもっていた。
And Then They Said “ I do. “ .
(そしてふたりは結婚した。)




