表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/52

The Trust Fall.

「お待たせしました」


 妹のワンピースを着た聖女の姿は、違和感がある。妹のほうがほんの少し背が高く、骨格の違いのせいかワンピースが全体的に弛んで見えるが、それもじっくり見れば、の話。


「お兄さま、帰ったらゆっくりお説教(はなし)しましょうねぇ」


 おっとりした笑みなのに、背後に噛みついてきそうな獅子が見えたシャーロは原因がわからずとも頷いた。

 妹怒れるとき無駄口を叩くべからず。



 聖職者の制服を着たリリに見送られ、シャーロとカリナはターフェルが指定した場所へ移動する。

 城壁は登れるとっかかりを無くして真っ平である。だが一部の壁に崩れた跡の穴があり、低木と蔦でうまく隠れていた。


「ターフェル、こんな抜け道どうやって見つけた」


「真面目な人間だってサボりたいときはあるんだよ。せっかく秘密にしてたけどここはもう使えないからこの件のあとに塞ぐさ」


 残念そうにしているが、彼のことだから別な抜け道を隠していそうだ。

 ほらよ、と束にした縄をシャーロに渡して、彼は「あまり長い間仕事に穴を開けられない」と城に戻ってしまった。


 壁を抜けた先は雑木林が広がり、人が通るような道はなかった。壁の下部は崖になっていて、戻る時カリナは何がしかの助けがないと登れないだろう。縄をもらっていてよかった。シャーロは木の幹に縄を結んで、それを壁の向こうへ垂らす。


「俺が先に降りるから、カリナさまは待っていてくれ」


「うん」


「降りたら縄を引き上げてまとめて木の根元に隠しておいて」


「そうしたら、私はどうやって降りたらいいの?」


「いいから」


 答えも言わずにするすると縄にもほとんど頼らず降りる彼は、重ねた訓練のあとが見てとれた。

 騎士ってこういうこともするの? 消防隊とか自衛隊みたい。

 シャーロは無事に地について、両手を上げる。


「ほんとに縄要らないの?」


「ええ。片付けてください」


 しぶしぶ縄をくるくる巻いて回収し、木の葉をかけて隠蔽した。

 カリナは身を屈めて穴から上半身を出す。


「これで、どうするの?」


「俺を目掛けて飛び降りて」


 下を覗き、胃がきゅっとなり首を横に振った。拒否を見てもシャーロは両腕を伸ばす。


「大丈夫。怖くない」


「怖いから。ちゃんと飛べる気がしない。シャーロも絶対痛いよ」


「すまない。ここでもたもたしてられない」


 それはわかるが、とカリナは押し黙る。

 シャーロは体格も良いし軍事養成の一環でお馴染みかもしれないが、カリナに同等の水準を求められても無理だ。飛び台からプールに飛び込むとかじゃない、彼が立つのは固い地面だ。目標からわずかでもズレれば、と足がすくむ。


「必ず受け止める」


 シャーロは自信たっぷりに微笑んだ。


「おいで」


 深呼吸の後、崖の端を蹴るためにぐっと力を込めた。水中に飛び込むつもりで息を止めた。



「カリナさま、息してください」


 笑い含みに背中を叩かれて、首に回した腕の力が抜けた。肺が膨らみ、酸素とともに清潔な香りが入ってくる。シャーロの香り。すぐに緑の青い匂いに混じってかき消えた。

 トン、と足が地についてもシャーロはカリナを抱擁したままで、彼女が自分の足で立てるかしばらく待ってくれる。


「ありがとう」


「いいや。怖かったのに、俺を信じてくれてありがとう」


「私はわりと、シャーロの言うことなら疑わないよ?」


 シャーロは嬉しいのか困ってるのか、といった顔をした。

 この娘は、俺のこと信じすぎじゃないのか。誠実に信頼を勝ち得るように行動しているが、あまりにもすんなりと。

 たった一人でこの世界へ投げ出された。信じる以外の選択肢が、彼女には用意されていないのか。

 そう思うと素直に喜べず、拳を握った。


The Trust Fall.

(盲信)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ