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Rout the Louts.

 聖水とは水とは全く異なる性質を持ちながら、水と同じ経路で循環する。もっとも、雨のように天から降り注ぎはしない。聖女によって掬い上げられた、世界を浄化する銀の光は地上を清める。見えないながらも地面に染み込み、また地中深くを目指す。


 つまり、聖女とは吸水ポンプ。

 すごく情けない気分になったし不遜なので永遠に口にはすまい。


 聖職者(クラージィ)とは聖水に触れ他人に浄化を施すことができる人物を指す。

 常人では銀の水に触れたとたんその光は消えてしまうが、聖職者は聖水を持ち運び、効力を他人に与えることができる。創世の王の子孫と言われる彼らの特別な能力の一部だった。


 また、聖職者の半分は治癒の力を兼ね持つ。これを治癒術士(シャプライン)と言い、できない者と区別する。いずれも聖女のように聖水を好きなように引き出すことは決してできないが、怪我を治すのも教会での大事な役割だ。


 その浄化の根源となる聖水が、世界各地で絶えている。

 というのが、現状だった。


 過去にも二人の聖女が同じ時代を生きた証拠はない。

 そんな中、大司教カエソベリウスがもうひとり、聖女の召喚に成功したと王に報告した。

 それがこの混沌のもとだった。


 当の王に意識はなかったが、王妃も王子も確かに聖女カリナが王の魔を祓った場面を間近で見た。

 ところが彼女を召喚した教皇フェリシッシムスが急逝してからというもの、聖女カリナは塞ぎ込んで姿を見せなくなっていかなる問いかけにも応じないという。王城教会の大司教カエソベリウスの説得も虚しく、と奏上された。


 聖女には世界を浄化するという課せられた役目がある。各地の聖杯を満たすこともままならないと聖女カリナに疑いを持った大司教カエソベリウスは、新たな聖女の召喚を試みた。


 王としては、聖女にはなんとしても聖地の聖杯全てを満たしてもらわねばならない。

 スカエ・クロア王国の王都は教会の総本山であり、聖杯を王城ペリベイルに保有する。しかし全世界各地や、国内貴族の治める領地にも教会の支部および聖杯があり、聖女の回国を待ち侘びているのだ。聖水がなければ世界が滅ぶ。聖女を出し惜しみしているのかと他の領地から恨まれ反乱戦争にもなりかねなかった。


「聖女カリナに正式に召喚要請を」


 王の命に臣下は、はっ、と短く返事をした。

 聖女の身元を預かるのは教会。現在統括するのは大司教カエソベリウスであるため、書簡が回ってきた。

 王妃が聖女カリナを探しているのは知っている。教皇亡き後のカリナの目撃情報を潰し、責務の重さから遁走したのだと広めたのもこの男。


 書簡を預かったカエソベリウスは部下を呼び出した。


「地下にいるカリナへ届けろ」


 受け取った部下は地下牢を訪ねたが、どれだけ声をかけても聖女カリナの反応はない。途方に暮れて書簡を鉄格子の隙間から投げ入れて帰った。

 牢番はそれを密かに拾い上げて、カリナを連れ出した男、ターフェルを探した。



 数刻後、騎士団旧寄宿舎の前で、右往左往するターフェルがいた。シャーロはそこに行き当たった。

 いつもと同じような時間に来たのに、カリナが扉へやってくるまで待たされた。鍵を開けようとガチャガチャ長く音を立てているのが妙だなと匂わせる。


 扉に体を寄りかからせているカリナは汗をかき、一見して発熱していた。彼女の額に手を置いたシャーロはすぐにその体を抱きかかえた。


「燃えるように熱い」


 ベッドに寝かせて、気休めに濡れタオルを当てる。

 薬が要る、と素人にもわかる熱の出し方だった。


「もう、ここを知られても構わないよな」


 これまで隠せと言われていたが、シャーロはターフェルに確認した。


「俺がここに来るまでに後を付けられてたからとっくにバレてるさ。こうなったら派手に動こう」


 シャーロが騎士団本部から医師を連れてカリナを診てもらった。身体外部に受けた損傷は聖職者に治癒術を使って治してもらえるが、病気は別だ。その身の内からでた疾患は医師の治療と薬を必要とする。

 熱冷ましを飲ませて、あとは様子を見るしかないと言われた。単なる風邪でタチの悪いものではないと診断されれば他に成す術もない。


「ターフェル、ここに少し留まれるか」


「どこへ行く?」


「協力者に会いに」


 日が沈む前に戻ってきたシャーロは、着替えを手にしていた。今度はターフェルが建物外へ出るために立ち上がる。


「悪いが俺は城に報告しに戻る。お前は泊まり込むんだな?」


「ここ、バレてるんだろ。カリナさまは動けない。襲われちゃたまらないからな」


「そうか。俺も明日また来るよ」


「わかった」


 幸いにも侵入は一度だけだった。深夜に灯りをつけていれば(おび)き寄せられた暗殺者はまんまとシャーロのいる部屋へ上がってきて、刃物をチラつかせた。

 血は証拠にはなるが、カリナには見せたくないな、とシャーロは両手の指を鳴らす。


「聖女はどこだ。安心しろ、我らとご一緒にいただくだけだ」


「大司教も焦りすぎじゃないか?」


 徒手はあまり得意ではない。加減が上手くできないから。ひとりは片足を折れば逃げ出し、二人目は肋骨を折って窓から突き落としてやった。そう高くないから、追加で骨が折れるくらいだろう。動けなくなっているとよいが。


 最後には短剣を向けられたが、シャーロは剣を鞘に入れたまま応戦した。白刃は首を掠めたが腕を掴み落とさせた。落としたナイフを拾って腰帯(シンクチュア)を切り、それを使って首を締め上げる。


「聖女さまの御前を血で汚すことは許さない。帰って飼い主に覚悟するんだなと伝えろ」


 この男も窓から落としたので、彼らによる誘拐は頓挫した。手元に残ったのは腰帯と十字架の鎖。

 シャーロは引き続き寝ずの番を務める。


Rout the Louts.

(暴漢を叩きのめす。)

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