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We’re Your Side.

 王城の厨房に籠を返し、しばし待つ。


 見知った顔を見つけるなり背後から近づいて片腕を捻り上げた。


「知ってて巻き込みやがって。俺を旧舎に差し向けたのは故意だろう。あれから探したのに逃げてたな」


「おっしゃるとおり。お前なら助けになってくれると踏んだからだ。説明できなかったのは悪かったと思ってる。……だからこうして抵抗もしてないだろう」


 ぎりぎり、とターフェルの関節が悲鳴を上げている。


「俺程度じゃあの方をお救いするためになにもできない。

 ……お前にも働いてもらわなきゃな」


「了解」


 降参したのを確認して解放した。じゃれあいの喧嘩風を装って握手し、人目につかない場所へ移動する。


「情報ぜんぶ寄越せ。聖女さまについて、城内で起こってることもだ。俺がわかってるのはお前が聖女さまを逃したってことぐらいだ。教会はどうなってる」


「王城教会は駄目だ。大司教(アーキビショップ)カエソベリウスの命令で聖女さまは地下牢にいることになっている。一度奴の訪問があったが、牢番が上手くやりすごしてくれた。シャーロには引き続き保護を頼みたい」


「なぜ大司教さまが聖女さまを敵視する?」


「聖女さまより先に教皇さまを憎く思っていたようだぞ。それで教皇さまに召喚された聖女さまも、ってことだ」


 ターフェルは腕を組む。


「教皇フェリシッシムスさまがお亡くなりになったのは、聖女さまが召喚されてすぐだったものだから、召喚のせいで寿命を縮めた、毒を盛ったなどと難癖をつけてきた。医師は大往生だと言っているのにな」


「……そんな、阿呆な」


「聖女さまも言い返しちまったもんだからさぁ」


「なぜ大司教の身空でそんなにも気が大きいんだ」


「教会を手中に収めたいのさ。聖女カリナさまは真っ当で、懐柔できそうにない。だから適当な傀儡に首をすげ替えるつもりなんだ」


「どうやって。聖なる力を持つ存在は、ひとつの時代にひとりのみ。まさか手にかけるわけではないだろう」


 世界を救う神にも等しい存在を消すだなんて、愚かとしか形容できない。


「いまは召喚に躍起になってて聖女カリナさまに関しては後回しって感じだぜ。召喚は失敗続きだがな」


「よくご存知で」


 嫌味のつもりだったが、ターフェルは胸を張る。


「単純にお前から逃げていただけじゃない。これでも城内を調べ回ってたんだぜ。信用してくれるか?」


「カリナさまを誘導保護したのはお前だから、まぁ信じることにするよ。その後の放置はいただけないが」


「なんでだよ。生活はできてるだろう」


 食材だって運んでいたし、雨風を凌げる丈夫な屋根も、古くて埃まみれだっただろうが横になれる寝台もある場所に置いてきた。


「火の(おこ)し方も知らずに調理ができず栄養失調気味だった」


「……それは、予想してなかったな」


 軸からずれつつも、シャーロとターフェルは王城を抜け出すための作戦を詰めた。



****



 カリナの一時脱走決行日、シャーロにリリが付き添って出勤した。王城中心部に入るには特別な許可がいるが、ペリベイルに入るだけなら王城勤めの身内であれば簡単に入れる。

 これで、カリナの着替えを運べたことになる。街中を歩いていても注目を集めない。


「聖女カリナさま。シャーロ・ロバーツの妹、リリでございます。このような形ではありますけれど、ようやくお会いできて喜ばしく思います」


「リリさん、今日はご協力ありがとうございます」


「時間が惜しい。悪いが二人とも、さっそくお願いできるか?」


 カリナとリリは二階へ上がっていった。シャーロは一階に留まり制服を脱いで下に着込んでいた私服を晒す。

 ボタンと胸ポケットがついているだけの長袖シャツに、ゆるめの長ズボン。それに薄いジャケット。重ね着は苦しくはあったが、上手く隠せたと思う。



****



 カリナはリリと二人きりになり少しおっかなかった。リリはシャーロに似ているが、彼とは違い緑の瞳を持っていた。赤褐色の金髪(アウバーン・ブロンド)の色味でとてもあたたかい雰囲気をしている。が、言葉づかいから立ち居振る舞いからしてお貴族さまだ。そんな美少女と出会ってすぐに衣服交換をするという。胸と尻は成長途中だろうが、腹部なんてきゅうと細い。彼女のワンピースが入るのか不安でしかない。


「すみません。洗ったばかりの制服もあれば良かったんですが、これしかなくて」


 脱いだばかりの外衣(チュニック)を気持ち整えた。


「構いませんわ。ですが、替えの制服も持ってらっしゃらない、のですか? 支給されたりなどは?」


「王城の部屋にはあったんですけど、なにしろこちらに来たのが急だったのでほんとに着の身着のままといった具合でした。あ、ちゃんと毎晩洗って干しているので、そこまで汚れてはないと思うんですけど」


 色落ちはしてるかもしれないけど……と声が細る。


「ということは、手持ちはこちらの、一着のみですか?」


 こくん、と小さく頷くと、リリは体を震わせた。

 干している間、夜に寝るときは裸にシーツを巻いて寝ていた、と告白するカリナ。リリは頭痛とめまいを同時に覚えた。


「お兄さまは、なにをやってますの……!」


「シャーロとは、服の話はしたことないので」


 制服だったものだから、自分と同じで何着もある同じものを着回していると思っていたに違いない。


「ほんっっっとに気が利かない兄で申し開きもできませんわ! わたくしが用意いたしますわね。肩を少し詰めて、ウェストの位置も調節してあとは……」


「あ、え、でも、持ち込めるかどうか……」


「そこをどうにかするのが兄の役目ですわ」


 青筋を浮かべたまま微笑むので、カリナはなんて技術なのかと感心するほどだった。相反する感情を一度に表現するなんて、カリナにはできそうにない。ちょっと怖いけれど。



We’re Your Side.

(味方だよ。)

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