A Devotary Or…
トットリー国からスカエ・クロア国内へ戻りやや北上すると中央あたり、フォウグエーゼ地方のプライリー平原に出る。
見渡す限り真っ平な草原が広がるなか、真円を描くように土が剥き出しになった場所があった。
一行は全員馬に騎乗していた。教会枢機卿であるアベソロマも例外ではない。
第一にノウドが歩いて異変がないか確認した。カリナに手を貸してアイボリーから降りさせ、聖杯へと手を引く。たてがみと尻尾のほとんどを銀色に染めた馬のアイボリーは、それが当然のように後から着いてくる。
聖女を置いてノウドだけが草の生え際まで下がった。近くで聖職者たちは各々馬の隣に立ったり跪いたりしている。他の騎士軍団は平原に出る魔を追い払うのに力を尽くしてくれていた。
乾いた土だった地面が銀色に侵食されていく。アイボリーが浴びるように聖水を飲みはじめた。
やがて満腹になったのか、聖獣は平原を縦横無尽に駆け回り魔を片っ端から祓っていく。
役目を失くした騎士たちがカリナのもとへ集いはじめた。
始終を見守っていたアベソロマが拍手をする。
「お見事でございました、聖女さま。それに毛色の違う馬を連れてらっしゃると思えば、聖獣だったとは」
「はい。旅の途中でわかりましたの」
彼と仲良くなる気が起こらなかったカリナは外向けのお澄まし態度をとることにしていた。
「聖女さまのご勇姿も見せていただけましたので、わたしはこれで失礼します」
「そうですか。私はもう少し聖獣の様子を見ておりますわ」
アベソロマは鷹揚に礼をとって馬に乗った。これ幸いとカリナは手を振る。
アイボリーが鼻息荒くカリナの側による。全力を出したばかりで湯気のようにくゆるのは、汗の熱気ではなく爽やかな気配がした。神気と呼ばれるもの。この子はもうほとんど聖獣として完成している。
「きみ、この平原に残るの? アイボリー」
ヒヒン、と馬らしい鳴き方は忘れていなかったようだ。それに呼応して、一頭の馬が歩いてきた。
青みがかった灰色の胴体に、他の部分は黒い毛をしている。それに惹かれるようにノウドがやってきて、首筋に手を置く。
「きれいなブルーダンですね」
「ブルーダンっていう種類の馬ですか?」
「いえ、馬の品種ではなくこのスモーキーな毛色のことです」
聖獣はその馬に向かって首を振ってみせた。アイボリーと向かい合っていたカリナの隣にぴったりと着く。
「アイボリー、引き継ぎしてくれた……とかかな」
フンフン、と縦に振る。完全に会話が成立している。
「なんと、後釜を用意していたのか」
「これからよろしくね」
馬はぱちりと瞬いた。
「こんなに従順で、持ち主がいるわけじゃないですよね」
「尻尾も蹄も伸ばしっぱなしで手入れがされてるわけでもなさそうです。野生、なのだと思います。しかし調教済みのように振る舞って……お前どこからか逃げ出したわけじゃないだろう?」
馬鹿を言うな、とばかりに尻尾でぴしりとノウドを叩いた。
「街に戻りましょうか」
馬に乗るのにまたノウドに手伝ってもらわなければならなかった。
A Devotary Or……
(信者もしくは……)




