The Beginning of Chapter Two.
ここから一日二話投稿(11時と12時)にしてみます。
お話を飛ばしてしまわないようご注意ください。
よろしくお願いします。
カリナが旅に出発するよりも先に、シャーロはグノムシャークへ意気揚々と出かけてしまった。
出発にあたり、カリナは新しいものばかりで身を固めていた。しっとりした光沢を抑えた外衣は裾を引きずり袖も手の大部分を隠してしまう。肩衣はロバーツ家のリリより献上されたレースで、白を地にして銀の糸でカリナ専用に考え出された意匠が編まれている。
それまで使用していた革の腰帯と十字架は城下町の教会に飾られているらしい。
変わらないのは聖杯の入った袋と、手首に巻く水色のレースだけ。
旅の起こりは王城のプライベート・ガーデンから始まった。陛下王妃陛下殿下から一言ずついただくも、緊張してあまり覚えていない。ひたすら「はい」としか返していなかった気がする。
王都教会へ立ち寄り、司祭となった青年に挨拶した。垂れ目を見て少し気が抜けた。
そこで旅の参加者全員に祈願をかける儀式を司祭カデルの指導のもと行った。
カデルがカリナの右手のひらに、聖水に浸した指で十字を切った。困難を打ち砕く、開運、旅であれば無難な道を切り開く、などの意味があるらしい。
それを真似して、従事してくれる人たちに今度はカリナが十字を切る。
全員といっても警護してくれる選出された騎士たち八名と、王都教会から帯同を許された女性聖職者二名という少人数ではある。世界に散らばる聖杯の数に則って十人。
一人目、引率代表であるウクドリッドの手をとると、彼は目をまろやかにした。
「これからお世話になります。無事に帰ってこれますように……って、ガウワーさまがいるのに杞憂ですよね」
「ありがとうございます。どうぞお任せください」
彼の私邸であれだけの反応をしたからか、手にキスをされることはなかったのでほっとすると、思考を読まれたのか笑われた。後は年功序列に並んでいてくれたようだったのですんなり進む。十字を切るのも最後の順番となった。
「旅の間はよろしくお願いします。旅路が平穏でありますように」
「ありが、ありがとうごじゃます……くっ」
初々しい騎士はカリナの祈願に礼を言うのにも噛んで同僚から失笑を買っていたが、カリナも負けじと緊張はしていた。
同じ空間には魔症の浄化に来ていた市民もいたし、周辺教会の聖職者が一気に集まって見学していたから。彼らは王都中央教会から、自分たちの教会支部へ聖水を運ぶのが目的のはずだが、この日はぞろぞろと連れ立っていた。
「カデルさん、行ってきます」
「お気をつけて。旅の安全をお祈りしております」
そこを出たところで聖女を一目見ようと人がごった返してきて、ウクドリッド率いる王都第二騎士団が活躍した。第一騎士団が聖女の護衛に当たる予定だったところを、ウクドリッドが志願して通った。
カリナも全くの初対面よりかはシャーロの信頼のある団長にそばにいてもらったほうが嬉しいので、選ぶように言われてウクドリッド・ガウワーさまを、と答えた。
わぁっと子どもたちの賑わいが聞こえて、彼らの指先をなぞった。頭上を飛ぶハトが数羽。風切り羽が銀色だった。
聖獣だ、と伝言が続く。まるでカリナを歓送しているように飛び回る。
人垣は次の王都の境目まで続き、馬車に乗る予定だったところを急遽カリナは馬に横乗りになって群衆に手を振る羽目になった。綱はウクドリッドが引いている。スピードを上げない限り落ちないくらいには訓練させられたのが役に立った。
馬から降りるときに手を貸しながら、ウクドリッドはカリナにカマをかけた。
「シャーロでなくてすみません」
きっと彼にこそこの場にいて欲しかっただろうに。
「えっ。そんな。それは、この旅にいてくれたら心強いですけど……」
「聖女さまは素直でらっしゃる」
琥珀色は娘を見るかのごとく優しい。シャーロが惚れたのは純粋な娘らしい。あの男も実直がすぎるきらいがあるから、貴族として合わせるなら少し悪知恵の働く娘がよいのではないかと思っていた。しかし世間ずれしていないこの子がシャーロのそばにいると二人して周囲を和ませる。
応援したくなる、とでも言おうか。
「あ、団長さんのほうが強いんでしょうから、きっとこのほうがいいんですよね」
「負ける気はしませんね。数年後はわかりませんが」
「そうなんですか?」
騎士だから強いのだろう、とは理解していても、どの程度かは皆目測り方がわからない。
「第八でなかなかいびられていたようですが、腐らずにいてくれてよかったですよ。グノムシャークでは実力を発揮できるでしょう。会うのが楽しみですね」
シャーロの待つ領地までは遠い。旅程では最後から二つ目、スカエ・クロア国の西南に位置する。全行程は時間にして約一年をかける予定だ。
カリナは元気よく頷いた。




