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Warn Me First!

「シャーロさん、頼りがいありますね」


「妹がいるからかな」


「そうでしたね。ええと、何歳かって簡単に人に聞いていいものですか?」


「妹が十四歳、俺が二十歳。年齢を年頃の女性に聞くときは気をつけてください。気にする人は大変気にする」


 忠告も耳に入らず、彼の告げた年齢に間抜け面をする。


「えっ? うそ、同い年?」


「カリナさまは十四歳?」


 見た目からの推測より多少若いが、妹と並べば体格は妹のほうが大きいからおかしくはないか。

 カリナはよりにもよって二択のうちそちらを選ぶなんて、と睨みつける。シャーロははじめてのカリナからの敵意にたじろぐ。


「だって、 同い年って」


「二十歳です」


「は?」


「にじゅう。さい。成人済み」


「そっ……そっち。すみませんでした……」


 しゅんとする大きな男に、そのうちカリナは笑い出した。


「まったくもう、気が抜けました」


「カリナさまだって、俺のことを歳上だと思っていたようですが?」


「それは、シャーロさんしっかりしてるし、……浮いた感じがしないせいかも」


 フッ、と笑われた。

 長男としてそこそこ厳しく育てられたおかげで、それなりに品性も身についた代償に若々しさを失ったらしい。


「遊んでると思われるよりマシか」


「ちゃらんぽらんには絶対見えないですよ。

 ……いまさらだけど、私も崩して話してもいいかな? こんな感じで」


「俺は全く構いません。カリナさまのほうが身分が上ですし、どう振る舞おうとも本来なら俺が口出しすることじゃない。身を守るために、教えることはあっても従う義務はありません」


「なんか口調が定まってないよ」


「いや、なんか、……そう、悪いなって」


「年齢のことはもういいよ。私まだこの世界について詳しくないから、文化でも毎日のことでもほんとになんでも教えてほしい。無理でなければ、友達の目線で」


 友達になろうよ、という願いに近い提案だった。

 いまはシャーロにすごく寄りかかってしまう未来しか見えないけれど、いつか恩返しできるように努力するから。


「エチケットや風習については、もちろん力になります。友達としては、おいおいがんばります」


「よろしくお願いします、シャーロ」


 カリナは握手のつもりで手を差し出した。シャーロはその手をとり、彼女の指を握り込みながら引き寄せ腰を折る。

 ちゅ、と中指の第一関節にやたら柔らかいものが当たったような。指先に甘い蜜をかけられたように感じた。


「お望みに応えられるよう努めます」


 石のように硬直しているカリナの顔は真っ赤に染まっている。

 ピンク色になった手を解放したシャーロは彼女の取り乱しようにわけがわからない、と見上げたままの姿勢を保つ。挨拶は実家で貴族の相手もしてきた彼には至極当然の社交上の習慣のひとつでしかない。

 これは握手だ、と事前に言わなかったカリナに非がある、と理性が主張する。けれど感情は別だ。


「な、な、……なにするの!」


ごあいさつ(ハンド・キッシング)。は……カリナさまが手を差し出したので。すみません身に染みついてまして」


「次からは誰にも手を出さないことにします!! こういうことも教えてください! いまのは私が悪いけど!」


 恥ずかしがるカリナが可愛くて、シャーロが緩む口元を覆った。


「聖女は王族に並ぶ尊いご身分なので。位の高い女性から手を差し出されたら、それはハンド・キッシングを許す、という合図になります。公の場でも、そうでなくても、カリナさまを敬う者なら当然の反応と思っていい」


「もー、やだ……この世界で生きてく自信失くす」


 カリナは手で煽って顔を冷やそうとしている。


「俺相手で失敗しといて良かっただろ」


「そうだね、誰かの前でやらかさなくてよかった」


「俺もまだちゃんとわかってなかった、もっと気を配ります」


「はー。ほかに挨拶の仕方は? 握手はないの?」


「握手はある。ほかには軽く手を上げるだとかお辞儀したり、男性だったら帽子を持ち上げる、女性なら膝を折る、くらいか。

 逆に教会の中では挨拶はしないな。目が合ったら微笑むくらいで、頭を下げることもしない。教会を出るまで『はじめまして』も言わないでいい。どうしても知り合って話したいなら教会の外で、だな」


「教会の中でははじめまして、を言わないの? どうして?」


「馴れ馴れしすぎるから」


 カリナには理解しがたい感覚だった。


「うーん……そういうもの?」


「教会は基本お祈りを捧げる場所であって社交の場ではない。……ああ、結婚式は別か」


「そう言われると、わかるかも」


「あとは……親交を深めた相手だとチーク・キッシングやハグもするな」


「親しい仲のチーク・キッシングって、男女間でもあるの?」


「ある。どの性別の組み合わせでも、友人なら。ほんとうに頬にキスするわけではなくて、頬同士をくっつけて、唇で音を立てるだけだ。こう、」


 シャーロが無防備のカリナに頬を寄せて、リップ音を響かせる。素早く離れてから、彼女の異変にハッとした。


「頬に唇をつけるのは恋人同士だけ、だか、ら……カリナさま?」


 少女は目を閉じて小さく震えている。耳まで色が変わっている。


「実践は!! 一声かけてほしい!!」


「……すみませんでした……」


 両者のスキンシップのやり方に大きな隔たりがある。


「カリナさまの文化はかなり奥ゆかしいように思える」


「むやみやたらと唇を相手の体のいかなる部分にも近づけたりしないの。ハグもしない。恋人以外には」


 刺々しい口調に黙って苦笑いを返した。カリナの信義に背いた直後のシャーロには分が悪い。


Warn Me First!

(事前に一言ください!)

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