The Reunite.
目を開けたとき、まだ太陽は昇っていなかった。宿の同室の女性二人を起こさないように行動を開始する。乗馬用の分厚いズボンにブーツ、冷えるだろうからストールも巻いた。
結局は彼女らを起こしてしまったが、本日のカリナの予定を知っているためベッドの中から出たりはせず、ぱたりと掛け布団の中に倒れた。
宿の外に出ると、シャーロが鞍の準備をしてくれていた。
「おはようございます」
声をかけると、返事が三つ返ってくる。
こんなときにも護衛は外せないらしく、事情を知ったスティーフとコルニールは進んで付き添うと言ってくれた。アイボリーの正体が暴かれた瞬間に同席した二人だ。
「あれ? 三頭しかいない……?」
プライリー平原へ行くために用意された馬は三頭、人間は四人いる。
「聖女さま、馬の歩法はどこまで習いました?」
「え? 速足まで」
四種の歩法のうち二番目の速さだ。歩くのとほとんど変わらない。
「それじゃあ遅いですよ」
と、シャーロの前にぽんと乗せられた。
「手綱は任せました」
「ええっ」
シャーロは両腕をカリナの腹に巻き付けた。あくまでゆるく、鞍の前部分のなだらかな突起に手を乗せる形で。
馬に慣れないカリナのために親切でやっていることなのだから、意識しすぎなのだと思うが、シャーロが男性であることを意識せずにはいられない。
スティーフとコルニールに疑問を差し向けると、にこりとしつつなにも言わない。ということは騎士にとって女性を後ろから抱きしめながら馬に乗るのは日常茶飯事だったりする? そういう訓練もあったりする?
「……怖いか?」
声が近い。吐息さえ触れる位置で、喉の振動が伝わってきそう。なにもしなくても、馬の自然な揺れで体はぶつかるしいちいち過剰すぎるほど反応してしまうのを抑え込む。
「ううん」
王城にいる間に習った通り、綱を小指に絡ませて握り込む。
「綱をたるませすぎだ。引っ張るか短く持って」
「はい」
頭を乗馬教室に切り替える。シャーロは先生。よし。ううんよろしくない。深呼吸。
馬は群れで行動するので、先頭が上手く誘導すれば後は操縦せずとも着いていく。カリナとシャーロの馬は前後を挟まれて走った。
駈歩で慣らした、というか無理に慣らされた後に強制的に最速の襲歩に切り替えられ、後ろにシャーロがいなければ馬に振り回されていただろう。
プライリー平原に着いたころには余計な筋肉までガチガチに固まっていた。馬が走りやすいよう、馬の動作に人間側が合わせて体を動かさないといけないため存外乗馬というものは疲れるスポーツだ。
地面に座り込んでしまったのも仕方ない。シャーロに笑われた。
あれから銀の湖はさらに広がり、陽の光がなくても発光して眩しいくらいだった。聖水に見惚れていると、ふわりと風が不自然に舞う。
「アイボリー! その羽なにー?!」
銀のペガサス姿で軽やかに早駆けしてきた。誇らしげに銀色をした一対の翼を羽ばたかせる。
再会を喜ぶように、カリナの首筋に鼻先を押しつける。
ぽや〜と夢心地だったのがすっかり目が覚めた。
「これは美しい聖獣だな……」
聖女の隣に立つと、神々しさが際立つ。カリナの周囲を覆うのは神気に違いない。シャーロは神気を見たことも触れたこともないが、これをそれ以外になんと呼べるだろう。
いまにも下界から飛び去っていってしまいそうだ。
「カンペキにペガサスだよこれ」
「ペガサスって、民族伝承伝説の?」
「うん。想像上の生物。こっちの世界にもあるんだね。有翼馬っていうのかな」
たてがみ、尻尾はもともとが銀であったように生え変わり、茶色だった胴体も色が薄くなりかけてきらきらしている。
「アイボリー、きみって空を飛べるの?」
羽を一度広げて閉じ、両前脚を折ってみせた。乗ってみろと言いたげだ。
カリナは横座りになってから、胴体を挟み込むために片脚を向こう側へ回そうとしていた。気の早い馬が身を起こす。シャーロが支えた体がぐらりと揺れて、慌ててアイボリーのたてがみと羽を鷲掴みにする。ばさり、と翼が大きく上下する。
「こんの、」
浮きかけた足で弾みを使い、シャーロが馬の背に乗り上げる。
羽を掴んでいたカリナの手がずるりと抜けて体は馬上で仰け反った。握力は先の乗馬で使い果たし、ほぼ無きに等しくなってしまっていた。
「きゃあああぁぁぁ!!」
近距離の悲鳴に耳を塞ぎたかったがそれは無理だ。調子に乗って高度を上げていくペガサスのせいで、しがみつくのに両手が要る。
「聖女さま!」
護衛騎士たちがなす術なく草原に取り残される。
The Reunite.
(再会)




