The Face Off.
広間に錚々たる面々が並んでいる。カリナには面識がない者がほとんどだ。はっきりわかるのは国王の魔症の浄化で王の寝室にいた王妃と王子がせいぜいで、歴々のお集まりなのだろうとしか言えない。
「聖女カリナよ」
「陛下」
教皇フェリシッシムスが隣にいることを思い描いて、彼がしていたようにお辞儀する。王城での身振りはフェリおじいちゃまのやり方しか知らない。
「王妃の招待にも答えがなかったときく。私の魔症を浄化した、聖女殿への感謝を告げる席であった」
初っ端からなんですかそれ、とカリナの目が物語る。口を開こうとしたが、王が先に話しだしたので閉じる。
「重圧に耐えきれず行方を晦まし人々を混乱させ不安を煽った。ーーと、訴えにはある」
「私はずっと騎士団の旧寄宿舎にいました」
「そのようだな。しかとて」
王は手招きの動きをした。
「そなたにかかる疑いを払拭せねばならない」
二人の人物が中央に進んだ。カリナからは離れているが、向き合うような形になる。男のほうは見覚えがあった。女の方は聖職者の制服を着ているが知らない人間だ。暗い金髪の前髪がベールからはみ出て、丸い茶色の瞳にかかる。
「王都の聖杯を満たした方こそ、この聖女ローズリンさまでございます。陛下」
大司教カエソベリウスが司教杖を掲げ、宣言した。
この男はいまなんと言った? 王都には聖杯のある教会は二つもない。王都教会の助祭カデルの目の前で聖なる力を復活させたのはカリナだ。
人の手柄を横取りしているのか……。
カリナは熱のせいかくらりとした揺れを感じた。
「ならば双方聖女たる証を見せよ」
ローズリンは手にした聖杯から銀の流れを生み出した。壇上からはなみなみとした銀の水がよく見えただろう。方々からため息が漏れる。
カリナも持ち歩いている聖杯を聖水で満たした。それは縁から溢れ続け、輝きは空気に溶けた。
少なくはない人数が息を呑んだ。
「両者どのようにして聖杯を満たしたか説明せよ」
「単純ですけれど。聖なる力は天におわす神さまからのお恵み。降り注ぐ雨のように、雫が溜まってゆく様子を想像しました」
ローズリンは自信を持って答えた。人によってやり方が違うのか、とカリナは合点した。
「カリナ殿は」
「聖杯から細い糸が足元深く地中の奥の奥に垂れていて、その先にまばゆい塊があります。それを引っぱり上げるのです」
壇上の人々からは表情が読めず、カリナにも正誤はわからない。質問は続けられた。
「召喚され洗礼を受けたのなら、以前の世界での名前があるな。何と申す」
「はい。わたくしはルマーナ・アル・カリミと申しました。洗礼を受けてローズリンとなりました」
カリナも氏名を告げようとして、息を吸った。
「た……」
一文字を発音して、視界が歪んだ。目の前に真っ直ぐ横一文字に暗い線が伸びる。白黒に色彩が落ちて砂嵐のような耳鳴りがした。心臓が不愉快な鼓動を打つ。
ああ、いま禁忌に触れそうになった。
教皇フェリシッシムスの眼差し、受けた三つの十字がカリナを静止させた。
「……名乗れません。それは、この世界とは関係のないものです」
耳鳴りが引いて、線が消え色が戻る。
「陛下からのご質問に答えないなど無礼よ」
ローズリンは卑しいものを見るようにカリナを見た。それでも拒否する。
「私はカリナです。フェリおじいちゃまにもらった、『カリナ』が私の名前です。前の名前は二度と名乗ってはいけないと教わりました」
「亡き教皇さまを保身に使うか。浅ましい考えだ」
カエソベリウスが唾棄した。
「よい。それもまた答えよな」
色素の薄い瞳で聖女たちを比べた。
陛下の言葉ではない問いに王子が頷く。
カエソベリウスが気色ばむ。
「陛下! いくらあの女が異世界より召喚された存在で資格があろうとも、責務を放棄するならば世界を滅ぼします! 即刻排除して新たな聖女を据えるべきです」
「心根に問題があると申すか。過去に勤勉でなかった聖女はおらぬ」
「しかし事実、責務から逃げ、雲隠れしていたではありませんか!」
騎士団最高位の枢機卿が声を張り上げた。
「陛下に申し上げます! 第二騎士団団長ウクドリッド・ガウワーがお目通りを願っております」
密やかに言葉を交わす人々の視線が大扉に集まる。
「ガウワー卿は魔症して歩けもしないと聞いた」
「もう助からぬのではなかったのか」
こそこそと囁かれる。
「通せ」
入室して最敬礼をとる騎士は壮健であった。
「陛下。ウクドリッド・ガウワー参じました」
明るい金髪にアンバーの瞳は、カリナも会った騎士団長だ。
斜め後ろに、騎士団員でもない細身の聖職者の姿もある。垂れ目が穏やかな印象を与える青年だった。
「この場におるということは、聖女に関することなのであろうな」
「まさしく。皆さまにもお聞き届け願います」
胸を張って見渡した。
「聖女カリナさまは、私の全身に及ぶ魔症を耳にして自ら赴き、私が頼むよりも先に魔を浄化してくださった。それから見返りを求めることもなく、ひたすら私の身を案じてくださいました。まごうことなき慈悲の心に満ちた乙女でございます。傲慢や怠惰とは無縁のお方」
カリナはそんな立派なことをしていただろうか、と首をひねる。思うがままに行動しただけなのに。
ウクドリッドは彼の背後にいた青年へ手を向ける。
「この王都教会助祭のカデルの話もお聞きください」
「話せ」
王は発言を許可した。
はい、と返してカデルは身を翻し、まず聖女へ膝をついた。
The Face Off.
(対決)




