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Holy Moly!

 屋敷は人でひしめき合っていた。部屋にも入りきらず、多くが廊下にも寝たり座ったりしている。

 血の赤色こそ見えないが、黒い外衣(チュニック)が包帯を巻かれた人々の間を行きつ戻りつしている。魔を感じさせる黒い煙がこの場を薄ぼんやりと覆っていた。

 魔が集まってきている。


「重症の方はどちらに?」


「はい、ご案内いたします」


 噴水から汲んできた容器を近くの者に引き渡して、彼は奥を手差しした。

 危篤、といって差し支えない状態の人たちが詰め込まれていた。そばで泣いたり患者の手を握っている家族もいて、部屋の密度は高い。


 部屋に踏み込みながら、カリナは腰袋から聖杯を出して、銀の光を引っ張り上げる。

 ああ、そんな乱暴に聖杯を扱ったら聖女の威厳が、と言いたそうなルシアンヌのはらはらした表情をニノンは無視する。人命優先の行動に粗をほじることはしたくなかった。


「家族の時間に割り込むことをご容赦ください。魔の浄化をさせてくださいませ」


 声かけをしてから、聖水を惜しみなく全身に振りかけていく。患者の付き添いは呆気にとられる者、喜びに泣き笑いする者もいた。その場の空気が明るくなっていく。



 開け放たれた扉から覗き込むようにして、聖女お付きの者たちは気配を消して廊下の壁に張り付いている。


「ねぇ。聖水ってあんなに効くものだったかしら?」


「いいえ。何度も何度も毎日聖水を使わなければ、あれだけ重度の魔は祓えませんことよ」


 魔は魔を引き寄せる。だからこそ重ねての浄化が有効なのだ。


「そうよね。まぁ、あの患者さん起き上がったわ」


 包帯を外し始める彼らに嘘でしょう、とニノンとルシアンヌが顔を見合わせる。


「なんと言うのでしょう、濃度が違うのかもしれませんわ」


「聖女さま仕込み、混じりっ気なしの、度数百……というところですか」


 二人の頭上から小さく笑い声が聞こえた。護衛のためとはいえ狭い室内には騎士二人もあぶれたらしい。


「なにやら酒のことを話しているようだな」


「それなら聖杯から離れれば容量が減る……容器の外では蒸発してしまうのも説明がついてしまいますね」


 ニノンが下がった目尻を細める。



「ニノン、ルシアンヌ、手を貸してください」


 聖女の一声で彼女らの空気が切り替わる。危篤者の浄化は終わった。次に重篤である魔症患者のため、手分けして浄化するという。借り受けた器にカリナが銀を注ぐ。

 バケツリレー方式で聖水が運ばれていく。聖職者でない騎士たちが聖水に触れるとその効能を打ち消してしまうため、その壮麗さを静観しているしかない。


「今夜は飲めるかな」


「ジャンあたりがいまごろ買い貯めてるだろ」


「違いない」


 同僚が酒瓶を煽っている姿を想像して、スティーフは腕を組んだ。


 カリナ達の去り際、広場ではすでにお祭り騒ぎが始まろうとしていた。


Holy Moly!

(こりゃすげぇ!)

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