Finally, I Got You.
元大司教カエソベリウスとローズリンは裁判で適切に処理されたという。もうカリナの人生にかかずらうこともない。
また王妃から招待されたお茶会で陛下から直々に魔症を浄化したお礼の言葉もいただいた。
誓約書やら契約書やら、署名をしなければならないのに、カリナは文字の練習もろくにできていなかったのでほとんどぶっつけ本番で乗り越えた。いまは文字から習っている。
不自由とは無縁の生活が始まった。自分で動かなくても言わずとも侍女が先回りしてなんでもやってくれるし用意してくれる。有難い。
なのに、不自由でもふらりとやってくるシャーロを待つ毎日だった頃がなんだか懐かしい。
行儀が悪くても台所のアイランドに寄りかかって、お喋りしていたのが夢みたい。
カリナは回国するために準備中だ。とはいっても、カリナ個人が用意するものはなにもなく、侍女や教会が持ってきて見せてくるものを確認するだけ。それよりもこの世界の歴史や教会について儀礼の授業だってあるものだから煩わしくなってしまった。勉強が嫌なのではなく、幽閉されている気分になるのが憂鬱だった。
シャーロも仮病がバレたので、元の訓練中心の生活に戻っている。だからなかなか会えない。
休憩時間に逃げ出すようにして騎士団本部を訪ねてやっと顔が見れた。
「よかった。ずっと話したいことがあったんだ」
にっこりと笑顔になったシャーロの両頬を摘む。端正な顔が崩れるのはいい気味だ。
「シャーロ、ありがとう。ずいぶんお世話になりました」
「痛っ……」
指を捻って離す。あざも刃傷も影も形もない。もうあれから何週間だろう。
「言葉と行動が矛盾してるぞ。…… 聖女さま、怒ってらっしゃいます?」
「あれからずっと会えなかった。友達にありがとうも気軽に言えない距離なんて、面倒だね」
拗ねているだけか、とシャーロは苦々しくした。
「王城の中枢部なんて、ただの騎士が行ける場所じゃないんだ。……ごめん」
「そうじゃない。あの夜の襲撃のことも変なふうに誤魔化したし、教えないなんて子ども扱いしたの?」
「カリナさまは熱を出してたから回復に専念して欲しかった」
「ちゃんと襲撃の危険性だって説明してくれれば理解したよ。戦えないけど」
「襲撃はおそらくあるだろう、くらいで確信があったわけじゃない」
「シャーロばっかり怪我をして」
「俺にしたら名誉だ。あなたを守りきった」
馬鹿、と赤い顔で呆れた。
「それで、はじめに言ってた、話したいことって?」
「ええ。俺は叔父の領地に行きます」
すっきりした表情に、カリナは固まる。
「王都を離れるの? 騎士のお仕事は」
寝耳に水だった。カリナを守ったことで階級が上がるくらいはすると予想はあった。それで王都を、カリナのそばを離れないでいればいいのにと勝手に願っていた希望は打ち砕かれる。
「栄転だ。叔父お抱えの騎士団の騎士司令官に任命されて給料が桁違いになる」
「それは、おめでとうございます」
シャーロの吉報とは反対にカリナの心は沈んだ。
「ありがとう。そこの騎士団長殿が年でいずれ引退するから、後を継げと言われたんだ」
「大出世だね。ごめん、私は階級はよくわからないけど」
「騎士団なら下から騎士、騎士隊長、騎士司令官、騎士団長と上がる」
王都で騎士隊長に引き上げると辞令も受けたが、天秤にかけて叔父の手を取った。多少の期間離れることになっても、より良い条件でより早く彼女に追いつくにはどうすればいいかを考慮した。聖女のそばにいるために相応しい力を得るために。
「ということはキャプテン飛ばしてコマンダー? うわ、ほんとに大出世……!でも、遠くに行っちゃうのかぁ。寂しくなるね」
寂しい、と言葉にすればさらに心に突き刺さった。
カリナにしてみれば、シャーロにひとつも恩返しができていない。遠くにいれば手紙の往復さえやりづらくなるだろう。そうなればどうやって恩を返せばいい。
Finally, I Got You.
(やっと捕まえた。)




