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I’ll Save You No Matter What.

 もらった薬が強かったのか、カリナの眠りは深く、起きたあとも体がだるかった。翌日の昼過ぎにようやくベッドから抜け出す。

 厨房で湯を沸かしていたシャーロが振り返った。


「カリナさま、気分は?」


「熱はだいぶ下がったよ。シャーロ、もしかしてずっといてくれたの?」


「ええ」


「風邪くらいでそんなに心配しなくても」


「こっちの世界の薬は初めてだろ? 変な副作用がでたりしたら困る」


「それは、ありがとう」


 シャーロは案外心配性なのかもしれない。

 カリナが横に並んで、眉を寄せた。


「あごの下、首のとこ? どうしたの? 血が出てる」


「……昨夜、(いぬ)と狸と狐が出て、追い払っていた」


 なんとも協調性のなさそうな組み合わせ。


「え、壁の内側なのに動物いるの?」


「そう。内側で飼われてたみたいなんだ」


「城内で放し飼いの動物? いままで鳴き声なんてきいたことないけど……シャーロが怪我するなんてどんなすばしっこい子たちだったの」


「素早さはそれほどでも。三匹もいたから面倒ではあったな」


 刃物での傷跡みたいだが、とカリナは推測する。動物の爪なら並行して傷がつくものではないのか。この世界にも狂犬病があったりしたらどうしよう、と不安が募る。


「結構深いみたい。大丈夫?」


「なんともない、消毒した」


 カリナにかすり傷ひとつない限り、これも無傷のうちだ。


「ほんとに? 病気とか寄生虫は怖いよ。ちゃんとお医者さんとか専門の人に診てもらってね。私、魔は祓えても怪我は治せないんだから」


 おろおろするカリナに、ほっとする笑みを返す。それよりも、とシャーロはテーブルの上に置かれた手紙を指差す。


「伝言役が持ってきた書簡だ。開けてみるか?」


 カリナが受け取って、封蝋を剥がすようにして折り目を開いた。すぐに困惑してシャーロに助けを求める。


「私この世界の文字読めないんだった……」


 かろうじて読めるのは、自分の名前が先頭にあることぐらいだった。


「俺が読んでもいいか?」


「お願いします」


 ざっと読んでからもう一度熟読する。

 聖女カリナ、召喚、明朝十六日午前十時、王の署名。


「十六日は今日、朝……、今朝って! おい過ぎてるぞ!」


「ええっ?」


 今朝と言われても、カリナは熱を出して寝込んでいた。いまだって起きれるようにはなったけれど、体は火照っている。


「聖女さま、シャーロ無事か?! いまカエソベリウスの兵士たちが来るぞ」


 先触れにターフェルが息を切らす。

 がちゃがちゃとうるさい音を立てて、男たちが入ってきた。


「王の命により聖女カリナを引き立てにきた。召喚に応えなかったこと、重く受け止めよ」


 シャーロがさっとカリナの前に立つ。


「引き立てだと?! 聖女さまは王族に等しいお方だ。王の呼び立てとあっても、それは命令ではない、招請(おねがい)だ。それにこっちにも事情がある、罪人のように連行しようとするな」


 問答無用、と鉄拳が飛んできた。彼らも自分たちの首がかかっているので必死だ。


「シャーロ!」


 カリナをその背に隠したまま、シャーロは譲らない。

 王城、しかも敵であるカエソベリウスが待ち受けている場所には行かせられるものか。口端から血が垂れた。


「暴力はやめてください! 私が呼ばれているのなら行きますから」


 従順なカリナを見て先頭の兵が拳を下げた。


「陛下がお待ちだ」


「カリナさま」


「王さまにできる限り言い訳してみる。熱があったのはほんとだし。だからシャーロは心配しないで。怪我を、治してもらってね」


 カリナは背中を押されて、転びそうになりながらも両脇を固める兵士がそれを許さない。


「助けに行く!! 待ってろ!!」


 全力の叫びだった。

 大丈夫、すごく心強い。

 そう思うのに、カリナの手は寒気で震えていた。

 これだけの数の兵士に囲まれて恐れないはずがなかった。


 王城の中では侍女たちの動きが優雅なせいで、時間がごくゆっくり流れているようだった。シャーロがなにか段取りをしているのなら遅くなればなるほどカリナにしたら好都合だし、心を落ち着かせるにも一役買っている。


 ワンピースを脱がされ着せられたのは前と同じ司祭礼服(カソック)だった。外衣(チュニック)肩衣(スカプラー)を重ね、その段階ごとにしわを伸ばし角度を直し、出来栄えをいちいち確かめられる。

 顔を拭われて、紅を引かれた。化粧を施したうちのひとりが、カリナの額、それから首に手を当てる。


「お熱が……」


 眉をひそめて、王城に常駐している医師を呼んでくれた。薬湯をもらえたので、最後の抵抗のつもりでちびちびと飲んだ。不思議とこの部屋に入れられてから、急かされることはない。


「あの、私はこれから裁かれるのでは?」


 騎士団旧寄宿舎に来た兵士たちは乱雑だったが、この部屋でカリナは要人として扱われているような気がして疑問だった。

 問われた女性はぱちりと瞬きをして、首を振った。


「わたくしはなにも存じ上げません。普段は王妃陛下にお仕えしておりますが、本日は聖女さまのお世話を、とのことでございます」


 そうしてカリナの髪を飾っていたレースのリボンを解く。それを指に巻いてまとめようとするので端っこを指で掴んで止めた。


「それ、大事なものなんです。どこにでもは置かないでください」


 シャーロのリボンを手放すのはとても心細かった。


「さようでございますか。こちらはお髪に着けて差し上げられませんが、お仕舞いください」


 カリナはそれを聖杯の入った袋に落とした。

 侍女こそが時間稼ぎをしているかのように、丁寧に髪を梳いてベールを着けてくれた。

 もう一度紅を引かれて、侍女が扉の外へ話しかける。


「聖女カリナさまが参られます」


 大きく扉が開かれた。


I’ll Save You No Matter What.

(なにがあっても助けるから。)

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